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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第23章 3.女の嫉妬は怖い

 さて、その日の夜…、ここはセンチュリオン南家邸。


 チリーンッ…チリーンッ……


「(一体誰だろうか…、こんな時間に……)はい、どちら様でしょうか…?」


 夜分の訪問者を不審に思いながらも、事務的に応対する使用人だったが……


「こ、これは警察の方……、一体どうなされましたか…?」


 玄関の前にいたのは大柄な警官だった。


「遅くに申し訳ありません。いえね、この少女が貴家へ行きたいと交番を訪ねて来まして…、怪しいといいますか、何か事情があるのだろうと思い連れて来たんです」


「えっ…?、少女なんてどこに……」


 使用人が目を凝らして周囲を確認しようとした、その時……


「あのう…、こんばんわぁ」


 ターニーは警官の後ろからひょこっと顔を覗かす。


「えっと…この子ですか…?、黒髪…どこの子だろう……。わかりました、とにかくすぐに主人を呼んで参りますっ…」





 こうして…


「失礼します、旦那様……、実は…警察の方が一人の少女を連れて来られているのですが……」


 エクノスと妻ペリア、さらにバラッドとフェニーチェ…、親子四人で団欒している場に飛び込んだ使用人。


「『少女』だって…?、一体どういうことだ…?」


「わかりません…。ただ警察の方が言うには、『何やら口外するのが憚られる、()()()()()があるのではないか』と……」


 決して悪気があるわけではないのだろうが…、使用人は警官の言葉を恣意的に解釈して、含みを持たせた物言いをする。

 ちなみに彼が、ターニーの姿を知っているはずもない。

 ただせめてこの時、『黒髪の少女』だとか、家族の誰しもがわかる特徴を伝えていれば、この後に起こる大惨事は回避出来ていたかもしれない。


「『複雑な事情』ってなんだ……?」


 話を聞いて、エクノスはちんぷんかんぷんな様子で首を傾げる。

 ところが…


「あなた……」


 感情が凍て付いた、骨の芯にまでズシンと伝わるほどの重い重い声…。

 和やかな一家団欒の場は、一瞬にして公開処刑の場と化した。


「ちょっ、ちょっと待ってくれっ…!?、ペリアっ、な、何を勘違いしてるんだっ……?」


「ここ最近、夜な夜な帰りが遅くておかしいって思ってたけど……、そういうことだったのね…。一度ならず二度までもっ……」


 かつて浮気の前科があるエクノス。


「ちょ、ちょっと落ち着けってっ……、ここ最近帰りが遅かったのは、政治家の先生方との付き合いのためだろうっ…! 今まで皆には黙ってたが、僕はジオスのレイチェル様に協力してロビー活動をしてたんだっ…。それに仮にその子が僕の隠し子だったとしても、それはもう何年も前の話ってことになるだろうっ……?」


「まあっ…、『隠し子』ですってぇっ……、私やこの子たちがありながら、あなたって人はぁっ…!、もう許さないわよっ…!」


「うわぁっ…、やめてくれぇっ…!」


 なまはげの如く怒り狂うペリアの前に、最早謝罪以外のどんな言葉も意味を成さなかった。


「お兄様……どうしよう……」


「うーん…、今は何したって無駄だよ…。二人がヘトヘトに疲れて冷静になるのを待つしか……」


 追う妻と追われる夫…。

 室内で年甲斐もなくドタバタ劇を演じる両親を前に、フェニーチェとバラッドは途方に暮れるが……


「皆様っ、大丈夫ですかっ………な、なんだ……」


 修羅場の一部始終は玄関にも丸聞こえだったのだろう…、警官が室内に突入して来た。

 そう濃くはない毛髪を掴まれて許しを乞うこの家の主人の姿に、思わず彼の言葉が詰まったのも無理はない。

 すると…


「こんばんわぁ、何だか賑やかですね!」


 またもや大きな警官の後ろから、ターニーはひょこっと顔を出す。


「………ッ!?、タ、ターニーっ…?」


「ど、どうしたんだいっ…?、どうして君がここにっ……」


 咄嗟に驚倒するフェニーチェとバラッド。


「遅くなっちゃったけど、みんなとの約束を守りに来たんです。あっ、これお土産です、どうぞ!」


 殺伐とした空気などお構いなしに、無邪気に笑ってバターケーキの残りを差し出すターニーだった。




 そうこうして、ようやくペリアの誤解も解けたわけだが……


「まったくっ、お前は…、早とちりにもほどがあるぞっ…! おかげでとんでもない醜態を晒してしまったじゃないかっ…!」


「悪かったわよ…疑ったりして……。でも元はと言えば、過去のあなたの過ちのせいでしょっ…? 少しでも怪しいところがあれば疑っちゃうのは当然じゃない」


「ぐぬぬぬ……」


 後ろめたそうな態度を見せながらも、居直って言い逃れをするペリアの前に、エクノスは苛立たしく歯を軋るしかない。

 かつての軽い出来心での情事の代償は、夫婦生活の一生に重くのしかかるのだった。


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