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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第3章 最終話.リグの学校

「ちょっと…!、何なの、あなたたち、この格好は…!?」


  彼女が驚愕したのは至極当然のことだった。

 しかし、何て言い訳をすれば…?

 スラム街に入り込んで、そこで犯されかけたなんて言えるわけがない…。

 すると、ここでリグの機転が働いた。


「いや…実はさあ…、こないだ来てたターニーが動物と会話出来るって言うから、俺らも出来ないかなあと思って、二人で森の中で動物を探してたんだ。そしたらクラリスのやつが服を棘に引っ掛けて破いちゃってさ…。それで俺のシャツを貸してやったわけ…」


 かなり苦しい言い訳ではあるが、これに賭けるしかない…。


「クラリスちゃん、本当なの?」


「はい…本当です……」


「本当にぃ?」


 フェルカが腰に手を当てて、圧迫するように、訝しげな表情を浮かべた顔を私に近付ける。


「は、はい…本当に…」


「はあ…、まあそこまで言うんだったら信じるわ。でも、以前に女の子なんだからあまりやんちゃはするなって言ったわよね? どうせリグに誘われたんだろうけど、いい加減、ちゃんと女性としての品格を持たなくちゃダメよ!」


「はい…ごめんなさい…お姉様……」


 あんなことがあっただけに、余計にフェルカの言葉が心に染みる。


「さあ、とりあえず二人ともお風呂に入って来なさい。またシチュー作ったの、食べるでしょ?」


 彼女はそう言って、いつもの優しい笑顔で私たちを迎え入れてくれた。



 体を綺麗にして厨房へ行くと、あの鼻孔をくすぐる芳醇な香りが漂っていた。


 グウゥゥゥ…


 不覚ながら、お腹の虫が鳴いてしまった…。

 そういえば、今日はまだ昼食を摂っていないんだった…。


「そんなにお腹空かせてたの…?」


 フェルカに呆れ気味にそう言われ、私は恥ずかしさの余りに何も言えずに俯く。


「さあどうぞ、お二人ともお上がりなさい」


「神の恩寵と慈愛に感謝を捧げ、いただきます」


 食前の挨拶をして、フェルカの作ったシチューをいただく。

 本当に美味しい…、特にあんなことがあった後では、シチューの温かさが体と心に染みる。

 そしてリグは…、彼も昼食は食べていない。

 さぞかしお腹を空かせて、いつものようにガツガツ掻き込むように食べているのだろうと思いきや……


「うっうっうっ……うわああぁーん!」


 リグはシチューを食べながら、突如号泣した。


「な、何…、一体どうしたの…!?」


 困惑するフェルカにお構いなしに、彼は泣き続ける。

 そういえばリグは、あの街で私に感情をぶつけるように吐露した際も、目に涙を浮かべてはいたものの、決して泣かなかった。

 それが今、フェルカの優しさと温かさに触れて、溜まっていた本心が堰を切ったように溢れ出たということか…。


「ね、ねえ…クラリスちゃん…、一体何があったの…?」


「ちょっと色々と…。ごめんなさい、理由は聞かないであげてやっていただけませんか…」


 フェルカは腑に落ちない様子ながらも、「……わかったわ」と一言呟いて理解をしてくれた。



 それからしばらくの間、リグの表情は曇り、いつもの能天気な元気さも影を潜めていた。

 そして1週間後…、突然私とリグはお義父様に呼ばれた。


(まさか、あの日のことがバレた…!?)


 戦々恐々として私たちは彼の自室に向かう。


「あの…お義父様、ご用とは何でしょうか…?」


「まあ、二人とも掛けなさい」


 座るよう促されて、私たちはソファーに腰を掛ける。


「実はフェルトの南家の長女フェニーチェのことだが、この度、ジオスに留学することが決まった」


「本当ですか!?、お義父様」


 さっきまでの不安は完全に消し飛び、私は驚きと喜びを抑え切れずにお義父様に聞き返した。


「うむ、本当だ。本人たっての希望でな。そして、あやつの教育についてなのだが、フェルトでは子供は皆、国が運営する学校に通うことになっている。そのために、あやつを魔導教育学院に通わせることになった。まあ、各種手続きや本人の引越しなどで、3ヶ月先のことではあるが…」


「魔導教育学院…ですか?」


「そうだ。それにフォークの北家の娘ターニーが再び学校に通っているようで、色々と人間教育の面で良い成果が上がっているそうだ。フェニーチェもターニーに触発されたのかもしれんな…」


「そうですか…、それは良かったです…」


 ターニーがあれから無事学校に通えていること、ターニーとフェニーチェがあれからも仲良く交友していることを聞き、私は自分のことのように嬉しくなった。


「そして、ジオス在留中は我が家に下宿することになる。あやつは大層お前を慕っているようだな。姉として、しっかりと面倒を見てやってくれ」


「はい、もちろんです!」


 嬉しさで心がいっぱいの私とは対照的に、隣に座っているリグは、ずっと不満と苛立ちに満ちた表情を浮かべている。

 そうだ…、リグもあれだけ学校に行きたかったのだ…。

 他家の子供は学校に行けるのに、自分だけは行かせてもらえない…、その鬱憤が募っているのだろう…。

 そしてついに彼は、お義父様にその苛立ちをぶつけるように意見した。


「で、父上…、俺には一体何の用なんですか? あいつはクラリスを追っかけてこっちに来るんでしょ? 俺、関係ないじゃないですか! 用がないなら、俺もう出て行っていいですか?」


 リグのぶっきらぼうな物言いに、普段ならここでその粗暴な言葉遣いを咎められるところだが、この日のお義父様は様子が違った。


「まあ、そう()くでない。話は最後まで聞きなさい…」


 彼はリグを諭すように落ち着いた口調でそう語りかけると、そのまま話を続ける。


「では、本題に入ろう…。リグよ、お前も来週から学院に通うのだ」


 お義父様の思いもよらぬその言葉に、目をパッチリと開けたまま、リグの顔が一瞬固まった。


「そ、それはどういう…」


 意図が理解出来ない様子のリグは、辿々(たどたど)しくお義父様にその真意を尋ねる。


「うむ、まずフェニーチェについてだが、いくら本人の希望とはいえ、齢一桁の娘を異国の学校に一人で通わせるのはさすがに酷だ。世話役となれる身内が一人ぐらいいた方が良いだろう。それともう一つ、お前はこの家の中でのうのうと過ごして来たせいか、礼儀や常識に欠けるところがある。集団生活に身を置いて、常識と協調性を身に付けて来るのだ」


 リグが無言のまま打ち震えている……、その原動源となっている感情は間違いなく喜びだ。

 そんな彼を尻目に、お義父様はいつものように淡々としながらも、少し優しさを含んだ口調でさらに語りかける。


「学院の生徒は、皆お前と同じ魔導士を目指す子供ばかりだ。そこで良き友も出来よう…」


 お義父様の口から『友』という言葉が出た。

 彼が、リグの休日の行動や積年の想いを知っていたのか…、それは私たちにはわからない。

 しかし、リグ本人には、そんなことはどうでも良かったようだ。


「ありがとうございます、父上! 俺、頑張ります!」


 リグは嬉し涙で目を輝かせながら…、いつもの屈託のない笑顔で、気持ちの良いハキハキとした返事を返した。


少々短めですが、今章はこれにておしまいです。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

次回第4章に入ります。

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