第22章 17.迫られる転換
それから…
「クラリス、感動の再会中に悪いが、早くレイチェル様の元へ報告に行かなくては…。お前たちを会わせたいからな。スノウ、ソラ、そういうわけだから、すまんがまた後でな?」
「あ、先生!、おかえりなさ〜い! クーちゃん、まったねっ〜」
「ああっ、ちょっと待て、ゴラァッ、モフらせろぉー!」
…………………………
アリアに介入されて、一旦スノウとソラと別れたクラリス。
彼女たちを乗せた馬車は再びフォークの街をゆったりを走り、到着したのはレイチェルのいる旧センチュリオン北家邸。
「ここって、伯父様とターニーちゃんの……」
「そうだ。今はレイチェル様の居城兼政庁として使用されてるよ」
「じゃあ…、伯父様たちはもうここには帰れないんですか…?」
「はははは…、そんなことないさ。フォークの中で城に相当する場所がここしかないからであって、いつかはレイチェル様も王都に凱旋される。そうなればちゃんとここは、アンピーオさんたちに返還される話になってるよ」
そんな会話をしながら、アリアに連れられてクラリスとリグはレイチェルの執務室に向かう。
「先にレイチェル様にご報告だけ済まして来る。その後お前たちを呼ぶから、悪いがここでちょっと待っててくれるか? お前たちのことは先にアスター様から聞いておられるから、何も心配しなくてもいいぞ?」
「そうなんですね、アスター様が…」
「ああ、たぶん今はこの屋敷内におられるはずだ。また後でアスター様の元にも案内するよ。あの方もきっと大層お喜びになるはずだ」
レイチェルとの初謁見を前にして、緊張頻りのクラリスとリグの気を和らげてあげるアリア。
コン、コン…
「失礼致します」
二人を執務室の前に残し、彼女はまずは一人で入室した。
「エルパラトス遠征隊、ただいま帰還致しました。とうに撤退命令を受けていたにもかかわらず、帰還が大幅に遅れてしまい、誠に申し訳ございません…」
「いえ…、この度は隊長の任、ご苦労様でしたね、アリア…。撤退が遅れた理由については通信にて聞き及んでいます。正当な理由である故、特に咎めはしませんよ?」
「ありがとうございます…。ただ…、ガーミン奪還の拠点を築くための此度の任であったにもかかわらず、何一つ結果を残すことが出来ませんでした…。さらには…百人近くもの戦死者も出てしまいました…。隊長の命を仰せつかった身として……、弁明のしようもございません……」
「………いえ…、此度の任はその難易度と重要性にもかかわらず、あまりにも戦力が心許なかった…。我々の領土も拡大し、何より先のガーミンでの大敗が尾を引き…、作戦に十分な戦力を用意することが儘ならない状況ですからね…。これは大局を見誤ったという点で、最高司令官である私の責任でもあります…」
「いえ…、畏れ多い御言葉……。寛大なる御慈悲…、身に沁みる思いであります……」
「さて…、アスタリア号一同の働きのおかげで、このフォークにも魔燃料石が安定して入るようになって来ました。もう、ガーミンに拘るべきではないかもしれませんね…。敵軍が事実上アルゴンの指揮下で動いており、王都のゲネレイドが全く動きを見せようとしない現状も、何やら不穏に感じられます…。これまで長期戦を覚悟していましたが…、実はそう悠長に構えてはいられないのかもしれませんね……」
そんな感じで、沈痛に報告のやり取りを行うアリアとレイチェル。
さらに、レイチェルが抱いたゲネレイドへの良からぬ予感から、今後の戦略の転換も含めて意見交換を行った。
しばらくして…
「ところでレイチェル様…、実は御目通りさせたい者たちがおりまして……。勝手ながら、すでにドアの前で待機させております」
ついに本題を切り出したアリア。
「ほう…、『御目通りさせたい者たち』ですか…? その者たちとは?」
「はい…、国外へ脱出していたセンチュリオン本家の次男次女…、クラリスとリグになります」
「な、なんとっ…?、確かにアスタリア号でヴェッタからこちらに向かっていたとは聞いていますが…。しかし、途中に遭難して海に投げ出されて、アスター殿たちとは生き別れになったと……」
「はい、そうなのですが…。少々現実味のない経緯になる故、詳細は後ほど改めてご説明致しますが…、ともかくこの国へと無事帰って来たのです。エルパラトスにて、マルコン殿が二人を保護し、我々に引き合わせてくれました…」
「あの男は…なんとまあ妙運に恵まれていますね……。良いでしょう、予てより私も一目会いたいと思っていました。是非こちらに連れて来なさい」
「はい、只今」
レイチェルの許しが出て、アリアは扉の方に向かう。
「いいぞお前たち、入って来い」
クラリスはもちろんのこと、リグですらもカチンコチンな様子だ。
トレックたちから “鉄の王女” の恐ろしさを聞いているだけに、余計にである。
「しっ…失礼…致しますっ……」
極度の緊張を言葉に纏わせて、クラリスとリグはついにレイチェルとの謁見に臨むべく入室した。




