表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
425/623

第20章 16.フェルカが還る場所

 さて、ある日のこと…

 クラリスとリグは外出し、とある場所へと向かっていた。

 ところで、体の傷が綺麗さっぱりと治ったクラリス。

 この島特有の温帯な気候もあり、彼女はあれから肩や背中を露出した服装をすることが多くなった。

 ちなみに今日の装いは、この里では一般的な涼やかな麻素材を用いた、花柄刺繍のノースリーブワンピース。

 特に意味もなく、くるりんと軽快に回ってみせると、白金の髪とワンピースの大裾がふわりと(なび)く。

 華奢な体付きに、艶やかな色白の肌…、まさにクラリスのために作られたと言ってもいいほどに、とても様になっていた。

 着たい服を好きなだけ着れるようになって、ここのところ彼女は毎日のようにニコニコしている。

 特に今日は、リグと二人でお出かけが出来るので、いつにも増してルンルンなご様子だ。

 そんなクラリスを横目で見て、彼女の傷を見てしまったあの日以降の日々が、感慨とともに脳裏を過ぎるリグ。

 彼も本人に劣らず、嬉しさで胸がはち切れそうになる。

 ただその一方で、クラリスのそんな可憐な姿は、否応にも街行く人々の注目の的となっていた。

 ましてや、今や二人は、この里にて一目置かれる存在だ。

 リグを “下人” であると蔑む者などもういないし、クラリスに至っては暴れ竜に一人果敢に立ち向かった姿が、人々に鮮烈な印象を植え付けた。

 その凛然とした姿と、年頃の少女らしい姿とのギャップがまた魅力的なのか…、あちこちから、恋慕混じりの憧憬(しょうけい)の眼差しを浴びるクラリス。

 リグにとっては、そんな彼女を異性として見る周りの目が、目の上の(こぶ)になっているようだ。


「どうしたの?、リグくん…。何だかムスッとしちゃって……」


「………ッ?、な、何でもねえよ……。さあ、さっさと行くぞっ…」


 ………………………




 そんなこんなで、さらに街を抜けてクラリスとリグがやって来たのは、とある砂浜だった。

 エメラルドグリーンの清々(すがすが)しい海に、きめ細かで踏み心地の良い真っ白な砂…。

 この島では他にいくつも存在する、特に珍しくはない風景だ。

 だが、二人にとってこの場所とは……


「俺たち…ここで倒れていたのか…」


「うん…、そうみたい…」


 そこはクラリスとリグが漂着していた砂浜だった。


「あの時、船から落っこちた時、もうダメだと思ったのに…、よく生きていたよな…俺たち……」


「そうだね…、あの後、一体何があったのかな…?」


 巨大鯨によってここまで連れて来られたという経緯など、海に沈んだ瞬間に気を失った二人には知る由もない。


 ザアァ……ザアァ……ザアァ………


 暫し砂浜に座り込んで、なだらかな波を永遠に運び続ける海原を、特に会話もなく遠い目で見つめるクラリスとリグ。

 二人の手には、 “チーム アスタリア” のプレートが握られていた。


(ひょっとしたら…、これが私たちを守ってくれたのかな…? 伯父様も『お守りみたいなものだ』って言ってたし……)


 プレートにふと目を遣りながら、クラリスはうら悲しげに思索に耽る。

 すると、その時…


(何だろ…あれ……)


 何気なく遠方の砂浜に視線の移した彼女の目に、偶然飛び込んで来たもの…。

 それは陽の光を浴びて、キラリと一際輝く “何か” だった。

 硅砂(けいしゃ)が主成分のこの島の砂浜は、元々が砂金のようにキラキラとしている。

 だが、クラリスが見たそれは、その中でも格の違いを露骨にアピールするように、強い存在感を放っていたのだ。


「あれ、クラリス…、どこ行くんだ?」


「うん、ちょっとね…」


「ああ、なんだうんこか、ちゃんと家でして来いよな?」


「違うわよっ…!」


 リグの戯言の相手をしてやって、ただの興味本位でその元へと向かったクラリス。

 ところが、その輝く物体の正体とは……


「あっ…!?、これっ……お姉ちゃんの……」


 それを見た瞬間、クラリスは驚きとともに神に(いた)く感謝した。

 彼女が見つけたもの…、それはなんと、フェルカの骨粉が入った小瓶だったのだ。

 クラリスの声で駆け付けたリグも、感慨で心が震える。


「どうして…こんな所に……」


 あれから…、クラリスのペンダントとチームアスタリアのプレートは二人の元に戻ったが、フェルカの小瓶だけはどうしても見つからなかった。

 ルロドたち皆に聞いても、何の心当たりもないと言う。

 そもそもがこんな状況だったのだ…、ペンダントとプレートが戻って来ただけでも、奇跡というものだろう。

 断腸の思いで諦めざるを得なかったクラリスとリグ。

 それがまさかこの砂浜に、あたかも二人を追い掛けて来たかの如く、遅れて漂着していたのだ。

 すると…


 ザブンッ……


 海の彼方に見えたのは、まるで歓迎のダンスを披露するように、生き生きと海面を飛び跳ねるイルカたちだった。


(ここだったら…、きっとお姉ちゃんも喜んでくれる……)


 病床に伏せたフェルカが語ってくれた、自由にどこまでも大海原を悠々と駆けるイルカに(なぞら)えた夢…。

 クラリスはもう何も迷うことなく、散骨場所をここに決めた。




 さて…、フェルカの小瓶についてだが、巨大鯨がクラリスとリグを吐き出した後も、小瓶は鯨の体内に残っていた。

 そして消化されないそれは、排泄物に混じって海へと排出される。

 そのままぷかぷかと海原を漂い、偶然にもこの島へと漂着したのだ。

 そういうわけで、真相は決して美しいとは言い難いのだが……


「ひょっとしたら…、お姉ちゃんの魂が、この瓶を私たちの元まで運んで来てくれたのかもね……」


「ああ…、きっとそうだよ」


 こんな純真無垢な二人が、情趣もへったくれもない顛末を知らなくてはならないことほど、野暮なことはないだろう。


「お姉ちゃん……」


 それは最愛の姉の体の一部。

 本音を言えば、当然手放したくはない。

 それでも、フェルカの次の “生” がちゃんと本人が望むものになるように…、クラリスは安らかな心地で、彼女の亡骸(なきがら)を大海原へと送り出すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ