表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/623

第2章 10.見せられない秘密

 そして陽は昇り、雑多な鳥の鳴き声が朝の清々しい澄んだ空に響く頃…


「うへへへ…お姉様いい匂い………あれ…お姉様こんなに痩せてましたっけ…?、……何だか髪も短か………………うわあぁっ!!!」


 フェニーチェの悲鳴が、辺り一帯に響く。


「な、なに…何なの…? 何であんたがここにいるわけ…!?」


 目覚め直後で混乱するフェニーチェは、さっきまで抱き枕代わりにしていた、隣のターニーに問い(ただ)そうとするが…


「えー、これも食べていいんですかあ……むにゃむにゃ……」


 ターニーもこれまた幸せそうな寝顔で熟睡しており、全く起きる気配はない。


「ちょっと、お姉様…、これどういうことなんですかっ!?」


 ターニーを諦めた彼女が、動揺と憤りが入り混じった表情で私に詰め寄る。


「う、うん…、ちょっとこれには色々と事情があってね……」


「事情って何なんですかっ! ……まさか、わたしだけじゃ飽き足らず…、他の子にも手を出して……浮気ですか!?」


「な、何言ってるの…? ちょっと落ち着いて…!」


 私とフェニーチェがそんな茶番を演じていると、ようやくターニーが目覚めた。


「むにゃ……あ…、お姉さん、おはようございます…」


「ちょっと、あんた!、わたしのクラリスお姉様に何したのよっ!」


 怒りの矛先を、私からターニーへと変えたフェニーチェが突っ掛かる。


「な、何って…、お姉さんと二人で、夜の森の中でお話ししていただけだけど…」


「えっ…何それ……、それってデートじゃないっ! ひどいお姉様…、わたしのこと(たぶら)かしていたのね…!」


 フェニーチェは取り乱し、ついには目に涙を浮かべ始めた。


「ごめん…ターニーちゃん、このままじゃ収拾が着かないし、あのこと、この子に話してもいいかな…?」


「……いいですよ。私はお姉さんを信じます…」


「ありがとう…」


 こうして、私はターニーの了承を取って、泣きじゃくるフェニーチェを宥めながら、彼女のことを話した。

 彼女が私のことを信じると言ってくれたのは、森の中で私が『センチュリオンの子供は皆、彼女を受け入れてくれる』と話したことだろう…。

 ようやくフェニーチェは泣き止んだが、顔を少しムッとさせて押し黙っている。

 その様子をターニーが不安げに眺めていた。

 気まずい沈黙がしばし部屋中を流れて…、ようやくフェニーチェが言葉を発した。


「……あなた本当に動物をお話しすることが出来るの…?」


「う、うん……」


「すごいじゃない…。あの…その…もし良ければなんだけど…わたしにも見せてもらっていいかしら…」


「うん…もちろん!」


 気恥ずかしさと後ろめたさが入り混じった様子で、ターニーにお願いするフェニーチェに対し、彼女は初めて見せる満面の笑みで返事をした。

 私とターニーは、一瞬顔を合わせて笑顔を交わす。



 続けて、フェニーチェが私に言った。


「あの…お姉様……、勘違いしてご迷惑掛けてごめんなさい……」


「いいよ…気にしないで」


 彼女はまずはしおらしく謝った。

 これで一件落着と安堵していたのだが…、ここから彼女の様子がおかしくなる。


「でも……勘違いさせるようなことをしたお姉様も悪いと思います!」


「えっ……?」


「責任を取ってください!」


「えっ…責任って何…?」


「そうですねえ…。では、わたしと一緒にお風呂に入ってください。それで許してあげます!」


 フェニーチェはやや上から目線ながらも、屈託のない笑顔でそう要求した。

 その笑顔はとても無邪気で可愛らしく、そこに悪意は一切感じられない。

 きっとただ単に、私とお風呂に入りたいだけなのだろう…、このまどろこしい茶番も、その口実を作るための浅知恵に過ぎないのだろう。

 でも私は……


「ごめんね…ちょっとそれは無理かな…。他のお願いなら聞いてあげるから…、他のにしよう、ねっ?」


「えー、なぜなのですか!? わたしはお姉様とお風呂に入りたいです〜! 女同士なんだし、いいじゃありませんか!」


 フェニーチェはそう言って執拗にせがむが、私にはどうしても人前で裸を見せられない理由があった。

 何とか彼女が諦めてくれるまで粘るも、彼女は駄々を捏ねて一歩も引こうとしない。

 次第に苛立ちと焦りが積もり…、それがついには彼女の方へと向いてしまった。


「いい加減にしてっ!、無理なものは無理なの! どうしてわかってくれないの?」


 衝動的に激情に駆られて…、我に返った時には、目に前にはとても悲しげな表情を浮かべたフェニーチェがいた。


「……無理なお願いをしてごめんなさい…。失礼します……」


 彼女は感情を押し殺したような小声でそう一言告げて、部屋を出て行った。

 私が人前で裸を見せられない理由…、それは言うまでもなく、今なお臀部(でんぶ)にしっかりと焼き付いている『No184』の奴隷痕だ。

 もう過去は振り返らないと心に決めたが、それはあくまで思考の上での話だ。

 その痕跡を目の前に見せ付けられれば、否応にも、本能があの忌まわしい記憶を再生してしまう…。

 だから私は、この屋敷に来て以降、一度も鏡で自分の裸の後ろ姿を見たことがない。

 フェルカからも、最初の頃はよくお風呂に誘われたが、拒み続けているうちに、彼女も察して何も言って来なくなった。

 ただ、初めて魔術の発動に成功して、気を失ってリグに運び込まれた時、フェルカが私の体を拭いてくれたようだが、ひょっとしたら、その時に彼女に焼印の痕を見られているのかもしれない。

 気にはなるが、聞くのが怖いので、そのまま気にしていない振りをしている。

 フェニーチェは『私が何者であろうと関係ない』と言ってくれたが、果たしてこの奴隷痕を見ても、同じ反応をしてくれるのだろうか…?

 もちろん、彼女の私への想いを無下にするつもりは毛頭ない。

 それでも、視覚の効果というのはとても強大だ…、私の体を見て、彼女の私に対する目が少しでも変わってしまうのではないか…、それが今の私にはとても怖かった。



 ところで、私たちのやり取りを側で見ていたターニー…。


「ごめんね、ターニーちゃん…。取り乱してしまって……」


「いえ…、お姉さんのお気持ちは何となくわかります…」


「それは…、心を読み取る能力とか…そういうのなの…?」


「いやだなあ…そんなのじゃないですよ…。ちゃんと人として気持ちがわかるってことです。だって私たち…、どこか似ているんでしょう?」


「うん…。あなたの姿が、昔の…この屋敷に来たばかりの私の姿とすごく重なった…」


「私はお姉さんから勇気をもらいました。あなたのおかげで変われそうな気がします…。お姉さんの過去と私の過去を一緒くたに考えるなんて、無神経かもしれないけど…、お姉さんも変われるんじゃないですかね……」


 ターニーは切なげな笑顔を浮かべて、そう言ってくれた。

 それに対し、私は力なく、「うん…そうだね……」とだけ答えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ