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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第1章 21.感謝と罪悪感

 リグと完全に打ち解け、彼と二人で、夜の森の中で修練をやり始めること早数日…。

 その日も私は、彼が(そば)で見守ってくれている中で、自身の精神世界の中に入り込んでいた。

 そして、ここ数日、ずっとやり続けて来たように、魔素に対して願いを込める。

 私はこれまで、修練の成果が思うように出ない焦りから、これまでの自分の努力を心のどこかで疑っていた節があった。

 私が一生懸命やって来たことは、本当に私に報いてくれるのか?という…。

 もしかしたら、そういう己を信じ切れない心の弱さを、自身の中の魔素に見透かされていたのかもしれない。

 しかも、私の努力を認めたのは私自身ではなく、私よりも小さい、ぶっきらぼうで不器用で…、それでもとても心優しい、一人の男の子だった。

 まだまだ幼い彼の言葉には、私に自身を信じるに至らしめる重みがあった。


「そうだ…私はリグから自分自身を信じる強さをもらった…。そう……、私は……出来る!」


 一瞬、そう強く思ったその時だった!

 眼前の白く光る(かすみ)が、突如私にまとわり付いた。

 次第に、それは徐々に私の身体に染み入っていく。

 全身が火照るように熱くなり、鼓動は急騰し、頭の中が急激に冴え始めた。

 決して、苦しさや不快感はない。

 それでも…、全く未知の感覚に襲われて当惑する私に、直感が訴えかける


「今…か……?」


 私はすこぶる明敏になった頭で、覚えていた術式の中から適当なものを唱えた。

 次の瞬間、私は夢から覚めたように現実に戻される。

 すると…、私の体は、(てのひら)で直径数十センチ大の雷球を作り出し、意識するまでもなく私はその雷球を放っていた。


 ズオオオォォォン!!!


 雷球は周辺の木々に直撃し、明らかに屋敷まで響いているであろう轟音を(とどろ)かせ、木々を焼き焦がしながらなぎ倒した。

 リグがすぐさま、疲労困憊でその場に膝を着いて動けない、私の元に駆け寄る。


「やったじゃねーか! てか、お前すごいなあ…。初めてで、ここまでの威力を出せるって……。父上も言ってたけど、お前本当に才能あるんだな…。」


 黒焦げになってなぎ倒された木々を見て…、リグは驚愕しながらも、まるで自分のことのように嬉しそうに喜んでくれた。


「うん…、私…ついにやったんだね…。ありがとう…リグくん…、みんなあなたのおかげ…だよ………」


 私はリグへの感謝の気持ちを伝えようとしたが、言い終わる寸前で、急に意識が薄れて来た。


「お、おいっ!しっかりしろ、クラリス! おぃ………」


 リグの私を呼ぶ声が徐々にフェイドアウトしていき、私は彼の言葉を完全に聞けないまま意識を失った。



 …………………

 ……………

 ………

 …

 目覚めると…、私はネグリジェに着替えさせられ、修練で汚れた体も綺麗に拭かれて、自室のベッドに寝かされていた。


「こ、これは…」


 目覚めて早々、自身が置かれた状況を飲み込めずにいると、まるでタイミングを合わせたかのようにフェルカが部屋に入って来た。


「クラリスちゃん…! よかった…、ずっと気を失ってたから本当に心配したのよ、もう……」


 彼女は涙目になりながらベッドに駆け寄って、私をギュッと抱き締めた。


「ご、ご心配おかけして、ごめんなさい…お姉様…」


 突然、フェルカに抱き締められて…、気恥ずかしさと後ろめたさと心地よい安心感とで、気持ちの整理が付かず、私は辿々(たどたど)しく彼女に謝った。


「本当よ…もう…。こんなんじゃ心臓がいくつあっても足りないわ…」


「はい…本当にごめんなさい…」


 フェルカの顔が直視出来ないほどに…、酷く反省をして謝る私を見て、彼女は優しく微笑んで私の頭を撫でた。



 ところで、ここに至るまでの経緯は、はっきりと覚えている。

 リグの助言を得て、私は自身の精神世界の中の魔素を取り込むことに成功して、初めて魔術を発動させたのだ。

 そして、その影響で気力を使い果たし、その場で意識を失ってしまったはず…。

 その後は一体どうなったのだろうか…?


「あの…お姉様…、私はここまでどうやって…? あとリグくんは……」


 私がフェルカに尋ねると、彼女は力なく笑って言った。


「実はね…、リグがあなたをここまでおぶって運んで来たのよ。あんなに小さい体で息を切らせながらね…。しかも、他の人に見つかると具合が悪いとか言って、隠れ潜みながら私の元まで来たの。最初あの子が窓の外から小石を投げて合図してきた時、一体何事かと思ったわ……」


 なんてことだ……、ただでさえリグにはお世話になりっぱなしなのに、その上、彼にそんな迷惑までかけていただなんて……。

 私の彼に対する心咎めに、さらに負い目を負わせるように、フェルカは話を続けた。


「ところで、森から轟音が響いていたけど…、あれをやったのはクラリスちゃんなのね?」


「はい…ごめんなさい……」


 彼女から追及されて、私は素直に非を認めて謝る。

 あれほどの轟音だ…、屋敷内のほとんどの人に知れてしまっているだろう…。

 当然、ご主人様の耳にも入り、私は罰を与えられるに違いない…。

 しかし…、次にフェルカから出た言葉は、むしろご主人様から罰を与えられた方がマシだったと、私に痛感させるものだった。


「大丈夫よ、クラリスちゃんは心配しなくても…。実はね、リグが『やったのは自分だ』と言い張って、お父様のところまで謝りに行ってしまったのよ。今頃、お父様にこっぴどく叱られているんじゃないかしら…?」


「そ、そんな…!?、やったのは私なのに…。リグくんは何も悪くないのに……」


 取り乱す私を宥めるように、フェルカは優しく語りかけた。


「きっとあの子は、あの子なりに思うところがあってそうしたのよ…。だからあなたが気に病むことじゃない。私はリグが産まれてこのかた、ずっとあの子を見続けてきたからね…。ここはリグの顔を立ててやってくれないかしら?」


 彼女にここまで言われたら、私も「はい…」と引き下がるように答えるしかなかった。


「じゃあ、私はもう行くわね…。まだ疲れているみたいだから、大人しく寝てなさい。あと、女の子なんだから、もうあんまりやんちゃなことをしちゃダメよ?」


 フェルカはそう言い残して、部屋を後にした。

 リグへの負い目と自分自身の不甲斐なさとで…、私は酷く疲れているにも関わらず、なかなか寝付けなかった。



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