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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第20章 46.孫想いな爺

「は、はははは……、アイシス……こんな場でいきなり冗談だなんて…、お前が見た目によらずお茶目な子なのはわかってるが、さすがにお行儀が良くないぞ……」


「そ、そうよ……、もういい年頃なんだから…、もう少しはお淑やかにしなきゃ……」


 アイシスの言葉がただの冗談であると、どうしても信じ込みたい様子の両親。

 無理に涼しく笑いながら、いい歳した御転婆(おてんば)娘を窘めるが……


「冗談なんかじゃないわ…。私は本気よっ…。本当はずっと前から思ってた……、私は…この島の外の世界が…もっと広い世界が見てみたいのっ…!」


(アイシスさん……)


(姉ちゃん……)


 以前クラリスとリグに語った、アイシスの夢…。

 あれから、二人とターニーの存在もあって、この閉ざされた里を支配して来た歪な価値観は随分と和らいで来た。

 だがそれでも、さすがに短期間で全てが変わることはない。

 この里で生まれ育った者が外の世界へ出たいなど、依然大っぴらに公言出来ることではなかったのだ。

 ましてや、アイシスは族長ルロドの孫娘であり、彼の実質的な秘書役も担っている。

 そんな立場ある人間のタブーを侵す発言に、周囲は騒然とした。


「な、何を血迷ったことを言ってるんだっ…! この子たちはデール族とはいえ下界から来たのだから仕方ないが、お前は違うだろうっ…? こんなこと、里の人々にでも聞かれたらどうするんだっ…!?」


「そうよっ、アイちゃんっ! ちょっとっ、お義父さんからも何か言ってやってくださいなっ!」


 娘の頑なな我儘に憤る両親…、アイシス母はルロドに強く訴える。

 ところでそんなルロド…。

 アイシスの発言を聞いて、最初こそは皆と同様に呆気に取られたものの、それからは皺を一層増やして難しい顔を浮かべていた。

 ルロドの言うことなら、いくらなんでも聞かざるを得ないだろうと期待したアイシス母。

 ところが、当のルロドの返事は……


「さようか……、ならば気を付けて行って来るがよい…。この二人のこともよろしく頼んだぞい……」


「え……ええええっ…!?」


 ルロドの予想だにしない言葉に、再び皆からは反応が遅れた驚声が飛び出す。


「お、お父さんっ……何を馬鹿なことを言ってるんですかっ…!? そんなこと許したら、里の皆に示しがつかないでしょっ…?」


「そうですわっ、お義父さんっ…! 下界なんかに行ってこの子に何かでもあったらっ…!?」


 なおも強く食い下がるアイシス両親。

 そんな二人の剣幕を鎮めるように、ルロドはしれっと、さらにビックリな内容を語った。


「心配など要らぬ…、こやつはわしから見ても類稀なる魔素を持っておる。それに何と言っても…、アイシスはわしが亡き後、次代の族長になるのだからのう…」


「えっ…、お爺ちゃん……」


 ルロドの口から不意に発せられた、アイシスへの次期族長の指名。

 再び騒然となる場の空気に構わず、彼は淡々と話を続けた。


「この先、世界がどう変遷していこうと、我々デール族は未来永劫この里で平和を享受していくであろう…。だが、それと外の世界へと出て見聞を広めるとでは、決して相容れぬことではないはずじゃ。ここにいるクラリスとリグ…、そしてターニーもやって来て、我々は僅かながら変われた…。故に、良い方向に変わって行くのなら…、この里の将来を担う者たちを外の世界へと旅立たせるのもやぶさかではない…。それに…、自分で言うのもあれじゃが、わしは大変孫想いな爺でな……、愛孫の一世一代の我儘ぐらい聞き入れられんでどうするのじゃ? 里の者たちへは、このわしが責任を持って直に説得する…、それで問題なかろう?」


「……お父さんがここまで言われるなら…本気なんですね……」


 ルロドの重く厳しい瞳に見つめられて、これ以上言葉が続かなかったアイシス父。

 母の方は返す言葉もなく押し黙る。

 それと連鎖して皆が静まり返ると、気を取り直したルロドはクラリスとリグに言った。


「二人とも…そういうわけじゃ…。この里のことしか知らぬ世間知らずな娘故に、いろいろと迷惑をかけることもあるかもしれぬが…、アイシスのこと、よろしく頼むぞい…」


「は、はいっ……」


 打って変わって、クラリスとリグには優しい目を向けたルロド。

 だが、その目はどこか悲愴な含蓄を帯びており、二人はその圧に押されるように返事を返すしかなかった。


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