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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第22章 18.鉄の王女の洗礼

 こうして対面を果たした三人。

 レイチェルはただ無言で、眼前のクラリスとリグを真っ直ぐに見つめる。

 その顔は決して冷たくはないが、かといって(ねんご)ろに迎えてあげようとする温もりも感じられない。


(この人がレイチェル様…シエラのお姉様……。王様のお葬式の時に遠目でしか見たことなかったけど…、すごく綺麗な人……。そして確かに、目の色もシエラと同じ…。でも…(まと)っている雰囲気はまるで違って……とても(いかめ)しい感じ……。王女様なのに軍服を着てるし…。“鉄の王女” ってこういうことだったんだ……)


(こえ)えぇ…、何なんだよこの人……。少し姿勢でも崩すもんなら腰の剣でぶった斬られそうな…、そんぐらいに怖え……。そりゃあ、トレック兄ちゃんたちが恐れるわけだ……)


 そこに佇んでいるだけにもかかわらず、刃を向けた手練れと対峙しているかの如くのレイチェルの威圧感。

 クラリスとリグは子供ながらに、ひしひしとそれを体感させられる。


「レイチェル様、こちらがクラリスとリグになります。こらお前たちっ…、ぼうっとしてないで御挨拶しろ」


「は、はじめましてっ……、クラリス・ディーノ・センチュリオンと申しますっ……」


「リ、リグ・ディーノ・センチュリオンですっ……」


 アリアにきつめに促されて、ハッとした二人はあたふたしながら自己紹介をする。


「そうですか…、この子たちがアルテグラ殿の……」


 ぼそっと呟いたレイチェル。

 だが意外にも、彼女は表情をしんみりと和らげて返事を返した。


「クラリスにリグ…、我が弟ゲネレイドのせいで、二人には苦労を掛けましたね…。かような事態になった遠因はこの(わたくし)にもあります…。そして、あなた方のお父上のことも…、心中お察しします…。現状、王都のあなたたちの家墓に弔うことも儘なりませんが、ヌビア教会のセナドラ神官長に依頼して、(しか)と葬儀はさせていただきました。後ほど、お父上の魂が眠る祭壇を訪れると良いでしょう…。それと特にクラリス、あなたは我が妹シエラと懇意にしてくれていたようで…、姉として礼を申します」


「は、はいっ…、ありがとうございます…!」


 先程の冷淡な佇まいからは想像が付かない、レイチェルの慈愛に満ちた言葉…。


(何だか最初の印象と違う……。こう見ると、やっぱりシエラのお姉さんみたい……)


(何だよ〜、すっげえいい人じゃん!)


 最初の緊張は何処へやら…、クラリスとリグはすっかりレイチェルに気を許した。

 ところが…


「しかぁし!」


「…………ッツ!?」


 いきなり、口調を仰々しく強めたレイチェル。


(わたくし)は大人として、横着なあなたたちを叱らなくてはなりません。今この国が内戦の最中であることはあなたたちも存じていたはず…。にもかかわらず、何故今この時機に戻ろうと考えるのか……。我々は必ずや勝利し、この国の正しき姿に取り戻します。祖国への抑え切れない郷愁は理解出来ますが、平和な世になってからでも遅くはないでしょう? しかも聞いたところによると、ヴェッタにてアンピーオを唆して協力させ、アスター殿を欺きアスタリア号に乗り込んだという…。結果が丸く収まったからといって、かような不届きは決して許されるものではありませんよ?」


「ご、ごめんなさい……」


「すいません……」


 まさかここに来て、ヴェッタでの行いを蒸し返されるとは思いもしなかったクラリスとリグ。

 父アルテグラをも凌ぐレイチェルの厳格さを前にして、ただただ謝るしかなかった。




 二人が反省してしおらしくなったところで…、レイチェルはまたもや力なく笑みを見せる。


「まあ、しっかりと反省しているのならよいでしょう。さて…、()()()からおよそ一年ぶりですか……、随分とこの国の有様は変わってしまいましたが、このフォークの街はあの頃と変わらない賑わいを見せてくれていると、(わたくし)は自負しております。あなたたちにも会いたい人々が大勢いることでしょう…。これまで大変な辛苦を強いられたのです…、せめてこれからは普通の少年少女らしく、()()()()()()()()()()()()平穏に日々を過ごすことですね…。この国あるべき姿を取り戻し、あなたたち次の世代にそれを繋げる…、それは我々、今の世代の大人たちの仕事なのですから……」


 クラリスとリグの真意がわかっているかのようなレイチェルの物言い。

 それもそのはず…、彼女はアスターから、二人がジオスを目指す理由も聞き及んでいた。

 レイチェルは先手を打って、戦いに参加しようとする本人らの意思表明を封じようとしたのだ。

 しかし…


「あの…レイチェル様……、お気持ちは嬉しいのですが…、私たちはレイチェル様の元で、この国を取り戻す戦いに参加するために帰って来たんです…。私たちは父の仇が取りたい……、それに囚われているシエラ…様を助けたいんですっ……」


「…………………」


 レイチェルの目論見を突き抜くように、クラリスは辿々しくも芯の強い言葉を返す。

 目を険しく細めて、彼女を見据えながら暫し沈黙するレイチェル。


「こ、こらっ…、クラリスっ…、レイチェル様の御前だぞっ……」


 不躾なクラリスを咎めるアリアだったが……


「まあまあ、落ち着きなさいアリア…。たかが子供の冗談ではありませんか…、大目に見てやりなさい。しかし、戯言を言うにしても、その場の空気に適した内容にすべきではありますねぇ…。今の冗談は少々場違いでしたよ?」


 レイチェルはクラリスの痛切な決意を、取るに足らない “冗談” として一蹴する。


「じょ、冗談なんかじゃありませんっ…!、私たちは本気ですっ…!」


「そうだよっ、俺たちはそのために遥々帰って来たんだっ…!」


「こらっ、お前たちいい加減にっ………」


 王女様の御前であることなど最早念頭になく、咄嗟に声を荒げて反論するクラリスとリグ。

 そんな二人を厳しく一喝しようとするアリアだったが、レイチェルに仕草で制止されて口を噤んだ。


「『私たちは本気』…ですか…。ならば我々と共に戦場に出て、耐え難い苦しみの末にその命を失う覚悟もあるということですね…?」


「はいっ…、あります……」


 声を重くさせて二人に問うレイチェル。

 一方のクラリスとリグも、ここまで来たら引き下がるわけにはいかない。

 同じく、子供ながらにして重みを効かせた声で答える。

 ところが…、次の瞬間だった!


 ジャキッ…


「…………ッツ!?」


「レ、レイチェル様っ…!?」


 クラリスとリグの目と鼻の先に、突如として突き付けられた白銀の閃光…。

 なんとレイチェルは、二人の眼前で剣を抜いた!


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