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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第1章 20.努力が報われた時

 こうして、リグの協力も得て、私は修練を再開する。


「いいか、魔素が見えたからって、やみくもに手を伸ばそうとしてもダメなんだ。魔素はただのモノじゃない、自分の精神の一部でもある。魔素を手に入れようとするんじゃなくて、魔素を取り込んで自身を高めるんだ」


 彼は柄にもなく、理路整然と、わかりやすく私に教授してくれた。

 そして徐に手をかざすと、すぐに直径数センチほどの火の玉が中空に現れた。


「魔素を取り込んでしまえば、あとはこっちのもの。心の中で魔素に語りかけるように術式を掛ければ、こんな感じで簡単に術は発動するよ。今は夜だし、俺も屋敷抜け出してここに来てるから、あんまり派手なことはできないけどな…」


 派手なこととは、私が初めてここに来た時に見た、あの光景のようなことか…。


「ありがとう…。やってみる…!」


 彼のアドバイスを念頭において…、しかしそれに囚われてしまっては、魔素を見つけることは出来ない…。

 上手いこと精神の平衡感覚を保って…、私はまたあの精神世界に入り込む。

 そして、またぼんやりと白く光る(かすみ)が見えた。

 手に入れようとするんじゃない…、私の精神の一部として取り込む…。

 お願い……私を認めて……、私と一体になって……

 魔素という概念に『想い』というものが通じるのかはわからないが、気付けば私は、その白く光る霞に願いを込めていた。

 その瞬間、私はまた現実へと引き戻される。

 リグの助言で、魔素へのアプローチ方法を変えてみたのだが、あまり手応えはなかったようだ…。

 しかし、体力はいつも以上に消耗している感がある。



 ハアハアと息遣いが荒くなっている私を見て、リグが「ちょっと休憩しようぜ」と声を掛けた。

 彼に促されるままに、私たちは近くに横たわっている丸太に腰を掛ける。


「なあ、大丈夫か…?」


 酷く疲労している私を見て、リグが心配そうに尋ねる。


「うん…、大丈夫。ありがとう…リグくん…」


 私が礼を言うと、彼は「そ、そうか…」とそわそわしたように顔を背けた。


「そ、そうだ…、お前腹減ってないか?」


 リグはそう言うと、持っていた小袋をガサゴソと漁りだした。


「ほら、これ食えよ」


 彼はパンと水筒に入ったミルクを私に差し出す。


「これどうしたの?」


「いや…ちょっと台所からくすねてきたんだ。あっ、勘違いするなよ、お前のために用意したんじゃなくて、俺が食おうとしてて、たまたま多めに持ってただけなんだからな…。まあ…あと、前のシチューの礼まだだったしな…。すげえ美味かったよ、アレ…。ありがとうな……」


 彼はとても照れ臭そうに、言い訳がてら、私たちのシチューへのお礼を言った。


「どういたしまして。またいつでも作ってあげるね」


 彼の心遣いと不器用な様が、とても嬉しくまた愛らしくて…、私は満面の笑みでそう答えた。



 こうして、持ってきた魔導灯と月明りだけに照らされた静寂な森の中で…、私たちは二人っきりで色々と語り合った。

 私たち子供だけで、大人の目を逃れて秘密の場所で秘め事をしている…、そんな非日常感と背徳感にワクワクドキドキし、とても楽しくて幸せな時間だった。


「リグくんは、ずっとこの場所で一人で練習していたの?」


「うん…、少しでも兄上に追いつきたくてさ…。やっぱり長男だけあって、あの人はすごいんだ。性格は最低最悪だけどな……。俺や姉ちゃんの才能を、全てあの人が奪ってっちゃったんじゃないかって思ったぐらいさ。俺も今のお前みたいに、最初は全然できなかったからな。そりゃあ、父上にバシバシ扱かれたもんさ……。」


 そうか…この家の、ご主人様の血を引く彼でさえ、最初はつまずいたんだ…。


「でもさ…、そんな生まれつき持った才能なんかで負けるのって悔しいだろ? だから夜な夜な一人で修行をしたんだ。それでも、未だに兄上には遠く及ばないけどな…」


 そして、彼はそれを自らの努力で乗り越えた…。


「ありがとう……、リグくんの話を聞いて、何だか勇気が出て来たよ。必ず、私やってみせる…!」


 彼の言葉に励まされて意気込む私に対し、彼は「そ、そうだな…」と照れ臭そうに、また私から視線を逸らす。

 しかし、その後すぐに、彼は思いもよらぬことを言った。


「……でもさ、俺はお前も十分にすごいと思うぜ?」


「どういうこと…?」


 私は彼に、その言葉の真意を尋ねる。


「だって、お前あれほど父上に打たれても、全く弱音を上げなかっただろ? 失敗しても失敗してもへこたれることなく、何度も挑み続けるお前の姿を見て、こいつ根性あるなあって思ったんだ…。あと、こないだの姉ちゃんとの会話も聞いたよ…。『自分の力で家族と認めさせる』なんて、なかなか言えることじゃないぜ。こいつカッコいいなあって思ったよ……」


 彼のその言葉は、私の心を大きく揺さぶった。

 なぜなら、ただただ嬉しかったのだ……、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

 私のこの1ヶ月間の努力と頑張りを、ちゃんと見てくれている人がいたことに…。

 それだけでも、この1ヶ月間はとても意味があり尊い時間に思えた。

 本当にそれが嬉しかったのだ……、それはもう、少しでも気を抜いたら…、彼からさらに言葉を掛けられたら泣き崩れてしまうほどに……。


「……お前の努力はずっと見て来たよ…。本当に頑張ってたよな、お前……」


 本当に空気が読めない子だ…、今、そんな言葉を掛けられたら私は……


「……うっうっ…うぐっ……」


「お、おい…、どうしたんだよ…?」


 リグの追い討ちをかけるような言葉に感極まった私は、その場で泣きじゃくってしまった。

 その姿を見て、彼は明らかに動揺した様子で声をかける。


「一体何なんだよ……。俺、何か泣かせるようなこと言ったか…?」


 涙で彼の顔は見えない。

 それでも…、彼の口調から、彼が酷く困惑している状況は見るようにわかった。

 言葉にならない私は、彼に心配を掛けさせないためにも、必死で首を横に振って彼の問いかけに応える。

 そして、暫しの沈黙が流れた後…、彼は私の頭をそっと撫でた。

 きっと、泣き続ける私を(なだ)めるために、不器用な彼が悩みに悩んで出した答えがそれなのだろう。

 彼の手の温かさが、髪越しにジンワリと伝わって来る…。

 その温かさがとても心地よく、徐々に激情が和らいでいく感を覚えた。


「まったく…本当に女ってめんどくせえなあ……」


 リグはそう愚痴をこぼしながらも、私が泣き止むまで、寄り添って優しく私の頭を撫で続けてくれた。


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