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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第22章 24.トラウマ再び?

 さてこの後、執事長のコマックの祭儀も執り行った。

 本心としては主人アルテグラとともに弔ってやりたいところだが、月理教では家族単位での慰霊が通例となっている。

 それからしばらくして…


「そうであったか…、異国の…異教の地でありながらも、フェルカ嬢はかような幸せに包まれて天界へと旅立たれたか……。不運にも病弱な体でこの世に生を受けてしまわれたが…、神はそんな薄幸な少女に、せめてもの罪滅ぼしをされたのかもしれませんな……」


 クラリスとリグから、フェルカの最期を聞いたセナドラ。


「それにしてもお二人とも…、よくぞ、あの子の遺髪を携えて戻られましたなぁ…。お父上もさぞやお喜びになっていることでしょう…」


 まるで久々に実家にやって来た孫を迎えるような優しい目で、彼は二人を労わる。


「神官長様もありがとうございました…。でも本当に父が喜んでいるのか……、あの人はきっと、私たちを危険な目には遭わせたくないと考えるでしょうから…。今この状況でここに帰って来たのは、私たちの我儘に過ぎないんじゃないかって……」


「そんなことはありませんぞ、クラリス嬢。如何なる理由があろうとも、我が子の帰りを嬉しく思わない親などおらぬ。あなたたち自身がそう考えたことであれば、きっとお父上も理解してくださることでしょう…。それにじゃ、あなた方二人には次の世代のセンチュリオン家を、背負って立って行ってもらわねばなりませんからのう……」


「えっ…?、どういうことですかっ…?」


「だってっ…、俺たちの家は…もう……」


 セナドラの予想だにしていなかった言葉に、クラリスとリグは思わず戸惑いを見せる。


「例え家がなくなったとしても、こうしてお父上の血を…意志を引き継いだ子がいる限り、センチュリオン本家は不滅じゃ…。今の状況は、あくまで過去から現在…そして未来へと続く、貴家の長き歴史における受難の時代に過ぎませぬ。レイチェル様もグラベル、レジッド御両家も魔導学院学院長のティアード殿も…、皆様が貴家の再興に尽力すると仰ってくださっておる…。まだ子供でありながら、かような運命の荒波に巻き込まれたあなた方は誠に不憫ではあるが…、これもセンチュリオンの名を冠する者としての宿命とも言えましょう…。あなたたち二人が背負っているものは、過酷な運命だけではなく、我々皆の想いでもあることをお忘れなきよう……」


「はいっ…!」


 今にも涙が零れ落ちそうな目を必死に堪えて、気丈に返事を返すクラリスとリグ。


(そうだ…、今までジオスに戻ってみんなと戦うっていう、ぼんやりしたことしか考えてなかったけど…、ここから私たちの戦いが始まる…。そして国が平和になったとしても、それで終わりじゃない……。こんな私たちを支えてくれるみんなのためにも頑張らなきゃっ…!)


(そうだよな……、今は帰る家はなくても、こうして俺たち二人は生きてここにいるんだ…。俺たちが必ず、俺たちの家を取り戻すっ…。みんなのためにも絶対に負けられねえっ…! 父上が俺たちに教えてくれたことは、俺たちが受け継いでくんだ!)


 セナドラの言葉で、ここに来て二人は更なる決意を己の心に(したた)めるのだった。




 すると、その時…


 ザッ……


(………?、あれは……)


 仄暗い祭壇室の入り口の方から、空気に溶けて消えるほどの微かな足音が聞こえた。

 そこにいたのは、薄っすらと差し込んだ人影とその上に立つ一人の少女。

 背丈は小さく童顔で、一見するとクラリスたちよりも年下のように見えるが……


「マリンさんっ…?」


 そう、その少女はレジッド家の長女マリン…。

 フェルカの幼馴染であり、また彼女の最愛の友達でもあった。


「クラリスちゃんっ…、リグくんっ……、本当に…本当に戻って来たのねっ…!」


 クラリスとリグの元に駆け寄って二人を一遍(いっぺん)に抱き締めようとするも、如何(いかん)せん体が小さいがために、思うように様にならない。

 そんないじらしいマリンの気持ちを察して、二人はさり気なく自ら彼女の腕の輪の中に入ってあげた。


「マリンさん……、お元気そうでほんとよかった……」


「でもマリン姉ちゃんも、ちっとも変わんねえなぁ…。()っこいままじゃん。ちゃんと毎日メシ食ってるか?」


「う、うるさいわねっ…、まだ1年ぐらいしか経ってないでしょっ…。でも二人は何だか随分と逞しくなったね……。リグくんなんて、もうクラリスちゃんの身長追い越しちゃって……、もうさすがに “リグちゃん” は厳しいかな…、ふふふふ……」


「いっ…!?」


 かつて、マリンとフェニーチェの策謀によって爆誕した、“美少女” リグちゃん…。

 あの時、人格まで変わるほどのエラい目に遭い、さらにその後も付いて回ることとなった、リグにとっては忌まわしき記憶に他ならない。


「あ、それでも、ブリッドならきっと喜んでくれるだろうなぁ。リグちゃんが戻って来たって聞いたら、たぶん遠征先でも飛んで帰ってくるよ。こうしちゃいられないっ、早くブリッドに教えてあげなきゃ!」


「ひっ…ひいいいっ……、そ、それだけは…それだけはご勘弁をぉっ……。ごめんなさいっ〜…、俺が悪かったですぅ〜…!」


「ふふんっ、これに懲りて、二度と舐めた口を利かないことね、リグちゃ〜ん?」


 涙目で情けなく許しを乞うリグと、その童顔には似つかわしくない、小生意気なドヤ顔を浮かべるマリンであった。


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