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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ


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第20章 34.救いのない偶然

 それは火事なのか…。

 燃え盛る小さな家で泣き叫ぶ一人の幼い少女と、年齢はそれぞれ40代と30代だろうか…、彼女を守ろうとする両親らしき二人の男女。

 クラリスの心に突然割り込んで来たその謎の光景は、当然ながら共有が進行しているリグの心象にも反映される。


(お、おいっ……、何なんだよ、これ……。クラリスっ、一体どうしちゃったんだよっ…?)


 以心伝心でクラリスに呼び掛けるリグだったが……


(わかんない……、自分でもわかんないの…。突然、イメージの中にこれが現れて……。私だって何とか消そうとしてるのに、全然消えなくて……、ていうか、ますます強くなってるような……)


(ええっ…、どういうことだよっ…?、一体何が起きてるっていうんだよっ…?)


 クラリスが言う通りその映像は、次第に彼女の心の中で、容姿がはっきりとわかるぐらいにまで鮮明になっていった。

 よく見れば、少女とその父親と思われる男の髪色と目の色は同じ…、白金色の髪に青い瞳をしている。


(何なんだ…、ここに映っている人たちもデール族なのか……。なあ、クラリス…、とりあえず、一旦止めようぜっ…?、なんかヤバそうだ………って、おいっ、クラリスっ…、どうしたんだよっ…!?)


 ただならぬ懸念を抱いたリグは、術の発動を中止しようとクラリスに再び呼び掛ける。

 ところが、クラリスからは何の返事も返って来なかった。

 いつしか彼女の心象は、無意識下でその “謎の家族” に取り込まれてしまっていたのだ。

 ついには断片的ではあるが、親子三人の会話まで聞こえ始めた。


『………ぉとうさんっ…!、ぉかぁさ…!………』


『………リス……、……うな…ら……。……いつで……みまも……からね……』


 映像の中の、悲痛に両親を呼ぶ少女は、金色(こんじき)の眩い光に包まれていた。

 一方の父と母は、涙を溢しながらもとても慈悲深い優しい顔で、最愛の娘に最後の愛情を手一杯掛ける。

 クラリスの目からも、ボロボロと涙が湧き出ていた。

 その涙は、他人の悲劇を()の当たりにした、第三者としての悲哀の涙…だと彼女は思った。

 いや、()()()()()()()()()()のだろう。


(………この子…、『お父さん』、『お母さん』って言ってる……? やっぱりこの三人は親子みたい………えっ…あれ………)


 自己同一性を喪失したが如く、クラリスの思考は突如空回りしてしまう。

 するとその刹那…


 ドクッ……ドクッ………


(………うっ…ううう………な、何なの……痛い…痛いよ……)


 ぐちゃぐちゃにされた記憶の残骸が、生々しく脈を打ちながらクラリスの脳裏に流れ込む!

 そしてそれは……、彼女にとって、あまりにも救いのない瞬間だった。


(………お父…さん……お母さん………ああそうか………この女の子は………()()……)


 …………………………


「いやあああああああっ…!!!」


「……………ッツ!?」


 その場の静かな空気を一変させる、クラリスの痛ましい悲鳴。


「クラリスちゃんの声っ…!?、な、何なのっ…?、何があったのっ…?」


 それを聞いて、近くにいたアイシスと数人の従者も、一体何事かと駆け付けて来る。

 そこにあったのは…、術陣の真ん中で(うず)って頭を抱え、顔を真っ青にさせて震えるクラリスの姿だった。

 さらにはリグも、彼女の気に当てられたように、その隣にへたり込んで涙を流している。


「お爺ちゃん…、一体何があったっていうの…?」


「わからぬ…、転移の擬似体験をさせておったのじゃが、突然クラリスが取り乱しおっての……。あの子の心の中に何が見えたというのか……」


 突如、クラリスの身に起こった異変に、ルロドですら酷く困惑の様相を見せる。


「大丈夫…?、クラリスちゃん……、立てる…?」


 アイシスが労りの声を掛けるが、クラリスが平静を取り戻すにはもう少し時間が掛かりそうだ。

 すると、落ち着いたリグが悄然と口を開いた。


「あれはたぶん……小さい頃のクラリスだ……」


「どういうこと…?」


「クラリスのイメージの中に、いきなり火事の中で泣いてる女の子の姿が現れたんだ…。最初はわけがわかんなかったけど…、きっとそれは…こいつの奥底で眠っていた昔の記憶なんじゃないかって……」


「そんな……」


 クラリスの悲しい過去については知っているし、彼女に親身になって寄り添った気にはなっていた。

 だが、実際に記憶の映像として見せ付けられて…、クラリスが抱えるそれが、自身の想像を遥かに超える惨たらしいものであったことを、リグは痛烈に思い知らされた。




 それからしばらくして…


「クラリスよ…、これは一体どういうことじゃ…? 回数を(こな)して転移にはしっかりと体は慣れたはずじゃ…。かような状態といい、ただの転移酔いであるとは到底思えぬ…。何か、わしらに隠していることはないのか?、例えば…、以前から()()()()()()()()とかのう…」


 すでに真相を見透かしているようにも感じられるほどに、ルロドはクラリスを問い詰める。

 彼の冷厳な目に見据えられて、最早隠し立ては出来ないと観念したクラリスは、正直に話した。


「今まで黙っていてごめんなさい……、実は…転移する度に、自分でも原因がわからない胸騒ぎがしてたんです…。あと…、実は私…、小さい時に実の父から転移術を受けてたみたいなんです…。記憶を失ったのも、その術の影響みたいで……。でも…、今、術を発動させようとした時に…、その記憶が………」


「失われていた記憶が甦ったとでもいうのか…?」


「はい…、断片的にですけど……。そして…、その記憶は…、たぶん父が敵から私を逃すために、術を掛けた……ちょうどその時です……」


「そうか…、まあ聞いた状況から察するに、おぬしの父とやらは術陣を描くことなく、その場で咄嗟に術を発動させたようじゃな…。その影響で、おぬしの体に想定外の負荷が掛かり、記憶の喪失に繋がった可能性は十分に考えられるのう…」


 なおも表情変えることなく、淡々と推察を述べるルロド。

 それでも、なんやかんやで子供思いの彼なのだ。

 クラリスの事情を聞いて、最後には優しく労りの言葉を掛けるものだと…、その場にいた皆はそう思っていた。

 ところが…


「そんなことはどうでもよい…、クラリスよ、このまま修行を続けるのか?」


 ルロドはクラリスを気遣うことなく、冷淡に選択を迫る。

 落ち着きを取り戻したとはいえ、衝撃と悲しみで心が打ちのめされた今の彼女にとって、それはあまりにも情に欠けた言葉であった。


「お爺ちゃんっ…、クラリスちゃんはこんなにも弱ってるのよ…?、もうちょっと他に、掛けてあげられる言葉はないの?」


「そうだよっ」


 咄嗟に異を唱えるアイシスとリグだったが……


「ふん…、かようなことで心が折れるとはのう…。特にクラリス…、おぬしには一層の目を掛けておったのじゃがなぁ…、とんだ期待外れじゃったわい…」


 ルロドは言葉を改めるどころか、弱るクラリスをさらに追い込んでいく。


「お爺ちゃんっ…!、なんて酷いこと言うのよっ…!?」


「おいっ、じいちゃんっ…!」


「ルロド様…、恐れながら、いくらなんでもお言葉が過ぎるのでは…? クラリスお嬢があまりにもお気の毒ではありませんか…」


「そうですよ…!」


 (いき)り立つアイシスとリグ…、さらには従者たちまでもが苦言を呈す。


「ああ…、そうであったな…。元はと言えば、わしはおぬしらがこの里を出て行くのに反対しておったんじゃ…。故にこれで良かったんじゃ…。これからは余計な下らんことは考えずに、この里でゆるりと過ごすことじゃな…。おぬしらはわしの孫として、わしにただ甘えておればよいのじゃ……」


「お爺ちゃんっ…!」


 アイシスの引き止める声に反応すらすることなく、ルロドは一人ひっそりとその場から去って行った。


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