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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第21章 4.復活のアスター

 そんな中で、いきなり現れた見ず知らずの男たちにここまで痛罵されても、アスターは反応どころか表情一つさえ変えようとしない。

 ところがその時…


「なっ、何をっ…!?」


 項垂(うなだ)れるアスターの肩をガシッと掴んで、顔を起こさせた顎髭の男…。


 ドガッ!


 なんと男は、アスターの顔面を強烈に殴り付けた!

 口元が切れて出血するアスター…、だがこんな不条理な目に遭っても彼は何も言おうとしない。


「おいっ、一体どういうつもりだっ…!?」


「てめえっ、この野郎っ…!」


「こんなことして、タダで済むと思うなよ…!」


 アンピーオと船員たちが激烈な怒りを露わにするが……


「いいのだ…皆……。この者たちは我々の恩人なのだろう…? 私の痛みなどでこの者たちの気が鎮まるのなら…、これぐらい安いものだ……」


「アスター様……」


 アスターは達観したかのように、力なく言葉を吐く。


「そうか…、ならば遠慮なく行かせてもらうぞ…」


 ドガッ……ドガッ……ドスッ………


 顎髭の男は、むしろアスターの言葉が気に障ったようだった。


「お、おい、お前…、もうそろそろいい加減にしとけよ……」


 冷淡な顔で容赦なくアスターを殴る男に対し、連れのスキンヘッドの男もさすがに止めに入ろうとする。

 それでも、そんな仲間の注意など全く耳に入らぬかのように、顎髭の男はアスターに拳を()つけ続けた。

 すると…

 カチャン…

 殴られるアスターの体勢が崩れた際に、彼の上着のポケットからふと何かが落ちた。

 それは…、あの “チームアスタリア” のプレートだった。

 言葉では『ごっこ遊び』などと吐き捨てても、どうしてもその “仲間の証” は捨てることが出来なかったのだ。

 一旦プレートを拾い上げた顎髭の男。

 しかし…


 ガチャッ……グチャ……


 それを見て小馬鹿にするように鼻息を()くと、再び床に落としてグリグリと踏み(にじ)った。


「『チームアスタリア』か…。なんだ…こんな良い歳して冒険ごっこでもしていたのか? お偉い様のお坊ちゃんの道楽に付き合わされるお前らもとんだ災難だな…」


(…………ッ!?)


 顎髭の男に、侮蔑のみならず憐憫すらも浴びせられて…、湿気(しけ)って燻っていた導火線に火花が着くが如く、アスターの心境に変化が起こった。


(確かに私自身も、チームアスタリアを『ごっこ遊び』などと、自己嫌悪に陥っていた…。それなのに何故だっ…、何故同じことを他人に言われると、ここまで無性に腹が立って仕方がないのだっ…!?)


 アスターはいつしか、無意識に拳を強く握り締めていた。

 その様はあたかも、悔しさと不甲斐なさとを握り潰しているようにも…、そしてまた、一度は離しかけたチームアスタリアの絆を、再び強く掴もうとする意志にも感じられた。

 殴られ続けたボコボコの顔で、顎髭の男に対しギロリと攻撃的な眼光を見せたアスター。


「なんだ…、何か言いたいことがあるようだな?」


 言葉を挟んだ顎髭の男だが、アスターからの返事を待つことなく再び殴りかかる。

 ところが…


(……………ッツ!?)


 アスターは男の拳をサッと(かわ)す。

 そして…


 ドゴッ!………ガシャンッ…!


 これまでのお返しと言わんばかりに、渾身の一撃を男の顔面にめり込ませた!

 殴り返された顎髭の男は、ぶっ飛んで落下物だらけの床に打ち付けられる。

 重い息と血反吐を吐きながら…、アスターは言い放った。


「確かに『私の痛みを差し出す』とは言ったが…、いくら何でも()()()()()()()…?」


 その瞳に憤怒の感情を宿らせたアスター。

 それは言うまでもなく、これまでの生気がない目とはまるで違っていた。


「アスター様っ……」


 その顔を見て、アンピーオと船員たちは喜びと感慨で笑顔を開かせる。

 一方…


(へっ…、見かけによらず良い拳持ってんじゃねえか……)


 アスターの拳でむしろ血気が冷めた顎髭の男は、神妙な様子で暫しその場に座り込んでいた。




 それから甲板にて…、アスターは1週間ぶりにチームアスタリア皆の前に姿を見せた。


「皆っ、本当に申し訳なかったっ…!、私としたことが、運命への絶望とクラリスとリグを失った悲しみに屈し、(おさ)としての使命を果たすこともなく自暴自棄になってしまっていたっ…。皆にはなんと詫びればよいか……」


 まだ顔の腫れも十分に治っていない状態で、悔恨の涙を流しながら皆に許しを乞うアスターだったが……


「よかったぁ……、いつものアスター様だ……。もう…一時はどうなることかと思いましたよ〜」


「でも、ちょっとぐらいアスター様がいなくても全然大丈夫でしたよっ。何たって俺らはチームアスタリアですからねっ」


「クラリスちゃんとリグだってまだ死んだって決まった訳じゃないんだ…。俺らだってこうやって助かったんだから、あの二人だってどこかで生きてるに決まってますよ!」


「うおおおおっ、これでこそ全裸男の魂を継ぐアスター様だぁっ!」


 船員たちからは、アスターへの励ましの言葉が一斉に飛び出した。


「みんな……本当に…本当にありがとう……うううっ……」


 ただでさえ酷い様の顔を涙でくしゃくしゃにさせて…、せっかくの良い男が台無しのアスターであった。




 ところで…


「な、なあ…、あいつら何か『クラリス』とか『リグ』とか言ってるが、一体どういうことだ…? あの二人はフェルトで本当の親の元で暮らしているはずだ…。何でこんなとこにいるんだよ……。あと『全裸男』って何だよ?」


 船員たちの会話より、クラリスとリグの名を聞いたスキンヘッドの男…。

 彼は居ても立っても居られない様子で表情を曇らせる。

 顎髭の男は一瞬眉間に皺を寄せるも、素っ気なく答えた。


「同じ名のただの他人だろう…。そう珍しい名前というわけでもあるまい……」


「そ、そうだよな…、だってあいつらは、フェルトで本当の父ちゃん母ちゃんと幸せに暮らしてるんだ。こんなところにいるわけがねえよな、はははは……。で、『全裸男』って何だよ?」


 意外にも表情豊かなスキンヘッドの男。

 今度は一転、強面(こわもて)な顔を愛嬌たっぷりに微笑ませた。


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