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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第23章 1.空の上からこんにちわ

これより第23章、第20章でクラリスたちと別れてデール族の里を発ったターニーの話の続きです。小さな大魔導士が、文明大国フェルトの中心ウェルザに降り立ちます。

 巨壁のように乱立する高層建造物に、コンクリート舗装された大動脈…、そこを大河の如く絶え間なく流れる自動車たち…。

 馬車の姿も見られるが、最早往来の主役の座を奪われたそれは、大きな道の端っこに追いやられている。

 鳥になった気分で遠くに目を遣れば、長編成の蒸気機関車が灰黒の煙をモクモクと巻き上げて、広大な平野を駆け抜ける。

 ジオスと同じ世界線上に存在するとは思えないこの近代的な光景…、そう、ここはクアンペンロード一の文明国フェルト。

 さらにその首都で、“花の都” と称されるほどの繁栄を謳歌するウェルザである。

 無論この国も、急激な産業化と経済発展により、環境破壊や貧富の格差の増大、価値観の歪みや心の病など…、深刻な社会問題を多々抱えている。

 それでも、隣国(ジオス)の混沌など全くの嘘かのように、人々は表面上は至って平穏に暮らしている。




 さて、そんな “メトロポリス” の上空にて…


 ブオオオオンッ!!!


 轟音を(とどろ)かせて、天空を我が物顔で疾走する、金属に覆われた巨大な筐体…。

 両翼を雄々しく携え、先端の2枚羽のプロペラはゼロに等しい時間隔で空気を切る。

 そう…、これはなんと飛行機。

 フェルトの止まることを知らない技術の発展は、ついに人類を空へと旅立たせた。

 今はまだ試験飛行の段階だが、政府は数年後にフェルト国軍に航空部隊の創設、さらには10年後を目処に国内便の運航開始を目指している。

 ところで…、今この飛行機に搭乗しているのは二人の男たち。


「すごいっ、高度1000メートル突破! すごいっすよ、先輩っ、テスト飛行で最高記録を叩き出しましたよっ! 今日はスモッグもあんまり酷くなくて見通しもいいし、最高の1日っすね!」


「おいおい、こんな程度で大はしゃぎしてんじゃねえよ、後輩よ。俺はもっとでっかい目標を持ってんだぜ?」


「『もっとでっかい目標』…?、そうっすよねぇ、あの雲の上までは行ってみたいっすよねぇ」


「ばーか、男がそんな中途半端な目標を持つんじゃねえよっ。俺の目指す先は…そのもっと向こう側だ」


「じゃあ…、先輩はどこまで行きたいって言うんっすか…?」


「ふふふふ…、聞いて驚くなよ、後輩よ…。俺が目指すのは “月” だっ。最近は空気も澱んで、綺麗な月が見える日もすっかり少なくなっちまったが、あの神々しく輝く姿を間近で見てやるぜ!」


「ひょえええっ…、そりゃあすごいっすねぇっ…、ロマンっす! でも、そんなこと言ってたら、ジオスの人たちに怒られそうっすねぇ…。あの国はほとんどが月理教徒だから…。『神を冒涜するな』とか言われて……」


「へんっ、(なあに)が神だ…、くっだらねえ…。国ぐるみで “神” だとか、そんな旧態依然なことばっか言ってるから、いつまで経ってもあそこは未開なままなんだよ。ジオスに憧れを持ってる人間もいるが、あんな遅れた国の何がいいのか、俺にはさっぱりわかんねえ。俺は月へ行って、フェルトの技術が神や魔術なんぞよりも偉大だってことを証明してやるんだ!」


「うおおおっ、カッコいいっす!、(おとこ)っすっ、先輩!」


 『いつか月へ行く』という壮大な夢を語り合って、前後席に分かれた狭いコクピットで大いに盛り上がる男たち。

 この先数十年後、あるいは数百年後になるかはわからないが…、いつかはこの世界の人々も、宇宙へと飛び立つ日が来るのかもしれない。




 それから…


「そういえばジオスで思い出したんっすけど、どうやら政府が、ついに状況次第では内戦に介入する意向を示したみたいっすね。今朝のラジオでやってましたよ」


「ああ、俺も今朝の新聞で見たよ…。まったく…かなわねえよなぁ…、何で俺らが他国の内戦に介入しなきゃなんねえんだよ…。その費用だって、全部俺らの血税なんだぞ…、やってらんねえよ……」


「でも、そうは言っても、内戦の影響でジオスからの農産物の輸入も滞りがちで、物価も上がってますからねぇ…。ほら、先輩が大好きな煙草の “ムーンセブン” …、あれだって確か、ジオス産の煙草葉使ってるんじゃなかったっすか?」


「まあな…、だからここんとこ急激に値上がりしてて困ってんだよぉっ…。ただでさえこないだ車買って、小遣い減らされたばっかだっていうのによぉ……」


「世知辛いっすねぇ…、易々と結婚なんてするもんじゃないっすねぇ……」

 


 ………………………


 そんなこんなで、時には世間話をしたり愚痴を吐いたり…、順調に試験飛行を続ける二人。

 ところが……、その時っ!


「こんにちわっ〜、すっごいですねっ〜、これ空飛べるんですかぁっ〜?」


「………んっ…?、先輩…、今、外から女の子の声が聞こえなかったっすか…?」


「バカなこと言うな…って言いたいとこだが……、まさかお前もか…後輩よ……」


 プロペラ音と風切り音の間を縫うようにして、男たちの耳に飛び込んで来た少女の声…。

 とは言っても、今ここは地上から1000メートル以上も離れた上空だ。

 いくらなんでも空耳だろうと確信しつつ、二人は惰性でその方向を振り向いたのだが……


「………ギャアアアアアアッ!!!」


 とてもではないが、眼前の光景をすぐには脳が受け入れられなかったのだろう。

 数秒間石のように固まった後、男たちは気が狂うほどに絶叫した。

 彼らが見たもの……、それは飛行機よりも巨大で悠然と空を飛ぶ、とある空想上の生き物…。

 そして、その背に当たり前のようしてに乗っている、黒髪の少女…。


「あっ、ごめんなさ〜いっ、驚かせちゃってぇっ、ワザとじゃないんでーすっ! こんな空の上で人に会えて、つい嬉しくてっ〜、声かけちゃいましたぁっ! 私たちっ、ずっと空の上を旅してきたんで、人に会えるの久しぶりでぇっ!」


 そう、それはあのデール族の里から愛竜ミーちゃんとともに旅立ち、ついに目的地のフェルトにやって来たターニーだったのだ。

 今はトレードマークである三角帽子を脱いで、彼女は艶やかな黒髪を軽やかに(なび)かせている。

 本当に嬉しかったのだろう…、ターニーは愛嬌ある丸っこい顔を屈託なく微笑ませて、男たちに大声で話しかけるが……


「せ、先輩……お、俺たち…一体何見てるんっすかね……」


「お、落ち着け後輩よ……、こ、これはアレだ……ゆ、ゆ、ゆう…霊じゃないか……。こ、このまま俺たちを…死後に世界に連れ込もうとする……」


「そんなわけないじゃないっすかぁっ…、幽霊がいたとしても、竜に乗った幽霊なんて聞いたこともないっすよぉっ……」


 機内で顔面を真っ青にさせた男たちは、支離滅裂に会話を交わすしかない。


「それにしても、フェルトの技術ってすごいですねぇっ。こんな空飛ぶ乗り物まで作っちゃうなんてぇっ。私も魔導工学に興味があるんで、すっごく刺激になりまーすっ。じゃあ、みなさんっ、お気を付けてぇ〜!」


「ピィーッ!」


 挨拶代わりの愛らしい鳴き声を発して、ターニーを乗せたミーちゃんは颯爽と彼方に消えて行った。




 ところで、残された男たち…。


「ああビックリしたぁっ……。あれは本当に何だったんすかね…先輩……」


「そ、そうかっ…、わかったぞ、後輩よ…。高度1000メートルも超えると竜が生息してるんだっ…。これまで目撃されたことがなかったのは、人々の目なんて行き届かない遥か上空だったからだっ…。これはすごい…世紀の大発見だぞ……。今度の飛行の時は写真機も持って来ようっ…、そして決定的な瞬間を押さえて、その写真を新聞社にでも売れば……車のローンだって完済出来る……ふふふふ……」


「なーに言ってんっすか、先輩…、しっかりしてくださいよ……。こんなんじゃ、月へ行くなんて夢のまた夢っすねぇ……」


 彼らの月への偉大なる挑戦は、まだまだ始まったばかりである。


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