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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第22章 22.アスターの苦労

 こうしてクラリスとリグ、そしてアスターの三人は、互いのここまでの経緯を交えつつ、談笑に花を咲かせる。


「なんとっ…、御伽の島アトリート島は実在したというのか……。しかし、魔術に縁がない我々には俄に信じ難い話だな…。もちろん、君たちの言うことを疑っているわけではないが……」


「いえ…無理もありません…。私たちだって、あの島での生活の日々は、ひょっとしたら長い夢だったんじゃないかって今でも思うぐらいですから…。まあでも…余計なアレが付いて来てしまったおかげで、否応にも現実だって意識させられるんですけど……」


 『余計なアレ』…、言うまでもなくアイシスのことである。

 一瞬クラリスは、どーんと背後に重い影を落とした。


「そ、そうなのか…、何だかよくはわからないが、君も大変なのだな……」


「い、いえ…、でもチームアスタリアの皆さんも、嵐に遭っている最中に救援が来たっていうのもすごいですよねー?」


「その人たちって、ほんとに海賊だったの?」


「確かに王国軍の軍船を略奪したのは事実だが、そうせざるを得ないほどの正当な理由もあるしな…。まあ、決して品が良いとは言えない連中ではあったな。ただそんな中で、彼らの(おさ)は表向きは気品すら醸し出る老紳士だった。とはいえ、その外面に覆われた本性は、身震いするほどに野心的で荒ぶっていたが……。何でも、若き頃は『ジオスの海の王』と恐れられていたみたいでね」


(あれ…『ジオスの海の王』……、どこかで聞いたことがある言葉………あっ…!)


「あのっ…、その人ってどんな感じの人でしたっ…? あと、他にどんな感じの人がいましたっ…?」


 埋もれていた記憶が掘り起こされようとしていたクラリスは、食い付き気味にアスターに尋ねた。


「い、いきなりどうしたんだ……? その人はフューリーさんと言うのだが、長い眉毛でほぼ完全に目が覆われていたな…。あと印象に残っているのは、小綺麗に蓄えた顎髭が特徴的な仏頂面の男と、筋肉質でつるっ禿げの男ぐらいか…。特に顎髭の方とは少々因縁があってね…。恥ずかしくも、一時期私が自己嫌悪に陥っていた際に、こっ(ぴど)くぶん殴られて目を覚まさせられた…。まあ、今となっては良き思い出だがね……」


(やっぱり…、たぶん間違いない……、私に香辛料をくれたおじいさんに、あの船の船長さんと副船長さんだ…。こんな奇遇なことがあるだなんて……。いや、それよりも、あの人たちが船を略奪せざるを得ない状況に追い込まれるって……、一体何があったっていうの…。マーサさんやみんなは無事なのかなぁ……)


 短い間ではあったが衣食住を共にして血汗を流した、自分らにとっての恩人たちの境遇を切に想うクラリス。

 ところで、そんな殊勝な彼女ではあるが…、それとは別にどうしてもアスターに確認したいことがあった。


「あのう、アスター様…、ちょっとつかぬことをお聞きしてもいいですか…?」


「何だね?、突然改まって…」


「はい…その……、ぜん…あ、いや……アスター様のお兄様のことで……」


「あ、ああ……そのことか……」


 クラリスの心底後ろめたそうな様子で、アスターは彼女が言おうとしたことの全てを察した。

 あの “全裸男” が、あろうことか大海を渡って伝播してしまった顛末を、()()()()()語るアスター。


「そ、そうなんですか……?、まさかあのレイチェル様が……」


「確かに、やたらと『全裸男だぁ!』って叫んでる兄ちゃんはいたけど……」


「すまないな二人とも……。本当に…本当に申し訳ない……」


「そんな…、何もアスター様が謝らなくたって……」


「てか、あんな全裸のおっさんの何がいいんだ…?、どう見てもただの変態じゃん…」


「ちょ、ちょっとっ…、リグくんっ……」


 リグの決して悪気はないがデリカシーに欠けた言葉は、アスターの心をグサグサと滅多刺しにする。

 そんなわけで、奇跡の再会を祝して睦み合うはずの場が、いつしかお通夜のように重く沈み込んだ。




 するとその時…


(あっ…そうだっ…)


 そんな憂鬱な場の空気をひっくり返す、話のネタを思い出したアスター。


「お、おほんっ…、そういえば二人とも、君たちが大事に持っていた荷物もちゃんと保管してあるぞ」


「えっ?、ほんとですかっ…?」


「ねえっ、どこにっ…どこにあんのっ…?」


 一転、顔をパアッと明るく開かせて、クラリスとリグは飛び付くように尋ねる。


「確か遺失物保管庫に置いてあるはずだ。さて…、私もそろそろ休憩を切り上げねば…。仕事がまだまだ山ほど溜まっているもんでね…。保管庫にはアリア君に案内してもらうと良い。二人とも有意義な時間をありがとう…、また気が向いたら、いつでも遊びに来なさい」


 ちょうどその時、偶然にも様子を見に来たアリア。


「ああ、アリア君、ちょうどいいところに戻って来てくれた。この子たちを遺失物保管庫に案内してやってくれないか?」


「はいっ、わかりました。ほらっ、二人とも早く行くぞ?」


 ……………………


 こうして再び、アリアに連れられて屋敷内を移動するクラリスとリグだったが……


「どうしたんだ、二人とも…?、何だかゲッソリした顔して……。アスター様と何かあったのか…?」


「え…、な、何でもないですよ…。ねぇ、リグくん…?」


「そ、そうそう……、長旅で疲れちゃったのかなぁ……あははは……」


 アスターの名誉のためにも、二人は()()()()()墓場まで持って行こうと決心した。


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