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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第20章 25.転移の極意

 さて…、翌日以降も過酷な修行は続く。

 それでも、クラリスとリグは死に物狂いで、必死にそれに食らい付く。

 もちろん、『二人の覚悟と想いの力』と言ってしまえばそうなのだろうが、それよりももっと確かな理由もあった。

 父アルテグラに厳しく育てられ、さらにここまで長きに渡る苦難の旅路を歩んで来た二人。

 その根性は、本人すらも気付かぬほどに、強く逞しく鍛え上られていたのだ。

 一方、この里の子供たちは、最初にルロドが『子は宝』と言ったように、基本親から甘やかされて育つ。

 卓越した魔術の才のおかげで、日常生活を何の苦労もなく過ごせることもあって、この里の人々には “ヘタレ” が多い。

 ルロドも、二人がここまでの忍耐を発揮するなど、思ってもいなかっただろう。

 そんなこんなで、見事にルロドの期待以上に応えたクラリスとリグ。

 1週間を過ぎた頃には、基礎訓練と並行して、実践的な魔術の修行も始まった。


「ほんじゃあ、ここらでちょいと転移の実践でもやってみるかのう…」


「えっ、ほんとですかっ?」


「やったぁっ!、やっとだよぉ〜!」


 ルロドの口からついに核心が触れられて、二人は喜びを露わにする。


「では、準備を始めるぞい」


 そう言うと、ルロドは手慣れた様子で、適当な棒を使って地面に魔術陣を描いた。

 以前に見せてもらった、先人たちがジオスに渡った時に用いた術陣に比べたら、遥かに簡素な三重円。


「これは普段、我々の日常生活で使われている術陣じゃ。陣の中に象形文字で現在位置と転移先を記す。これは今いる我が家から、島の南端の砂浜への転移を表しておる」


 以前アイシスも言っていたように、この里では転移術を物資や人の運搬手段として利用している。

 とはいえ、誰もが使えるわけではない。

 転移術はやはりそれなりに習得難易度が高く、使い(こな)せる人々はそれを生業(なりわい)としていたりもする。

 実は彼らは、その術をルロドの元で扱かれて習得している。

 ところで…


(なるほど…、術陣の中に記号を描いて、行き先とかを指定するのか…。でも…、私がお父さんから受けたという術はなんだったんだろう……? 記憶まで失って、ジオスから遥か離れたガノンに…、しかも4年も先の未来に飛ばされて………って、あれっ……、じゃあ…私……そのまま生きてたら…お姉ちゃんと同じ歳だったってことっ……!?)


 今になって、衝撃の事実に気付いてしまったクラリス。

 無性に胸がこそばゆく、頭の中がこんがらがって呆然とする。


「おい、クラリス…、どうしたんだよ……」


「………ッツ?、な、何でもないよ……」


「そっかぁ…?、あ、わかったぞ?、うんこだろ?、さっさとして来いよな」


「だから、違うったらっ…!」


(はぁ…、じゃあこの子も…、よくよく考えたら、私よりも5歳も年下なのかぁ……。何だかなぁ……)


 相も変わらずのリグを醒めた目で見て、何とも無常な気分に浸るクラリスだった。





「これ、二人とも、何をべちゃくちゃ喋っておる? さっさと始めるぞい」


 ルロドに促されて、気を取り直したクラリスとリグは魔術陣の中に入る。


「向かう先は、さっきも言ったように南端の砂浜…、4日前におぬしらが修行した場所じゃ。精神を高めると同時に、その砂浜の光景を思い浮かべて、二人でその心象を共有するのじゃ」


「『心象の共有』って…、具体的にどうやるんですか…?」


「まあやっておれば、(おの)ずと体でわかるじゃろうて…。慣れれば念じるだけで十分なのじゃが、おぬしらは少しでも互いの融和性を高めるために、手でも繋ぐとよかろう」


 ルロドに言われるがままに、クラリスとリグは術陣の中心を囲む形で、両手を繋ぎ合わせた。

 目を閉じて精神を集中させつつ、転移先の砂浜の景色を頭に浮かべる二人。

 すると間もなくして……


(えっ…、一体何なの……)


(何だ、これっ…?)


 二人が体感したのは、自身の砂浜のイメージの中に、同じ場所ながら違う地点や角度からの光景が割り込んで来る、未知の感覚だった。


(そうか…、『心象を共有する』ってこういうことか…。じゃあこれは…、リグくんが思い描くイメージだってこと…? てか、何で砂浜なのに海の景色しかないのよ…、おかしいでしょ?)


 クラリスはリグから押し付けられたイメージをぐいっと押し返すが……


(おい、砂浜なのに海がねえのはおかしいだろ。お前こそ変なイメージするなよなっ)


(はぁ?、変なのはそっちでしょ! それに私のはちゃんと砂浜も海もセットになってるじゃないっ? 言い掛かりはやめてよねっ!)


 いつしかイメージのやり取りは以心伝心へと繋がり、精神世界の中で犬も食わぬレベルの喧嘩をし始めたクラリスとリグ。

 互いの握る手にも汗ばんで熱が入り、無意識に握力も強くなる。


(痛いっ…、痛いったら……)


(強く握ってんのはお前のほうだろ? てか、お前それ、本当に女の力かよ…、ゴリラ並みじゃねえか……)


(はぁっ?、何ですってぇっ!? てか、さっきからお前お前って、アンタ私よりも5歳も年下なのに生意気よっ!)


(痛てててっ……あかんっ、マジ折れるってえええっ……! てか何だよ、『5歳も年下』って…、わけわからんこと言ってんじゃねえよっ!)


 最早、喧嘩の焦点が完全に外れてしまい、そのまま場外乱闘へと発展しかねない事態となるが……


「これっ、やめんかっ!」


 クラリスとリグの醜態を見るに見かねて、ルロドは一喝して二人を制止した。


「おぬしら、一体何をやっとるんじゃ…? 心象を共有しろと言っておるのに、喧嘩などしおって……、まったく…呆れて物も言えんわい……」


「すいません……」


 面目なく、ルロドに謝るクラリスとリグ。

 ところが意外にも、ルロドは呆れ顔を綻ばせて穏やかに話を続ける。


「しかし、互いの心の中で、ここまで思いを通わせられるとはのう…。正直、わしは驚いたぞい。『喧嘩するほど仲が良い』とも言う…、お互いに素直になって真摯に思いを伝え合えれば、次こそは必ずや上手く行くじゃろうて……」


「おじいちゃん……」


「じいちゃん……」


 ルロドの言葉と彼の優しい口振りに、二人の心はすっかり落ち着いたようだ。


「あの…、リグくん…さっきはごめんね……」


「いや…、俺の方こそ悪かった…、『ゴリラ』とかひどいこと言っちまって…ほんとにごめん……」


「ううん…、そんなことより、また頑張ろう?、次こそは必ず成功させよう?」


「おう、そうだな! ところで…、さっきお前が言ってた、『5歳も年下』って…、ほんとにどういう意味なんだ…?」


「な、何でもないよ…、ちょっとカッとなって口走っちゃっただけだから、気にしないで……あははは……」


 わざとらしく空笑いを浮かべて、その場をやり過ごすクラリスであった。



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