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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第21章 5.男たちの狙いと過去

 さて、しばらくして…


「紹介が遅れてしまい申し訳ない。私はミグノン連邦ヴェッタ公国の領主シュナイダー家が次男、アスター・シュナイダーと申します。この度は恥ずかしくも私が(てい)たらくの中、危なきところをお助けいただき深く感謝します。現状かような様の故、今この場で礼は出来ないが…、この恩は必ずお返しします」


 アスタリア号の代表として、キリッと姿勢と矜持を正したアスター…、真摯に男たちに礼を述べる。

 ところが…


「何を言ってんだ?、差し出せるものなら今ここにあるだろうが…」


「……どういう意味かな…?」


 冷淡に返事を返す顎髭の男。

 アスターはその意が理解出来ず、訝しげに問い返す。

 次の瞬間…、男が発した言葉を聞いて、チームアスタリアを包む(ねんご)ろな余韻は、シャッと冷たく締め切られた。


「お前たちを助けてやった礼として、この船をいただく。異論は認めん」


 なんと顎髭の男は、助けた見返りとしてアスタリア号の船体を要求した。


「ははははっ……、見た目によらず面白いお人だな…。かような巨大な船体をあなたたちだけでどう扱うというのだ?」


 反感で顔を引きつらせながらも、あくまで紳士的に対応するアスターだが……


「俺らとて、こんな図体だけでかい、小回りが利かない船なんぞいらん。まずはこの船をフェルトのウェルザの私設港まで曳航する。こんな巨大船を金に変えるには、正規ならば煩雑な手続きが必要だが、俺らはフェルトの裏社会とも通じていて、闇のルートをいくつも持っているからな…。こんなにも頑強に出来た船は、フェルトでも見たことがない…。良い金にはなるはずだ」


「………ッ!、我らがアスタリア号を売り払うというのかっ…!?」


「そう聞こえなかったか?」


「貴様ぁっ…!」


 ついに堪忍袋の尾が切れて、アスターは尋常になく憤りを露わにする。


「ふっ、ふざけんなっ…!、この船はっ…、アスタリア号は俺らの魂だっ! いくら助けてくれたからって、言って良いことと悪いことがあるだろっ!」


「そうだっ!、それにこの船が奪われたら、俺らはどうするんだっ…!?」


「ヴェッタの男の威信に懸けても、絶対にこの全裸男号は渡さねえぞっ!」


 アスターに呼応して、船員たちからも次から次へと憤激の声が飛ぶ。


「お前らの身柄なんぞ興味はない…、俺らが欲しいのはあくまでこの船だ。フェルトに着いた後は好きにしたらいい。良くは知らんが、あんたがどこぞの国のお偉い様ならば、フェルト政府に掛け合えばどうにでもなるだろ?」


「そうだぜ。てめえらの命の恩人だっていうのに、随分と好き勝手言ってくれるじゃねえか。てか、『全裸男』ってなんだよ?」


 そんな声を、顎髭の男とスキンヘッドの男は軽く遇らうようにして突っぱねた。

 すると…


「君たちのあの船…、あれはまさかジオス軍のものか…?」


 これまで黙って事態を注視していたアンピーオが、男たちに静かに問う。


「なかなか察しがいいな、あんた…。いかにも…、俺らが軍の奴らから分捕って来たやつだ」


「『分捕った』だとっ…!?、まさか…君たちは海賊なのか……?」


「そんな自覚はないんだがな…、まあ他人の目から見てそう見えるのならそうなんだろうな…。だがこう見えても、少し前までは真っ当な商売をやってたんだぜ? ジオスフェルト間の定期船の運航業をしててな…、他に比べて随分と年季が入ったボロ船だったが、俺らにとっちゃあ家みたいなもんだった…。それがゲネレイドの野郎の時代になって、まずは運航の許可を取り消されて、さらには不審船と勘違いされて沈められちまってな……。しかし王国からは、その賠償どころか謝罪の言葉すらない…。だから、その腹いせに軍の船を襲撃して奪ってやったのさ…。実を言うと、俺らがここまで沖にやって来たのも、軍の追っ手を撒いていたからだ…」


 アンピーオとの話の流れに乗って、ここまで寡黙な佇まいを醸し出していた顎髭の男は、意外にも感情をちらつかせながら身の上を語る。

 一方…


「そうだよな…、今じゃあこんなにもやさぐれちまったが、あの頃は本当に毎日が充実してたよなぁ…。客も小汚くガラの(わり)いオッサンばっかしだったが、みんな馴染みで和気藹々(わきあいあい)としててよ…。身寄りのないガキどもを引き取って、一端の人間に育て上げるのも、苦労したけど親になったみたいでやり甲斐があったなぁ…。ボロい船だったが、ようやくクラリスシチューって名物も出来て、経営も軌道に乗り出してきた頃だったのによぉ……。でもまあ、一番の働き娘のマーサが、『王都の学校に行く』っていきなり言い出して辞めちまって…、俺の気持ちとしては、ちょうど良いタイミングで終われた気がしないでもないんだよなぁ…。てか、マーサのやつが人知れず勉強してたなんて聞かされた時はビックリしたぜ……。こんな時代になっちまったが…、あいつ元気にやってるかなぁ……」


 その(いか)つい面をしんなりとさせて、一人思い出と感傷に閉じ籠るスキンヘッドの男。


「おい、ベラベラと喋り過ぎだ」


「おっと、すまねえ……」


 顎髭の男に窘められて、彼は弛んだ顔を引き締めて口を(つぐ)む。


(『クラリスシチュー』……?、まさかクラリスちゃんが関係してるのか……。いや…いくら何でもそんなことはないか……)


 スキンヘッドの男の口から出た、クラリスの名が入った単語を聞いて、妙に気掛かりを覚えたアンピーオだった。


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