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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第20章 23.ルロドの特訓

「ともかく、そういうわけじゃ。次の蒼月まであと30日ほどと言ったところか…。まだ子供ということもあるが、今のおぬしらでは転移を成功させるための魔素が弱過ぎる。それまでにしかと力を身に付けねばのう…。特にリグ…、デール族の血を引いておらぬおぬしは、より一層の努力が必要じゃ。これまでのように、下らん玉遊びに呆けてる暇はないぞ?」


 いつもの穏やかな口調ながら、心までも見据えた鋭い目で、リグに覚悟を問うたルロド。


「うんっ、俺頑張るよっ!」


 リグの返事からは、いつものお調子者の彼らしからぬ、真摯な意志がひしひしと伝わって来た。

 期待以上のリグの返事に気を良くしたのか、ルロドは一瞬顔をニンマリとさせて話を続けた。


「そうか…、なら良い。さて、転移術もだが、無事に生きて返って来てもらうには、おぬしらはもっと強くならねばのう…。そうじゃな…、目安としては一人で竜一頭仕留められるぐらいかのう?」


「ええっ…?、一人で竜を…ですか……?」


「そうだよっ、いくら何でもそれは……」


 ルロドが出した課題に、クラリスとリグは咄嗟に異を唱えるが……


「何をそんなに怖じけておる?、それぐらいの覚悟はあって申したことであろう? 心配せんでも良い…、先程はああは言ったが、おぬしらには才能がある。修練次第では、短期間でその高みに至ることも可能じゃろうて…。ようし、なればこのわしが直におぬしらを鍛え上げてやろう。さすれば、おぬしらが強くなるのも、転移を使い(こな)せるようになるのもあっという間じゃ」


「本当ですかっ…?、ぜひお願いしますっ」


「やったっー、ありがとう、じいちゃんっ」


 ルロドの申し出に、屈託なく喜ぶクラリスとリグ…、ところが……


「あ、あの…、お爺ちゃん? ちょっと考え直した方がいいんじゃないかしら…。ほら…あの子たち、まだ子供なんだし……」


 二人の反応とは対照的に、アイシスが顔を引きつらせてルロドに控えめに訴える。


「何故じゃ?、二人はすでにその気になっておるのじゃ。余計な口を挟むでない」


「…………………」


 今度はただ黙って、クラリスとリグを遣る瀬なく…、というよりも、どことなく不憫な目で見つめるアイシス。


(えっ…、一体何なの……?)


 クラリスが何気なく覚えた胸騒ぎ…。

 彼女はそれを、一生のトラウマになるほどに思い知らされることとなる。




 その翌日…


「このグズどもがぁっ、もっと速く走らんかぁっ! 強い魔素を育てるには、まずは体力作りからじゃぁっ!」


「ひっ、ひいぃっ……」


 砂浜の上を何本もダッシュさせられているクラリスとリグ。

 竹刀代わりの棒をビシバシ地面に叩き付けながら、ルロドはデコ亀の上から厳しく目を光らせている。

 温和な “おじいちゃん” からは一変…、修行となると、なんと彼は熱血スパルタ教師に豹変した。

 二人の父アルテグラも、魔術のことになると体罰も辞さないほどに厳しかったが、ルロドのそれは最早別人格であった。

 そんな様を、木の影からこっそり覗いていたアイシス。


(あーあ…、だから言ったのに……。あの人、魔術の修行のことになると、別人のように厳しくなっちゃうのよ…。お爺ちゃんの指導で、これまで何人の人がおかしくなっちゃったか……。お願いだから…、無理はしないで……)


 必死にルロドの扱きに食らい付こうとするクラリスとリグを、アイシスは沈痛な思いで見守り続けた。




 しばらくして…


「ようし、走り込みはこれぐらいにしておこうかの…」


 ようやく、ルロドの口から終了の合図が出た。

 電池が切れたロボットのように、クラリスとリグはその場でグッタリと倒れる。


「はぁ…はぁ……、み、水……水飲みてぇ……」


「も、もう……海に…と、飛び込みたい……」


 完全に切れた息とともに、途切れ途切れの言葉を吐く二人だったが……


「そうか…、そんなにも水が欲しいか…。ならばおぬしらをとっておきの場所に連れて行ってやろう……。ほれ、(はよ)う立たぬか」


 ルロドは陰湿に表情を微笑ませて、強引に二人との会話を繋げた。


(ええ…、今度は一体何なの……)


 その邪気があからさまに感じられる顔に、クラリスとリグは(たちま)ち、次に待ち受けるであろう恐怖に(おのの)く。


 こうして、汗ばんだ体に砂をべっとりと(まと)わせた二人を連れて、彼がやって来たのは……


 ゴアアアアァッ…!


 轟音のように響く水音…、(ほとばし)る水飛沫(しぶき)…、(ほて)った体が一瞬で冷める冷気と風圧……、数十メートルの高さから豪快に水が(なだ)れ落ちる、森の中の滝だった。


「次はここで滝修行じゃ。滝に打たれてしかと精神統一出来れば、おぬしらの下らん雑念も消え失せるじゃろうて、わはははっ」


(ええ……)


 最早、二人への扱きを楽しんでいるかのようにも見えるルロドであった。


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