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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第20章 20.緊迫の直談判

 それからしばらくして食後…


「おうしっ、腹ごしらえもできたしっ、後半行くぞっ!」


「うえーん…、もう嫌だよぉ〜」


「おうちに帰りたいよぉ〜」


 哀願虚しく、リグに駆り出されるドリスとヴェル。

 そんな三人を、クラリスは空笑いを浮かべて生温かく見守る。

 だがその一方で、実は彼女には、アイシスにどうしても聞きたいことがあったのだ。


「あの…、アイシスさ………おねえ…ちゃん……?」


「まあっ、なあに、クラリスちゃん?」


 クラリスが呼び方を変えた途端、アイシスはつんとした顔をニンマリと綻ばせる。


「ちょっと、聞きたいことがあって……」


「あらぁ、この頼りになるお姉ちゃんになんでも聞きなさい?」


 特に何の意味もなく惰性で、クラリスの頬をぺたぺたと触るアイシス。


「………その…、前にルロドのおじいさんが言ってたことなんですけど…、ジオスのデール族の人たちは、ずっと昔にこの島を出てった人たちだって……。その人たちがどうやってこの島を出たのかが、()()()()気になってて……」


 この里での生活にすっかり馴染む一方で、クラリスはジオスへと戻るための手段をずっと模索していた。

 その貴重な手掛かりが、遥か昔にこの島を出てジオスに渡ったという、彼女にとっても祖先に当たるデール族の人々だった。

 クラリスはそれを、単なる個人的関心を装って、ルロドよりかはまだ聞きやすいアイシスに尋ねたのだが……


「うーん…、私も伝承でしか読んだことがないけど、なんでも転移術で下の世界へと出て行ったみたいよ? その名の通り、着の身着のまま自身の体を他所の場所に飛ばしちゃう術ね」


(えっ…、転移術って……、私の実のお父さんが私を逃すために使ったっていう……)


 アイシスの口から当たり前のように出た『転移術』という言葉に、クラリスはただならぬ直感を覚える。


「あのっ…、その『転移術』について、詳しく教えてくださいっ…!」


「ど、どしたの…?、突然……。でもお姉ちゃん、そんな積極的なクラリスちゃんも大好物よ! とりあえず、ちょっと人気(ひとけ)のない所にでも行き………」


「もうっ、ふざけないでっ!、真面目に聞いてるんですっ…!」


「そ、そんなに怒らないでよ……。別に転移術自体は何も珍しくはないわよ? この里でも、離れた場所への人の移動や、魔獣や荷物の運搬で日常的に使ってるんだから。ただ、外の世界への転移となると話は別ね…。悪いけど、私じゃあ詳しくはわからないわ。こういうことは、やっぱりおじいちゃんに聞いた方がいいんじゃない? でも…、どうしてそんなことに興味を持ったの?」


「いえ…大したことじゃないです……」


「……そう…」


 どこか憂悶とした様子で返事を返すクラリス。

 アイシスはその変化にとっくに勘付いてはいたが、敢えて問い(ただ)さずに寂しい顔で聞き流した。




 その後、クラリスはリグに “転移術” のことを話した。


「マジかよ…、本当にそんなもんが存在するのか…? あっ、でも、確かお前もその転移術ってやつを受けたことがあるんだっけ…?」


「うん…、でも私が受けた術は、受けた側の脳にかなりの負担が掛かるみたいで…、そのせいで私は昔の記憶を失っちゃったみたいなの…」


「それは前に父上から聞いたけど………って、じゃあ、それって大丈夫なのかよっ…?」


「わかんないけど……、でもこの島じゃ、普通に日常生活でも転移術が使われてるみたいだし…、私が受けたやつとはまた違うんじゃないかな…? それにもし、この島を出てジオスへとやって来た人たちも記憶を失ってたとしたら、デール族の話自体がジオスには存在しないはずでしょ?」


「まあ、そりゃあそうか…」


 ………………………




 こうして、その日の夜のこと…、早速、意を決してクラリスとリグはルロドの部屋を訪れた。


「おお、こんな遅くにどうしたのじゃ?、クラリスにリグよ」


「あの…、おじいちゃんに聞きたいことがあるんです…」


「なんじゃ?、クラリスはともかくリグまでとは珍しいのう…。まあ、何でも興味を持つことは良いことじゃ。さて、何が聞きたいのじゃ?」


 やや訝しく思いながらも、いつものように朗らかに二人を迎え入れたルロドだったが……


「実は…、遥か昔にここからジオスに渡った人たちが使った…転移術について教えて欲しいんです…」


「………何故…かようなことを聞く…?」


 クラリスの言葉を聞いて、ルロドはあたかも二人の意図などお見通しの如く、途端に眉間の皺を増やした。

 彼の(まと)う空気が張り詰めたものへと一変する様は、クラリスとリグにもひしひしと伝わる。

 それでも…、自分たちの覚悟を見せるためにも、二人は隠し立てすることなく正直に打ち明けた。


「私たちは…、ジオスに…私たちが生まれた国に戻りたい……いや、戻らなくちゃいけないんですっ…。あっちには…私たちを命を懸けて助けてくれた人たちが今戦っているんですっ…!」


「お願いだよ、じいちゃんっ…、俺たちの父親は、俺たちを守って敵に殺されたんだっ…! 俺たちはジオスに戻って、父上の仇を取りたいんだよっ…!」


 到底その年齢のものとは思えない、少年少女の悲壮な訴え。

 だが…


「ふん…、話はそれだけか? 気が済んだのならさっさと出て行くがよい…」


 ルロドの答えは、あまりにも無感情で冷たかった。


「そ、そんなっ…!?」


「おいっ、じいちゃんっ…!?」


 当然ながら、そんなことで諦めるなど出来ないクラリスとリグは、なおもしつこく食い下がるが……


「誰が何と言おうと、おぬしらはわしの孫…、そしてこれからもずっと、この里で安穏と暮らしていくのじゃ。下界におった時の記憶など…、長い夢だったと思って忘れることじゃな。なんなら、一抹の未練も残らぬよう、わしがその夢を覚ましてやってもよいぞ? さすれば、おぬしらを惑わす、その下らぬ情感も綺麗さっぱり消え失せるじゃろうて…」


「そ、それって……、まさか私たちの記憶を奪うってことですかっ…?」


「それが不服なら、今後二度とかような戯言は吐かぬことじゃな…」


 ルロドは寒々とした尖らせた目で、クラリスとリグを厳しく見据える。

 彼の無尽蔵の魔素すら溢れ出るほどの儼乎(げんこ)たる圧に、二人はこれ以上紡ぐ言葉が見つからない。


(どうしよう……どうしたらいいの……何か…何かないのっ……)


 それでも頭の中で、蜘蛛の糸一本にすら縋る思いで、思索を巡らせるクラリス。

 ところが、その時だった。


「おじいちゃん…、もういい加減にしてください」


(アイシスさん…)


(アイシス姉ちゃん…)

 

 緊迫した空気を入れ替えるようにして、突然アイシスが部屋に入って来た。


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