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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第19章 2.アンピーオの想いとアスターの思惑

 アンピーオはクラリスとリグを守るようにして、二人とアスターの間に割って入る。

 そして、なおも(いかめ)しい顔をしたアスターの前で、彼は神妙に語り出した。


「最早隠し立ては無用のようですな…、全てお話し致します…。私の名はアンピーオ・ミスト・センチュリオン…、そしてこの二人は姪のクラリス・ディーノ・センチュリオンに甥のリグ・ディーノ・センチュリオン……。我々は、ジオスの魔導士一族センチュリオン家の者…、訳あって祖国を追われてヴェッタへとやって参りました…。身分を詐称してでまでしてこの視察団に潜り込んだのは、再びジオスに戻り、王女レイチェル様率いる反体制派に加わるためです…」


「『センチュリオン家』だと…?、確か、ジオス前王暗殺犯を生み出し、王室に仇を為した逆賊の一族だと聞いているが……。そして、レイチェル王女は国家転覆を企む稀代の悪女だとも……」


「はぁっ!?、何だよっ、それっ!?、何でそんな話になってんだよっ…!?」


 アスターの口から出た無情な言葉に、リグは咄嗟に声を荒げて詰め寄ろうとするが……


「リグッ!、口を慎めっ!」


「うっ……」


 普段は大らかな伯父に厳しく一喝されて、リグは驚きとともに口籠ってしまう。


「我が甥が失礼致しました…。どうやらこのご様子ですと…、ゲネレイド様と書簡のやり取りでもされているようですな…?」


「如何にも…、5ヶ月ほど前にゲネレイド国王より親書をいただいて…、そのような内容が記されてあった。だが、あなた方の反応を見る限り…、事実はそう単純な話ではなさそうだな?」


「はい…、アスター様の信用に足りるかどうかはわかりませんが……」


 それからアンピーオは、センチュリオン家の真実…、ジオス国内情勢の真相…、そして妻を失った悲しみに負けて酒に溺れ、子も家も名誉も捨てた自身の経緯まで……、事細かにアスターに話した。

 一連の説明を終始黙って聞いていたアスター。

 先ほどよりかは幾分軟化したものの、なおも小難しい顔を浮かべたままだ。

 そんな彼に構わず、アンピーオは心を仕切り直して強く訴え出た。


「アスター様…、身分を偽りあなた様を欺いて来た不埒な行い、深くお詫び致します。私のことは如何様にも処分していただいても構いません。ですが、この二人…、クラリスとリグのジオスへの渡航だけはお許しいただきたいっ。このような差し出がましいことを申せる立場でないことは重々承知しておりますが…、我が命に代えてもお願い致しますっ…!」


 背筋をシャキッと正して、アスターに深々と頭を下げるアンピーオだったが……


「解せぬな…、何故子供の方をみすみす危険な場所へと行かせるのだ? 普通は逆ではないのかね?」


 アスターは訝しく口角を歪めながら、(もっと)もな疑念をぶつける。


「確かに…、普通の感情ではそうなのでしょう…。しかし、この子たちはジオス(彼の地)で多くの大切なものを奪われ…、それでも、決して悲しみや絶望に打ち拉がれることなく、前だけを向いて逆境に立ち向かおうとしているのです。そして()く言う私も…、無論この子たちと比べるのも烏滸(おこ)がましいですが…、祖国にて多くの大切なものを失いました…。人生に悲観し、全てを捨てて死んだように生きようと自暴自棄になっていたところ、この子たちと偶然にもヴェッタの街で再会した…。それからさらに紆余曲折はありましたが…、私はこの子たちと、すでに亡くなってしまったこの子たちの姉に、再び真っ当に生きる気力と勇気をもらったのです。ですから、私はその恩義に報いたい…、我が命を賭してもこの子たちの本懐を遂げさせてやりたいのです」


「伯父様……」


 アンピーオが憚ることなく真摯に語った想いに、クラリスとリグの胸からは熱い情感がじわじわと込み上げる。

 すると…


「……なるほどな……」


 アスターは軽く鼻息を吐いた後、脱力気味に言葉を漏らす。


「あ、あのぅ……、わかって…いただけましたか……?」


 一見僅かに和らいだ表情を見て、アスターの理解が得られたと判断したクラリスは、恐る恐る口を挟むが……


「それは到底無理な話だな…」


「えっ……?」


 アスターの回答は、クラリスの期待を高く持ち上げた後に谷底に落とすようなものだった。


(そ、そんな……、あと少しでジオスだっていうのに…、こんなところで……)


 顔を蒼白にさせるクラリスとリグ…、一方、陰鬱に顔を(しか)めるアンピーオ…。

 ところが、そんな崖っぷちの三人に構うことなく、アスターはさらに話を続けた。


「いくらなんでも、君たちの側の話を一方的に聞いただけで、それを信じろという方が無理があるだろう? ましてや、君たちは私を欺き続けていたわけだしね……」


 三人を見るアスターの目は冷めてはいるが…、心なしか嫌疑に満ちた刺々しさはなくなっていた。


「他人から一方的に聞かされたものなど真実ではない…、己の目で直で見て、己の頭で考え己の心で感じるもの…、それこそが真実だ。無論、ゲネレイド国王側の言い分にも、些か不審点を感じていることは認めよう。ともかくジオスに到着した後は、ジオス王都の視察に、さらには国王陛下との謁見と会談も予定されている。そこで、あなた方の話が “真” なのか “偽” なのか…、私自身の目で判断させてもらおう。それまで申し訳ないが、不穏分子としてあなた方の身柄は拘留させていただく。よろしいな?」


「はい……、アスター様の…ご意志のままに……」


 すっかり意気消沈して答えたアンピーオ。

 そういうわけで三人は当分の間、船内下層部にある物置部屋に拘禁されることとなった。


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