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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第4章 3.覚悟の密航

皆様、明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願い致します!

予定よりも少々早いですが、投稿を再開します。

前話の続きから…、再びクラリス視点のお話です。

 私の密航計画は成功した。

 まず屋敷でコマックのお爺さんを欺き、お義父様の見送りで家族や家人の大半が門前に集まる隙を突いて、貨物車の荷台に乗り込む。

 幸運なことに、ジオス軍の使用する貨物車は馬車から荷台が取り外し可能で、そのまま荷台ごと船内に運び入れられる仕組みだった。

 おかげで、屋敷から軍港まで、私は一度も外に出ることなく船内に潜入することが出来た。

 しかし問題はここからだ…。

 着の身着のままで乗り込んだため、食料の準備などは一切ない。

 そもそも、この後の行動の目星すらない。

 広い船内とは言え、100人以上が乗っているのだ…、見つからずにガノンへ行ける可能性は極めて低いだろう。

 それでも、自分から姿を見せるわけにはいかない…、完全に成り行きだが、とりあえずは隠れ潜むしかない。

 出港して2日目、さすがに空腹も限界に近づいて来た…。

 申し訳ないが、少し食べ物を失敬しようと…、食糧庫に忍び込んだのが運の尽きだった。

 簡単に食べれそうな物を探していたところを、ちょうど部屋に入って来た男性に見つかる。

 逃走も虚しく、私は駆け付けた衛兵たちに取り押さえられた。

 彼らは私に詰問をするも、私は一切何も答えず、だんまりを貫いた。

 無論、このことは当然お義父様の耳にも入り、私が彼の前に連れ出されるのは時間の問題だろう…。

 それでも、自分からは絶対に身元を明かさない、お義父様の名を絶対に出さないという、謎の矜持みたいなものが私にはあった。



 そして今…、私は不審者として、縛り上げられて船内の牢に拘留されている。

 薄暗く不気味な船内で、どれほどの時が経っただろうか…。


「おい、尋問だ。外に出ろ」


 尋問のために、衛兵が私を連れ出しに来た。

 縛られたまま、私は船内を引き回すように連行される。

 周囲の人々の、奇異なものを見るような視線が痛い…。

 もちろんこうなったのは全て自業自得なのだが、私は俯いたまま、誰とも視線を合わさずに船内を歩いた。

 衛兵に連れて来られたのは、“執務室”と書かれた、とある一室だった。

 ちなみにこの階層になると、牢のある下の階層に比べて、魔導灯がしっかりと灯っていてかなり明るい。

 同じ船内とは思えないぐらいだ。


「失礼致します! 例の侵入者を連れて参りました!」


 威勢の良い声を上げて、衛兵が入ったその部屋の先にいたのは…、お義父様だった…!

 お義父様は私の姿を一瞥すると、背を向けたまま、衛兵に「縄を解いてやれ」と指示をした。

 (ほど)き終わると、さらに彼に対し、「後は全て私がやる。ご苦労だった」と告げて退室させた。

 今、室内にはお義父様と私の二人っきりである。

 きつく縛り上げられていたため、私は腕の縄目の跡を押さえながら、その場に萎縮して佇んでいた。

 そんな私に対し、彼はいつものような厳格な気配を漂わせて言葉を発した。


「何故お前がここにいる? 付いて来ることはまかりならんと申したはずだが?」


 感情の起伏がない淡々とした口調ではあるが、その目は突き刺すように冷たく、そして恐ろしかった。

 目を見ただけで、彼の相当な怒りが感じられる…。


「も…申し訳ありません……」


 その目にすっかり怯えてしまった私は、(てのひら)を重ね、頭を深く下げて、お義父様に必死に謝る。

 ところが、彼はそんなことを聞く耳を全く持とうとはしなかった。


「謝罪ではない、理由を聞いておるのだ。何だ、言えないのか?」


「…………どうしても…、どうしてもガノンに行きたいんです…!」


 お義父様に追い詰められたように…、私は振り絞るように本音を吐いた。


「先日言ったことを聞いていなかったのか? 彼の地でお前に出来ることは何もない。むしろ足手まといにしかならん。思い上がりもいい加減にしろっ!」


 ついにお義父様が激情を露わにした。

 彼の激昂が、肌にピリピリと伝わるぐらいに、強烈に感じられる。

 火傷しそうなぐらいの激しい怒りに、思わず(ひる)みそうになるも、本音を吐露してしまった今の私に、ここで引く選択肢はなかった。


「お義父様はあの日…、『弱者を救いたければ強くなれ』とおっしゃいました…。私がこれまでお義父様の元で修練に励んで来た理由…、それは虐げられてる大切な人を救う…そのためでもあるんです…! お願いします…、どうか…どうか私を連れて行ってくださいっ!」


 ついには彼の前で、私は床に膝を着いて頭を下げた。


「クラリス…、頭を上げろ」


 お義父様は落ち着いた口調で、私に立ち上がるよう促す。

 そして、暫し熟考する仕草を見せた後、こう言った。


「あれほど申したにも関わらず、私の言い付けを破ったのだ…。帰ってから、それ相応の罰を受ける覚悟は出来ておろうな?」


「……もちろんです、お義父様!」


 私の強い決意を前に、お義父様は呆れたような表情を浮かべて軽く鼻息を()く。

 そして、徐に執務机の奥にある、謎の器具を操作し始めた。

 直径30センチ大の恐らくガラス製の半球であるその器具は、彼が触れると青色から赤色へと発光変色した。

 何かの魔導器具なのだろうか?



 そして、数分後…


「失礼致します!」


 ドア越しに聞こえて来たのは、聴き心地の良い、とてもハキハキとした芯の通った女性の声…。

 その声とほぼ同じタイミングで入って来たのは、長身で体格の良い30歳前半ぐらいの、美しさと格好良さを併せ持った女性だった。

 鼻が高く整った顔立ち…赤みがかかった長い癖毛…、誰かを思い出す…。


(そうだ、カンタレ先生に何となく似ている!)


 大きい胸元を強調するような白いシャツに、これまた流線型の美しいボディラインを際立たせるような、タイトな革パンツを着用していた。


「ピレーロ部隊長、呼び立ててすまなかったな」


 お義父様がこの女性をここに呼んだらしい。

 どうやらあの器具は、魔光を用いた通信器具のようだ。


「いえ、とんでもございません。して、長官、ご用件は……おや、そちらの少女は…?」


「私の娘だ…」


「なんと…長官のご子女…。しかし、何故こんなところに…?」


「勝手に付いて来おったのだ…」


「……本当ですか!?」


「うむ…。そのことで、大変申し訳ないが…、お前に頼みたいことがある。こやつの面倒を見てやってくれんか?」


 お義父様の思わぬ要請に、その部隊長だという女性は困惑している様子だった。


「どういう…意味でしょうか…?」


「こやつをガノンまで連れて行く。同性であり、面倒見の良いお前を見込んでのことだ。無論、私の娘だからといって忖度する必要は全くない。こやつの処遇は全てお前に任せよう。どうだ、頼めるか?」


「長官の命とあらば…、謹んでお受け致します」


 そう申し出を受諾すると、彼女はその長身から、私を睨み付けるように鋭い目で見下ろした。


「では、失礼致します」


 彼女はお義父様に一言告げると、私に有無も言わせず、私の腕を無理矢理引っ張って部屋を後にした。


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