第20章 閑話.竜もつらいよ
しばらくして…、込み入った話も終わり、他愛もない雑談に耽るクラリスとリグとターニー。
「そういえばさ、お前あの竜に乗ってジオスからここまで来たんだろ?、すげえよなぁ……」
「本当…、一体どれだけかかったの…?」
「そうですねぇ、大体3日間ぐらいかな?、ずっと飛んで来ました。たまに小島や岩場があったら、そこで羽を休めるって感じですかね…」
「ええ…、よく来れたね……。大変だったでしょ…?」
「いえ、言うほどそうでもないんですよ。ミーちゃんの背中の上は温かくて思いの他寝心地も良くて、小さい頃にお父さんにおんぶしてもらった時の感覚のままで空を飛んでるような感じです。それになんと、竜って寝ながら飛行もできるんですよ、すごいですよねぇ!」
目を輝かせて竜について熱く語るターニー。
ちなみにミーちゃんという呼び名は、この竜がジオスの山中で衰弱しているところをターニーに発見された際、『ミー…ミー…』と弱々しく鳴いていたことに由来する。
「あ、でも、雷が鳴るとちょっと困りものだったりしますね…。その時だけは、全然私の言うこと聞いてくれないんです…」
「はははは、何だよ、あんなデカくて厳ついのに雷が怖いのかよぉ」
そのギャップが可笑しくて、少し揶揄いを入れるリグだったが……
「いえ、違います、むしろその逆です。雷が鳴ると無性に興奮しちゃうみたいで…、勝手に稲光りのする方向へ飛んでっちゃうんです…。こないだなんて寝てる時にいきなり急上昇しちゃって…、振り落とされそうになりました…」
「へ、へぇ…、そうなんだ……」
ミーちゃんとの旅の苦労を語るターニー。
だが、そのあまりにも途方もない話に、クラリスとリグは反応に困りながら惰性で返事を返すしかなかった。
すると…
「あ、でも竜って、人間みたいに家族愛が強いって聞いたけど…、何でミーちゃんは一人勝手にこの島を出てっちゃったのかなぁ? 私たちの行きつけのお肉屋のおじさんは、暴れ竜の影響じゃないかって言ってたけど……」
ふと疑問を呈したクラリス。
ルロドの差し金とはいえ、以前に卵泥棒という “大罪” を犯しているだけに、余計に気掛かりなようである。
そんな彼女に対し、ターニーは実にあっけらかんと答えた。
「その “暴れ竜” っていうのはよくわからないですけど…、たぶん違うと思いますよ? あの子がこの島から飛び出したのは、彼女に振られちゃったからなんです」
「へっ…、どういう意味……?」
「なんでも、ずっと長いこと付き合っていた若い雌竜の彼女がいたらしいですけど…、その子が他の雄竜に寝取られちゃったみたいなんです。それで勝負を挑んで彼女を取り戻そうとしたけど、返り討ちにされて…、それで自暴自棄になってこの島を出たんです」
「あ、じゃあ…、ターニーちゃんがジオスの山中で見つけた時に、怪我をしてたっていうのは……」
「はい、その時の喧嘩の怪我ですね、たぶん…。あ、ちなみに、ミーちゃんのご両親はもういないみたいですよ? ああ見えてあの子、竜の中ではもう結構いい歳したおじさんですから」
(『いい歳したおじさん』かぁ…。ターニーちゃんと一緒に旅を続けたいっていうのは…、この里にあまり良い思い出がないからなのかなぁ……)
色々と察して、何とも遣る瀬ない気持ちになるクラリス。
高い精神性を有する故なのだろうか…、意外にも竜の世界は、人間社会顔負けに世知辛いのであった。




