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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第22章 29.未来を守るために…

 ところが…


「レイチェル様…、今『我々特務隊』と仰いましたが……、まさか御自身がその “特務隊” をお率になられるおつもりではありませぬな…?」


 迫真の表情で、恐る恐るレイチェルを問い質すランス。


「ええ、もちろん(わたくし)が直に王城に乗り込みます。城内に最も精通しているのは何と言ってもこの(わたくし)ですから。そして何より…、王家のけじめとして、(わたくし)自身の手で愚弟の首を取らねばなりません…。まあこれは、私情に過ぎぬかもしれませんが……」


 なんとレイチェルは、自身が“特務隊”を率いることを宣言した。


「なりませぬっ…!、絶対になりませぬぞっ…!」


「さようっ、『私情である』と自覚なされているのなら尚更ですっ…! いくらなんでも蛮勇が過ぎますぞっ…!」


「レイチェル様のお強さは我々も十分理解していますが…、それでももし万が一があった時、残された我々…そして民はどうなるのですかっ…?」


「ゲネレイドの暴虐から民を守るべき存在がなくなってしまうのですぞっ…?」


 レイチェルの前で最早憚ることなく、一斉に重臣たちは声を荒げる。

 だが…


「鎮まりなさい」


 静かな声ではあったが、一方で重石がズシリと積まれたようなその揺らがない声は、(やかま)しい場の中で真っ直ぐに通った。


「……………………」


 レイチェルのそのたった一声で、静まり返った重臣たち。

 彼女はそのまま淡々と話を続けた。


「あなた方の心配はごもっともです。確かに万一の事態が起こり得ない確証などどこにもありません…。しかし、いくら(わたくし)といえども、全く後先のことを考えずにかような大それたことは申しませんよ? 今からこのようなことは考えたくもないのですが…、もしも最悪の結末となったとしても、民を救うための手は用意しております」


「何ですとっ……それは一体……」


 レイチェルがすでに用意しているという、自身が敗れ朽ちた場合の最終手段…。

 皆は咄嗟に気構えて、固唾を飲んで耳を傾けている。

 それは…、これまた彼らの度肝を抜くものだった。


「ゲネレイドによる圧政を由々しい人道問題として、フェルト国に軍事介入を要請します」


「なっ……!?」


「しょっ、正気なのですかっ…!?」


「実は…以前から秘密裏に、フェルトへは政治工作を行っていましてね…。現地のセンチュリオン南家当主のエクノス殿を通じてです…。実を言いますと、我々に魔燃料石を融通してくださっているのもエクノス殿です。あの方は現地で手広く実業を営んでおられて、財界のみならず政界にも太い人脈をお持ちです。元々あの国は、当初我々の戦いに中立の立場を保っていました。しかしエクノス殿が多くの国民議会の議員に働きかけてくれたおかげで、今では我々の大義に理解を示してくれる、超会派の勢力が出来るまでになったそうです。いずれにせよ、フェルトにとって我々ジオスは、食糧輸入で切っても切れぬ関係…。これ以上ジオスの問題が続くのであれば、さすがにフェルト国政府としても重い腰を上げざるを得ないでしょうからね…」


「し、しかしっ、いくら友好国とはいえ他国の軍事介入を招く事態になってしまっては…、この国は……」


「ええ、そうですね…、我々が命を懸けて守ろうとしたこの国の姿は、大きく変容してしまうかもしれません…。しかし “民なくして国はなし” …、この地に住まう人々の命と安寧が守られるのであれば、それも止むなきこと……。我々の代で王国500年の歴史を潰えさせてしまう責については、(わたくし)が天界で父を含む歴代の王に心から謝罪し御許しを乞うことで、(しか)と果たすつもりです…」


 緊迫した問答を続けるレイチェルと重臣たち。

 だが次第に、王国の存亡よりも民の平安を(おもんばか)る彼女の鉄の意志を前に、皆は心を揺れ動かされる。


「うーむ……、 『民の安寧』などという金科玉条を出されては…、我々といえども反論のしようがありませんなぁ…。まったく…詭弁がお上手な御方だ……」


 渋面を浮かべて、せめてもの小言を吐くランス。

 他の重臣たちも顔を(しか)めて腕を組んだり、頭を片手で悩ましげに押さえたり……、仕草でレイチェルに不請(ふしょう)の意思を示すも、最早それを口に出すことはなかった。




 それから…、作戦の実行に向けて、具体的な計画が練られる。

 この段階に来ると、軍議の主役は重臣たちからヘリオやビバダムなど… “現場” に立つ者たちに引き継がれる。

 ヴィーボから託された報告書を引っ提げて、当初大隊長として心許なさが否めなかったビバダムも、(しか)と自身の役割を果たした。

 こうして、数時間にも渡る白熱した討議を経て……


「よろしい、ではこれで作戦の概要はまとまりましたね。決行は1ヶ月後…、陽動軍が目指すのは、王都より北へおよそ500キロの地フォッセル…。とにかくここで必要なのは、敵に脅威を抱かせるだけの “数” です。この際、個々の兵士の資質や練度は問いません…。いざ返り血を見れば、恐れをなして逃げ出すような腰抜けでも、今回はその場に立って敵に姿を見せるだけで役の立つのです。さて、この陽動軍を率いるのは…、ランス殿、シュランク殿、かつて魔導部隊を率いたあなた方にお任せしようと考えております。すでに一線を退いているお二人には、ご苦労を強いることになり誠に申し訳ないですが……」


 レイチェルは立ち上がり、ランスとシュランクの方に頭を下げる。


「ふっ…、何を仰りますか…、あなた様らしくもない……。最高司令官たるあなた様にそう命じられれば、我々は己の使命に全身全霊で努めるのみです」


「さよう、ここまで来れば乾坤一擲(けんこんいってき)あるのみ。例えこの身が朽ちようとも…、せめてレイチェル様が進まれる道を作る肥やしとなりて、老いた屍でもお役に立てて見せましょう」


「ふふふ…、お二人ともお熱いこと……。しかし猛勇に煽られるがあまりに、決して死に急いではなりませんよ?、これも(わたくし)からの命令です。あくまでお二人の本分は陽動であることをお忘れなく。敵は我々を一網打尽に殲滅する大好機だと捉えるでしょう…。その(はや)る心理にどこまで付け込めるか…、それが勝敗の鍵となります。状況によっては退くことも止むを得ないでしょう。とにかく臨機応変に動いてください」


 二人の自身への忠誠心に(いた)く感慨を覚えながらも、過度に奮い立った彼らをやんわりと諭すレイチェル。

 ところが次の瞬間…、話を続ける彼女から出た言葉に、全員が言葉を失うこととなる。


「さて…、肝心の(わたくし)が率いる特務隊についてですが、最初にも申した通り少数精鋭…、軍船の搭乗可能人数の兼ね合いもあるので、せいぜい十数人程度と考えています。してその成員は…、まずは(わたくし)…、次にヘリオを初めとする魔導部隊、ビバダムを初めとする兵団からそれぞれ能力に優れた者を数人ずつ……そして………」


 …………………………


「えっ……?」


 はたして、皆を震撼させたレイチェルの言葉とは一体……?


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