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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第23章 4.何も出来ないもどかしさ

 それから、なんやかんやで場の喧騒も治まったところで…


「ターニーちゃん、久しぶりだねぇ…、あの本家での晩餐会以来…数年ぶりか……。おっきく立派になったもんだ……。君のジオスでの活躍は予々(かねがね)聞いてるよ」


「本当によく遥々来てくれたわねぇ…。ゆっくりしていってね?」


「ようこそウェルザへ、ターニー…。確かマルゴスさんの魔道工学の研究を手伝うために来たんだっけ? 僕も工学にすごく興味があるんだ。後で語り合おうよ?」


「おっ、お久しぶりね…ターニー……。こっちに来る来るって言いながら、随分と遅かったじゃないっ…? べ、別に寂しかったわけじゃないんだからねっ…!」


 南家一家の温かい歓迎を受けるターニー。


「ところで…、マルゴスさんの研究を手伝うために君がフェルトに来る話は、以前からウチの子から聞いてるが…、この状況下でどうやってジオスからここまで来たんだい? ひょっとしたらアスタリア号に乗って来たのかな?」


 レイチェルも語っていたが、アスタリア号の魔燃料石運搬を裏で取り仕切っているのはエクノスである。


「『アスタリア号』ってどっかで……ああ、思い出したっ、クラリスお姉さんたちがヴェッタから乗って来たという船ですよねっ…? 今こっちにあるんですかっ?」


「えええっ…!?、タ、ターニーっ……アンタお姉様たちと会ったのっ…!?」


「な、何だとっ…?、クラリスちゃんとリグは今どこにいるんだっ…?」


 『アスタリア号』というキーワードに、ターニーは敏感に反応する。

 だがフェニーチェとエクノスは、彼女からクラリスたちの名のを聞いて、それ以上に飛び付く勢いで尋ね返す。


「ええ…、ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ……」


「ちょっと二人ともっ…、ターニーちゃんが困ってるでしょ? 落ち着いて順番に聞きなさいな…」


 まごまごするターニーを前に、二人をやんわりと窘めるペリア。


「大丈夫です、伯母様…、その…ちょっと信じてもらえないかもしれないんですけど……」


 さすがのターニーも、あのデール族の里での出来事を他人に話すのは、少々気が引けるようだ。

 案の定、彼女からこれまでの経緯を聞いた皆は、家族仲良く揃って口をポカンとさせていた。


「デール族の人々が暮らす島があって、そこにあの二人は流れ着いて、しかもそこはクラリスちゃんの遠い先祖の故郷で、二人は島の(おさ)に気に入られて家族同然に暮らしていて……で、そこ島には竜が生息していて、君はジオスでその竜を保護して島に戻った時に二人に偶然再会したと……。う〜ん……理屈で考えれば考えるほど、頭が痛くなる話だなぁ……。いや…もちろん嘘は言ってないんだろうが……」


 片手で頭を押さえて、エクノスは小難しく顔を(しか)める。

 そんな中で、フェニーチェ。


「ね、ねえっ…、お姉様たちはヴェッタにいるフェルカお姉様を探して、フェルトを出たのっ…。さっきアンタ『お姉様たちがヴェッタから船に乗った』って言ってたでしょっ…? フェルカお姉様のこと、何か聞いてないっ…?」


 居ても立っても居られない様子でフェルカのことを尋ねる彼女に、ターニーは沈痛に真相を告げた。


「………フェルカお姉さんは……亡くなったよ…ヴェッタで……」


「そ、そんな……」


「フェ…フェルカちゃん……」


 クラリスと同じぐらいに、フェルカを姉として慕っていたフェニーチェ。

 そして、病弱で不遇な彼女のことを常に気にかけていたペリア。

 二人は一瞬にして、悲しみのどん底へと突き落とされる。

 そんな彼女らへのせめてもの心慰めで、ターニーは言葉を続けた。


「でも…お姉さんたち言ってました……。ヴェッタで一生の愛を誓いあえる人と一緒になって…、短かったけどすごく幸せな最期だったって………」


「そう…、なら、あの子はちゃんと意味のある人生を送れたのね……よかった……」


「ううっ……うえっ……」


 咽び泣くフェニーチェを抱き締めながら、ペリアは安らかな顔で静かに涙を流す。


「そうか…、あの雑誌のフェルカちゃんの写真を見て、すごく生き生きしてるように見えたのは気のせいではなかったんだな…」


「そうですね…。でもクラリス姉様たちも、最後を一緒に過ごすことが出来て…本当によかったですね……」


 一方のエクノスとバラッド…、二人は傷心を抱きながらも、切にフェルカの魂の安寧を祈るのだった。




 さてそれから、まだまだ立ち直れそうにないフェニーチェを連れて、ペリアは部屋から退出する。

 エクノスとバラッド、そしてターニーの三人で、引き続き話は行われた。


「中断してしまってすまないな、ターニーちゃん…。それで、さっきの続きだが、クラリスちゃんたちはまだその島にいるのかい? で、君はまさかその竜に乗ってここまで来たと……?」


「はい、そうです。周りから見られないように、迷彩結界をかけて近くの森林の中に隠してます。『大人しくしててね』って言ってあるので、たぶん大丈夫かと思うんですけど……。クラリスお姉さんたちはもうそこにはいないと思います。族長のルロドおじいさんの元で転移術を覚えて、ジオスに戻るって言ってました…」


「りゅ、竜を隠してるっ……?、それに転移術ってなんだ……? いや、そんなことよりも、あの二人はこの状況下でジオスに戻ろうとしているのかっ…?」


「はい…、今もジオスで戦っているみんなを放ってなんておけない…、それにアルテグラ伯父様の仇を取りたいって言ってました…」


「な、何てことだ……、まさかそんなことになっていたとは……」


 衝撃の事実に打ち震えるエクノスとバラッド。


「どうしましょう…父上……」


「ううむ…、あの二人に連絡を取る(すべ)などないしなぁ……。ターニーちゃん、ならばクラリスちゃんたちは今ジオスにいるってことか…?」


「はい…、大体1週間後の蒼月の夜に、転移を決行するって言ってました…。なので今頃はたぶん……」


「そうか…、ならばアスタリア号の(つて)を頼って、ジオスであの二人のことを探してもらおう…。我々に今出来ることはそれぐらいしかないからな…。ここで狼狽えても仕方がない……」


 クラリスとリグの安否に酷く気掛かりを覚えながらも、エクノスは冷静沈着に話に終止符を打った。


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