表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
413/623

第20章 4.里を捨てた者たち

「なんじゃあ、お嬢ちゃん、竜を見るのは初めてか? そうか、下の世界には竜という高尚な生き物などおらぬからのう。それなら驚くのも無理はない、ははははっ…」


 クラリスの反応を見て、これまた(いや)らしく言葉を吐くルロド。

 その物言いに不快感を覚えたのも事実だが…、それよりも、彼女の脳裏にとある記憶がピンッと飛び出した。


「あっ…、ここって…もしかして……、御伽(おとぎ)の島のアトリート島ですか……?」


「『御伽の島』…?、『アト…何とか島』…?、なんじゃ、それは…? 確かにここは島じゃが……」


「いえ…、ヴェッタの人たちが、この島のことをそう呼んでいたんです。伝説上の幻の島で、かつては多くの冒険家の人たちがこの島を目指したって……」


「ほう…、下人どもはこの島のことをそう噂しておるのか…。確かにかつてはごく稀に、下人どもがこの島に流れ着いたという伝承はあるがの…」


(やっぱり…、ここがゴメスさんやレティーナが言っていた、“御伽の島” アトリート島なんだ…。そして私たちみたいに、この島に流れ着いた人たちも確かにいた……。そういえば…、その人たちはどうなったんだろう…、ちゃんとヴェッタに帰れたのかな………あっ、でも…、ゴメスさんは『誰一人帰ってくる者はいなかった』って言ってた気が……。それに無事ヴェッタに帰れたなら、この島が御伽話としてなんて伝わってないだろうし……。そういうことは……、やっぱりここの人たちって……)


 推察を巡らせて、クラリスは再び不安と恐怖とで表情を強張らせる。 

 すると…


「確かクラリスちゃんだったかしら…、大丈夫よ…、何も心配しなくても…。そうそう、あの竜や大っきい鳥も含めて、ここにいる生き物たちは “魔獣” って呼ばれているの。クラリスちゃんも気付いていると思うけど、この島は大気中のマナの濃度が濃くてね、生き物たちも長い年月で独自の進化をしているのよ」


 しばらく黙っていたルロドの孫娘アイシスが、クラリスの緊張を(ほぐ)してやるように声を掛けた。


「えっ…、『魔獣』って……、人を襲ったりするんじゃ……」


「そうねぇ…、普段はそんなとこはないんだけど、何たってとっても頭が良い生き物だから、人の良し悪しもわかるの。だから、クラリスちゃんみたいに小さくて可愛らしい子だったら……、お腹が空いてたら、ガブリッ!って一口で食べられちゃうかもね……」


「ええっ…!?、そんなぁ……」


 その清楚な見た目らしからず、お茶目にクラリスを揶揄(からか)うアイシス。

 クラリスがそれを本気にして顔を青褪めさせる様を見て、彼女は口元を手で覆い、声を抑え気味にしてクスクスと笑う。

 いい歳していたずらっ子な孫娘に対し、ルロドは呆れ顔で口を挟んだ。


「これこれ…、アイシス、くだらんことを言うでない…。お嬢ちゃん、何の心配もせんでいい…、魔獣たちは基本的に人を襲ったりなどせぬぞい」


「へへへへ…、ごめんなさーい、お爺ちゃん」


 ルロドに窘められて、アイシスは年甲斐もなくペロリと舌を覗かせて苦笑する。


(そうなんだ…、よかったぁ……。てかこのアイシスさんっていう人……、お姉ちゃんそっくりな感じなのに…、なんか大人気ないな……)


 ホッとして、張り詰めていた気がだらーんと抜け切ったクラリスだった。





「私…、さすがに竜は見たことないですけど、あの大きい鳥ならジオスで見たことがあるんです……、あれは一体……」


 なんやかんやで、この場にも順応して来たクラリスは、山ほどある疑問を順番に聞いていこうと考えた。


「『ジオス』とは…、下の世界の話かのう? この島には、全域に迷彩結界と魔導障壁を張り巡らせてある。よって、本来であれば何者もこの島に立ち入ることなど出来ぬし、魔獣たちもこの島から出ることは出来ぬのじゃが、稀に障壁に綻びが生じることがあってな…。その時に、外へと出てってしまう魔獣が多からずおるのじゃ。お嬢ちゃんが下の世界で見たのは、恐らくそれじゃろうて…。ただ、お嬢ちゃんがここに流れ着いたのは、その魔素の強さによるものかもしれんがのう…」


「そうだったんですね…。あの…、確かに私の実の父はデール族でした…。でも、母はジオスの…、皆さんが言う “下の世界” の人です。実を言うと…、私、幼少の頃の記憶がないんです…。実の父と育ての父とが友人同士で、色々あって実の父が私のことを託したんです…。だから、デール族のことは何も知りません…。ジオスではデール族の人たちは村を作って共同生活をしていたって聞いています…。その村は……滅されて……、もうジオスにデール族は私以外にいないって……。あのっ…、ここがデール族の里だというのなら、何故ジオスにも同じ民族の人たちがいたんですか…?」


 クラリスはついに、自身のアイデンティティーにも関わる核心部に突っ込んだのだが……


「そうであったか…、下人ごときに育てられるとは……さぞかし苦労したのじゃろうな……可哀想に……うっ…うううう……」


 突然ルロドは、クラリスの境遇を哀れんで涙ぐみ始めた。

 確かに彼女が歩んで来た、短いながらも波乱万丈に満ちた人生には、十分に不憫がって然るべき部分はある。

 ただ、明らかに何かを曲解している模様のルロドに対して、クラリスは戸惑いと苛立ちを募らせる。


「あ、あのっ、私のことは別にいいですからっ…。何で、ここ以外にもデール族がいたのか…、それを教えてくださいっ…」


「うむ…、遥か昔のこと故、我々も伝承としてでしか知らぬが、今からおよそ600年前…、次期首長の座を巡って、この里を二分するほどの内部対立が起きたのじゃ。そして政争に敗れた側は新天地を求めてこの島を出ていきおった…。その者たちのその後など、我々が知る由もないが…、そうか…お嬢ちゃんはその者たちの血を引いておるわけじゃな? しかし、こうして何百年もの時を超えて、その者たちの遠い子孫がこうして故郷に戻って来るとは…、奇遇なこともあるものじゃのう、わははははっ…」


 あたかも他人事のように朗らかに笑いながら、デール族の歴史をクラリスに語るルロド。


(なるほど、そうことだったのか……、でも、このお爺さんのこの態度って何なんだろう…。いくら遥か昔のことと言ったって、自分たちと同じ民族が皆殺しにされて滅されたっていうのに…、こんなにも他人事のように平然としてるだなんて……)


 記憶が一切ない自分がそう思うのもなんだが…、それでもクラリスは、ルロドの反応に猜疑心を覚えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ