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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ


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第22章 最終話.これからのこと

 そんなわけで、結果として良い機転となったヘリオの言葉により、張り詰めた室内の空気も心なしか(ほぐ)れていた。


「お前たちの決意はよくわかった…。もうこうなったら、アタシもお前らの覚悟を受け入れる…。『意志に変わりはない』と、(しか)とレイチェル様にお伝えするよ…」


「はい、お願いしますっ…」


 ついに腹を括ったアリア…。

 ビバダム、スコット、フェニスも決して納得など出来ないが、それでも最早異を唱えようとはしなかった。

 そんな中で…


「すっかり時化(しけ)た雰囲気になっちまったが…、実はお前らを呼んだのはこれだけじゃないんだ。もう一つ話があってな…、お前らのこれから先のことについてだ」


 アリアは一転、表情を穏やかにさせると、唐突に話題を切り替えた。


「えっ?、何ですか…?、『これから先のこと』って……」


「まさか……、これから先、修行漬けの日々とか……」


「はははは…、そう不安そうにするなよ…。リグ、お前顔真っ青になってるぞ…? でもまあ、人生を振り返った時には、これも “修行” ってことになるのかなぁ。姉貴、ちゃんと用意してくれたよな?」


「ああ、もちろんだよ」


 意味深に仄めかして、不意に姉のフェニスに話を振ったアリア。

 一方、妹からの合図を受けたフェニスは、部屋の端に置かれていた二つの平箱を皆の前に持って来た。

 何の変哲もない、さっきまで誰もが意識すらしなかったこの箱。

 ところが…


(あれっ…?、私たち(俺たち)の名前……?)


 何故かその二つの箱には、クラリスとリグ…二人の名前がそれぞれに書かれていたのだ。


「何ですか…?、この箱……」


「そうだなぁ、アタシたちからお前らへのプレゼントと言ったところかな? まあ、とにかく開けてみろよ?」


 破顔が抑え切れない様子のアリアに促されて、二人はそれぞれの名が付いた箱をそっと同時に開ける。

 その中に入っていたもの…、それは衣服だった。

 クラリスの方は、くすんだ青のジャケットとプリーツスカート、白のブラウスに大きな赤色のリボンとクリスタルブローチ。

 リグの方は、同色のジャケットにスラックス、白シャツに赤色の紐タイと銀色のブローチ。

 箱の中身を見た瞬間、クラリスは感慨のあまりに震え声を漏らす。


「こ、これって……学院の…制服……」


「ああ、そうだ。実は今、学院フォーク校の校舎を使って学校を運営してるんだ。一応、旧魔導学院を引き継ぐ形にはなってるが、地元の子供たちにもちゃんと門戸を開いてる。そりゃあ王都の学院に比べたら足りないもんだらけだし不便も多いけど…、それでもなんやかんやで賑やかにやってるよ。お前の友達のソラやスノウたちもみんな通ってるしな。行くだろ?、学校」


「はいっ、もちろんです…!」


 クラリスは目に涙を溜まらせながら、アリアの問いに即答するが……


「うへぇ…学校かぁ……。みんなと楽しくワイワイできるのはいいけど、今さら勉強なんてしたくないなぁ……」


 一方のリグは、あまり乗り気ではないようだ。


「こらこら…、そういうこと言うもんじゃない。クラリスと力を合わせて家を立て直すつもりなら、なおさら一生懸命勉強しないとダメだろうがっ。それにな…、アタシらは教師として、まだまだお前らに教え切れてないことがたくさんあるんだ。少しは先生の顔も立ててくれよ…」


「まあしょうがねえなぁ…、先生がそこまで言うんだったら、付き合ってやるかぁ」


「調子に乗るんじゃないっ」


 アリアは図に乗るリグの頭をペシっと叩く。

 だがリグは、頭を押さえながらも屈託なく笑っている。

 ああは言いながらも、やはり彼も満更でもない様子で嬉しそうにしていた。




 すると…


「なあ、お前たち、せっかくだしちょっと着替えてみたらどうだ?」


 ヘリオの提案で、クラリスとリグは真新しい制服を身に(まと)って、皆の前に再び姿を見せた。


「うんっ、二人とも良く似合ってるぞ」


「本当だね…、ただあの頃に比べて随分と逞しく見えるねぇ…。二人とも成長したんだね…」


「また君たちを教えられると思うと嬉しいよ」


「あれ…なんだろ…?、なんで俺…目から涙が……」


 制服姿の二人を囲んで、談笑に花が咲く一同。

 その様はまるで、晴れ晴れと進学する我が子を祝う、父兄の姿さながらである。

 そしてクラリスとリグも、下ろし立てでゴワゴワ感が残る制服に初々しさを覚えながら、いじらしくはにかむ。

 ところで…


「それにしてもこの制服、サイズがピッタシですね…。私たち採寸なんてしてもらってないはずなのに……」


「ほんとだよな…、昔着てたやつよりも全然体に馴染む…」


「そういえばそうだねぇ…。この子たちも育ち盛りで、体も大きくなってるはずなのに…。私はアリアに言われた通りに注文したんだけど…、アンタどうやってサイズを測ったんだい?」


 ふと疑問を呈したクラリスとリグ…、それに乗っかってアリアに突っ込むフェニス。


「そ、そりゃあ…、お前らの体格を見れば、制服のサイズぐらいパッとわかるよ……、どんだけの付き合いだと思ってるんだ……あははは……」


 顔を引きつらせて、アリアは大層苦しそうに弁明を述べる。

 実は彼女が、クラリスたちの制服を発注するに当たって訪ねた人物…、それはなんとアイシスだった。

 これまで玩具人形の如く、散々二人の体を “お触り” し続けて来た彼女…。

 そのせいで、二人のサイズ感を自身の手でしっかりと覚えていたのだ。

 無論、アリアとしても極力お世話になどなりたくなかったが…、それでも “サプライズ欲” の方が(まさ)ってしまったようである。

 誤魔化しが下手くそなアリアを、訝しげに見つめる一同。

 ところがその時…


(………ッ!?)


 アリアの危機感知センサーが、窓の外に何者かの存在を察知した。

 ちなみに今いるこの部屋は3階…、普通に考えればそこに人などいるわけがないのだが……


(ふへへへ……クラリスちゃ〜ん…待っててねぇ……。今お姉ちゃんがお迎えに行ってあげるからねぇ……)


 なんと外壁をよじ登って迫り来る女の姿…。

 あと一歩で部屋の窓に到達しようとしていたが……


 ガラッ!


「…………………」


「……さ…さよならぁ……」


 鬼の形相のアリアに睨み付けられて、その女は虫のようにカサカサと降りて行った。


「あのぅ…先生…?、一体どうしたんですか…、いきなり窓なんか開けて……」


「い、いやっ、何でもない……。ちょっと暑くなったんで夜風でもと思ってな……。そ、そうだ…、そろそろアタシはレイチェル様の元に行かなくてはっ……。じゃあお前ら、また後でな……」


 そう告げて、アリアは忙しなく部屋から出て行った。





(まったくっ、あの人は……、追い返しても追い返しても、あの手この手でやって来るなぁ…。大きな恩義はあるが…、さすがにこれ以上調子に乗らせちゃあいけないよな…。ここらで一遍(いっぺん)締め上げておくか…)


 何やら不穏なことを考えながら、アリアはクラリスたちの意志を伝えるべくレイチェル邸へと向かう。

 理屈ではもう割り切ることが出来ていても、どうしても感情がその足取りを重くさせる。

 そんな遣り切れない心持ちが雑念で少しでも紛れるのなら…、アリアはアイシスを締め上げた後に、一言礼を言ってやろうと思うのだった。


第22章はこれにておしまいです。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。次章は久々に文明国フェルトが舞台のお話となります。

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