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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ


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第22章 30.託された想い受け継いだ想い

 その日の夜のこと…、クラリスとリグはアリアに呼ばれた。

 ちなみに二人は現在、アリアの居宅で世話になっている。


 コン…コン……カチャ……


「失礼します、先生…、用事って何ですか…?」


 特に気構えることなく、アリアの自室の扉を開けたクラリスとリグだったが……


「えっ…?、ど、どうしたんですかっ…?、皆さん……」


「うわっ…、一体なにっ…?」


 そこにいたのはアリアだけではなかった。

 アリアの姉で二人にとっての恩師でもあるフェニス…、また元アリア隊の一員で、除隊して教職に就きクラリスの担任になったスコット…、さらにはヘリオとビバダムまで……

 錚々(そうそう)たる面々が、決して広くはない室内で二人を待っていた。

 面食らって呆然とするクラリスとリグ。

 ただ一方で、皆の表情は一同に暗く沈んでいる。

 その様子だけで、これがアリアお得意の “サプライズ” などではなく、ただならぬ用件であることは容易に察しがついた。

 フェニスやスコットとも再会の喜びを分かち合いたいが…、そんな憩いのひと時すらも憚られる雰囲気だ。


「すまないな二人とも…、驚かしちまって……。ちょっと大事な話があるもんでな……」


「い、いえ…大丈夫です…。それで…話って一体何ですか……?」


「なんか怖えよ…、先生、早く言ってよぉ……」


 見る見るうちに表情に不安を募らせるクラリスとリグ。

 アリアは居た堪れなくも、二人に先の軍議でのレイチェルの言葉を伝えた。


「今日の昼間の緊急軍議で、王城を急襲してゲネレイドを暗殺するための特務隊が結成されることが決まった…。決行日は1ヶ月後…。そして…、その特務隊のメンバーの中に……お前ら二人が指名された……。レイチェル様直にな……」


「ええっ…?、ほんとですかっ…!?」


「マジかよっ……、あの王女様、とんでもねえこと考えるな……」


 ぶったまげるクラリスとリグだが、それはあくまで自身らのことではなく、暗殺作戦そのものに対しての反応のようだ。

 そんな無自覚な二人を見て、もどかしさで歯をギリっと軋りながら、アリアは淡々と話を続ける。


「お前らがデール族の里で修行を積んだ話をお聞きになられてな…、どうやらお前らを主要な戦力として見做されたようだ…。ただ一方で、所詮子供は子供…、後先を考えずにその場の感情で口走ることもあるだろうと……。もしも、お前らがレイチェル様の前で言ったことが大言壮語に過ぎないのなら、取るに足らない子供の冗談として、このことは水に流すと仰っている…。しかし…、それでもなお決意を変えるつもりはないというのであれば…、これ以降の前言撤回は認めない……お前らを特別扱いすることなく、一戦力として皆と平等に扱うと……。今日中にレイチェル様に回答をしなくてはならない……。急ですまんが…、今この場で決めてくれ…」


「……………………」


 クラリスとリグに唐突に突き付けられた、二者択一の選択…。

 さすがの二人も、事態の重みを逼迫するほどに痛感して言葉を詰まらせた。


「クラリスちゃん、リグ君っ…、君らの気持ちはわかるけど……頼むっ…思い直してはくれないかっ…? 君たちの想いは、俺らがしっかりと受け継ぐからさっ…」


「そうだよ、二人とも……、せっかくこうやって帰って来れたんだ……。これまで散々辛い目に遭って…ようやく平穏な日々が過ごせるっていうのに……、こんなこと悲し過ぎるじゃないかっ…!」


「一教師として…、大事な教え子を戦場に行かせるわけにはいかないよっ…!」


 揺れたクラリスとリグの心に畳み掛けるようにして、ビバダム、フェニス、スコットが衷心の想いで訴える。

 そんな中でヘリオだけ、腕を組んで険しい顔のまま無言を貫いている。

 その様はまるで、二人の覚悟のほどを厳しく見定めているようにも見えた。

 しかし、大人たちの切なる願いも虚しく……


「ごめんなさい……私たちは…それでも戦いたいです……」


「みんなの気持ちはすげえわかるけど……それでも俺たちは父上の仇が取りたい……」


 眼前の二人の子供の意志は、梃子でも動こうとはしない。


「いいやっ、悪いけどここは僕だって引き下がれない…! その気になったら、レイチェル様の命に背いてでも…、君たちを縛り付けてでも行かせたりはしないよっ!」


「そうっ、ビバダムさんの言う通りだっ…! 君たちが死んでしまったらっ…、多くの人たちを絶望の底に突き落とすことになるんだぞっ…? そんな未来なんてっ…僕は見たくないっ…!」


 普段は比較的温厚なビバダムとスコット…。

 だが、頑なに信念を曲げないクラリスとリグの前で、二人の言葉にも怒りが帯びる。

 それでもクラリスは、その熱を真正面から受け切るが如く、凛として答えた。


「大丈夫ですっ…、私たちは絶対に生きて帰ってきますからっ…。確かに、まだここを目指してた頃は、ただ父の仇を取ることだけしか考えてなくて…、自分の命のこととか将来のことなんて漠然としか思ってなかったけど…、今は違います…。私たちは父の教え…それに私たちに託されたみんなの想い……それを受け継いで私たちの家を再興しなきゃいけない使命があるんですっ…。だから、絶対にこんなところで死ねませんっ…。お願いですっ、私たちの我儘を許してくださいっ……お願いしますっ…!」


「お願いしますっ!」


 クラリスとリグは深々と頭を下げ、声を大にして皆に懇願した。

 すると…


「もう諦めろ…お前ら……、こいつらの覚悟は本物だ…。ぶん殴って言うことを聞かせようとしたとしても、この子たちは決して意志を曲げまいよ…」


 ここまで沈黙を貫いていたヘリオが発した言葉は、クラリスたちの側に立つものだった。


「それにだ…、たとえこいつらが特務隊に加わったところで、俺らがこいつらを守ってやればいいだけの話だろ…? それとも何か?、ビバダム…、一度は恋焦がれた女の子をお前は守ってやれないとでも言うのか?」


「えっ……、ちょっ、ちょっとっ…ヘリオさんっ……な、何を……」


 顔面を真っ赤にしてしどろもどろになるビバダム。

 (いかめ)しかった顔も一瞬にしていつもの冴えない顔に戻り、シリアスなムードが台無しである。


「えっ…?、『恋焦がれた女の子』って誰のことですか?、ビバダムさん…」


「ああ…い、いやぁ……はははは……だ、誰のこと…なんだろうねぇ……」


 この中で “ビバダムの恋” を知らないのは、当事者のクラリスだけだ。

 無垢に尋ねる彼女と鈍臭くあたふたするビバダムを見て、いつしか皆は可笑しく表情を綻ばせていた。


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