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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第2章 最終話.大胆な告白

 それから…、ターニーは皆と打ち解け、すっかり皆の中心に収まった様子だ。

 あの森で、彼女の能力を見せ付けると、皆が驚き、そして強い興味関心を持って彼女を賞賛する。

 彼女は本当に変われるのだろう…。

 あれだけ嫌がっていた黒髪を、誇らしげに(なび)かせるように堂々としている。

 そんなコンプレックスを乗り越えて、皆の注目を浴びる輝かしい彼女を見て…、私は嬉しい反面、羨ましさというか嫉妬に近い感情を抱いていた。

 片や生まれ持ったアイデンティティ…、片やそれと人間性を奪う隷従と汚辱の刻印…。

 ターニーが言ったように、一緒くたに考えるべきものではないが、それでも彼女の姿を見ると、置いてきぼりを食らったみたいに焦りを感じてしまう。

 あの子は過去を乗り越えて、一歩を踏み出そうとしているのに、私は口では偉そうに言いながら、肝心の心は過去の忌まわしい記憶に縛り付けられたままだ…。

 私はどうすべきなのだろう…どうあるべきなのだろう……。



 そんなことを一日ずっと思い込んだまま徒に時間は過ぎ、陽は落ちて、あの子たちが我が家に滞在する最後の夜となった。

 私はと言えば、フェニーチェへの後ろめたさとターニーに対する焦燥感とで、気持ちが晴れず、一人ぼうっとお風呂に入っている。

 体を洗い、再び湯船に浸かろうとした…、その時だった!

 いきなり、浴室のドアがノックもなくバンッと開けられたのだ。

 入って来たのは……服を着たままのフェニーチェだった。

 湯船に入ろうとしていた私は、彼女に背を向ける体勢となっており、臀部(でんぶ)の奴隷痕は完全に彼女の視界に入っているはずだ。


「えっ…ああぁ………」


 咄嗟のことに感情が追い付かず、ただ血の気が引く感覚だけを覚え、まずはその反応音としての声が出た。

 そして次の瞬間…、恥辱、憤り、悲しみ…雑多な悪感情が一気に押し寄せ、私は酷く混乱してその場で硬直してしまう。

 するとフェニーチェは、背後からいきなり私の腰に腕を回して、強く抱き付いた。

 感情を押し殺し切れていない震わせた声で、彼女は言った。


「わたし…言ってるじゃないですか…お姉様が何者であろうと、わたしはお姉様の味方だって…。 確かに、わたしたちでは想像も出来ないような、辛い目に遭って来たのかもしれません…。でも…わたしが大好きなクラリスお姉様は、そんな何かに怯えておどおどするような人じゃなかった…。とても優しくて…でもとても凛としていて……」


 彼女の私への想いは十分過ぎるほど伝わった。

 しかし…、未だに動揺が収まらない私は、彼女に冷たく当たってしまう。


「私たち昨日出会ったばかりでしょ…? それなのに…、あなたに私の何がわかるっていうの…?」


 言葉が出た直後に、言ってしまったことを酷く後悔した。

 それでも…、フェニーチェはめげずに私に食らい付く。


「わかります…!わたしはお姉様に一目惚れしたんです。人を好きになるのにその人の過去が必要ですか?、そんなの必要ないじゃないですか! 過去なんて関係ない…わたしは今のあなたしか見ません!今のあなたが好きなんです!」


(本当に、なんて強情で馬鹿正直な子なんだろう……)


 その愚直過ぎる彼女の意志に、自分の卑屈さが浄化されていくようだった。


「ごめんね…フェニーチェちゃん……。そして、ありがとう…。もうわかったから、手離してくれないかな……」


「いいえ、お姉様はわかっていません!嘘を()いてます! お姉様が本当にわかってくれるまで、わたしこの手を離しません!」


「いやいや…本当にわかったから……。私が悪かったわ。今朝はキツく当たって本当にごめんなさい…。だから離して…ねっ…?」


「イヤです! 本当にそう思うんだったら証拠を見せてください!」


 やれやれ…、何てタチの悪い女の子だろう……。

 とはいえ、今朝この子に、別のお願いなら聞いてあげると言ってしまってたっけか…。

 となれば、大切な事に気付かせてくれた、この愛おしい小悪魔に誠意を見せなければ…。

 私はしがみ付くフェニーチェの腕を力づくで引き離し、そのまま彼女の体を正面に寄せて、彼女の顔を私の濡れた乳房に押し付けるように抱き締めた。


「あっ……」


 彼女の口から恍惚とするような、ささやかな声が漏れる。


「どう…、これで私の気持ちは伝わったかな…?」


「はい…お姉様…」


 フェニーチェは少し目に涙を浮かべながらも、安らかな笑顔でそう答えた。

 しばらくの間、浴室にいたせいで、彼女の服と髪は湿気でベタベタになっていた。


「あらあら…すっかり濡れちゃったね…。ついでだし、一緒にお風呂に入ろうか?」


「はいっ!」


 ベトついて脱ぎづらくなったフェニーチェの服を脱がすのを手伝ってあげ…、私たちは一緒にお風呂に入った。



 さて次の日の朝、何かと騒がしく賑やかだった2日間も終わり、皆がそれぞれの住む街に帰る時がやって来た。

 すでに、門の前に各家の馬車が待機している状況で、私たちは最後別れの挨拶をしている。

 フェニーチェが、私の腰にしがみ付いて離れない。


「こらっ、フェニーチェ、クラリスお姉様から離れるんだっ!」


 兄のバラッドが彼女を引き離すが、それでも彼女は抵抗する。


「やだ〜!お兄様離してー! わたしここに残ります〜!」


 フェニーチェを宥めつつ、彼は私に言った。


「この度は愚妹が大変なご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした。ただ、あなたのおかげで妹もとても楽しい時を過ごせたみたいです。重ね重ねお礼を申します」


「いえ…こちらこそ…、フェニーチェちゃんには大切な事を気付かせてもらいました。私の方こそありがとうございます」


「そうですか……ふふふ…」


「な、何か…?」


「いや…僕あなたよりも年下ですよ? そんなに畏まらなくても……」


 そういえばそうだった…、しかし改めて思うが、リグと彼とが同じ年であるとは、とても思えない。

 良い子なのだが、やはり彼の前ではやや緊張をしてしまう。

 ところで、愚図(ぐず)るフェニーチェに対し、フェルカが声を掛けた。


「フェニーチェちゃん、もしそんなにまたこの街に来たいのなら、留学はどうかしら? 一度、あなたのお父上に話してごらんなさい。その気があるのなら、私からもお父様に口添えしていただけるよう頼んでみるわ」


「本当ですか!?、フェルカお姉様…」


 さっきまで泣き顔で駄々を()ねていたフェニーチェが、キラキラとした瞳で、まるで神を仰ぐようにフェルカを見つめる。


 すると、ターニーがやって来て、フェニーチェに横から話し掛けた。


「フェニーチェちゃん…ありがとう…、楽しかったよ」


「ターニー…。まあ…わたしもつまらなくはなかったわよ…」


「ふふふ…」


「な、何笑ってるのよ…! そんなことより…必ず手紙書きなさいよね…!」


「うん、もちろん!」


 照れ隠しをするように、ややぶっきらぼうに話すフェニーチェに対し、ターニーは屈託のない笑顔で返事をした。


「あの…お姉さん…」


 次に、ターニーが私に話し掛けて来た。


「私…フォークに帰ったら、また学校に戻ろうと思います。ここに来てみんなと出会って、この黒い髪も悪くはないかなって思えるようになりました…。それにきっと勉学以外にも、もっと大切なことが学べるでしょうし…」


「うん、頑張ってね!」


「はいっ、ありがとうございます!」


 ターニーの表情からは、前だけを見据えようとする強い意志が感じられた。

 そして、側に目をやると、リグとアルタスが小突き合いをしながらも、お互いに笑い合っている。

 なるほど…、フェルカが言っていたのはこういうことだったのか。

 喧嘩するほど仲が良い…、似た者同士、本当は波長が合うのだろう。



 そうこうしているうちに、各家の馬車の出立時間がやって来た。


「お姉様との出会い…きっとそれは運命だと思います…。わたし絶対にまたこの街に来ます!」


「お姉さん…色々とありがとうございました。私、頑張ります!」


「クラリス姉ちゃんまたな!リグが意地悪するようなことがあったら、いつでも俺に言えよ。すぐさま駆けつけてぶん殴ってやるから!」


「クラリス姉様、楽しいひと時を本当にありがとうございました。妹共々、またよろしくお願いします」


「クラリスちゃん…本当にありがとう! うちの娘のあんなに活き活きとした顔、何年ぶりに見たことか…。この恩は決して忘れないよ。困ったことがあったら何でも僕に言ってくれ」


 フェニーチェ、ターニー、アルタス、バラッド、アンピーオ叔父様…それぞれが私に別れの言葉を送ってくれた。

 こうして、皆が乗る馬車は、彼らの帰るべき場所へと出発して行く…。

 すっかり静かになり、物寂しさを感じながら屋敷へと戻る中、私はフェルカに少し気恥ずかしい様子で尋ねた。


「お姉様…、今晩一緒にお風呂に入りませんか…?」

「……ええ、いいわよ!」


 フェルカは、一瞬考え込むような表情を浮かべながらも、満面の笑みでそう答えてくれた。


第2章はこれにて終わりとなります。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

次回より第3章に入ります。

よろしくお願いいたします!

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