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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第1章 11.その家の子供たち

 その部屋の中にいたのは……

 部屋の中央奥には、豪華ながらに落ち着いた品の良さを感じる、単座のソファーに腰を掛けているご主人様。

 そして、テーブルを挟んで配置されている同種のベンチソファーに、二人の容姿端麗な少年少女が向かい合うように座っており、その周りに数人の使用人が立っていた。

 ご主人様は、コマックに「うむ、ご苦労だった」と労いの言葉を掛け、私に座るように促した。

 私は少女が座っている方のソファーの端っこに、おどおどしながら畏まるように座る。


「さて、クラリスよ。待たせてすまなかったな。ここにいるのが、お前がこれからこの屋敷で共に生活することになる、我が家の面々だ。皆、自己紹介をしなさい」


「当家長男のトテム・ディーノ・センチュリオン、16歳です。どうぞよろしく…」


 先に自己紹介したのは、私から見て、斜め向かいの位置にいる少年の方だった。

 長男と名乗った彼は父親の遺伝なのか、身長は同年代の男子に比べると高く、これまた父親に似て鋭い目つきをしていた。

 真っ白なシャツに黒のベストを着用し、首元には、とても高価そうな青の宝石が一際目立つブローチを身に付けている。

 額に数センチほどのかなり目立つ傷痕があるが、まるで敢えてそれを見せ付けるかのように、前髪を上げて整髪料か何かで綺麗に固めていた。

 トテムは私に自己紹介した際、丁重な口調ではあったが、その表情は一切笑っておらず、視線も私の方を向いていなかった。


「ク、クラリスです…。よろしくお願いします…!」


 私が自己紹介を返しても、彼は頷くだけで言葉を返そうとはしなかった。



 一方、彼とは全く対照的だったのが、私と同じソファーに座っている少女の方だった。


「はじめまして、長女のフェルカ・ディーノ・センチュリオン、14歳です。あなたがクラリスちゃん…、よろしくね。本当に可愛らしい子…、私ずっと妹が欲しかったから嬉しいわ……」


 フェルカは満面の笑みでそう言うと…、自己紹介早々、いきなり私を抱き締めた。

 彼女の柔らかく温かい豊満な胸が、私の顔を圧迫する。

 突然の事態に私は困惑し言葉を失うも、ご主人様の手前、嫌がることも出来ず、ただただ成り行きに任せた。


「こら、フェルカ。戯れはあとにしなさい」


「あら、お父様…、失礼しましたわ…」


 ご主人様に注意されて、ようやくフェルカは私から手を離した。

 気を取り直したように、彼女は「ごめんね、クラリスちゃん…」と私の頭を優しく撫でた。

 私も落ち着きを取り戻し、「いえ…大丈夫です…。クラリスです、よろしくお願いします…」と自己紹介をする。


「ふふふ…、よろしくね」


 彼女は穏やかな笑みで返事を返してくれた。

 彼女の容姿は、14歳にしては大人びたおっとりした感じの美人で、華奢ながら肉付きの良い白く柔らかな肌、翡翠色の吸い込まれるような美しい瞳に、やはりこれまた遺伝か、同年代の女子にしては身長は高い。

 長い金髪の綺麗な髪を一本に緩く三つ編みにして、肩前方に垂らしていた。

 彼女の優しく落ち着いた佇まいからは、まるで母親のような包容力が感じられた。

 私が先ほど、不意に彼女に抱き締められた時、驚きと気恥ずかしさで動揺はしたが、決して不快ではなかった。

 むしろ、とても安らぐような癒されるような…、それでいて懐かしさすら覚えた。

 それにしても、気になったのは彼女の出で立ちだった。

 彼女は薄緑のネグリジェのような服を着ていて、その上に厚めのカーディガンを羽織っており、ちょっと前まで床に伏していたかのような格好だったのだ。

 長男のトテムが整った小綺麗な服装をしているので、余計に気になった。



 二人が自己紹介を済ませたところで、ご主人様が少し強めの口調で使用人の一人に尋ねた。


「ところでリグはどうした? 何故この場におらん?」


 尋ねられた使用人の男性は、恐縮した様子で答える。


「も、申し訳ございません…! リグ坊っちゃまには、本日この時間に参られるように何度も申し伝えたのですが…」


「まったく…あの小僧は…。やはり先ほどの森の件も奴の仕業か…。後でしかと搾ってやらねばならんな…」


 ご主人様はそう呆れながら、『リグ』という名の、恐らくこの家の子供について言及する。

 するとその時、ノックもなしに部屋のドアがゆっくりと開いた。

 入って来たのは…、私よりも背が低く、恐らく私よりも年下の男の子だった。

 年相応の童顔で、耳を覆うぐらいの長さの茶髪、半袖のシャツにサスペンダー付きの半ズボンを着用している。

 服自体は高級品みたいだが、扱いがよっぽど悪いのか…、所々汚れていたり解れたりしており、手足には擦り傷が数カ所あった。


「へへへ…、すいませーん、遅れちゃいました……」


 その男の子は、全く悪びれる様子もなく、皆に謝るが…


「こらっ!、リグ!」


 ご主人様が彼に放った一喝に、さすがに恐ろしかったのか、彼は萎縮して直立不動の姿勢となる。

 そう…、この男の子こそが、先ほどご主人様が話していた「リグ」だった。

 この家の子供のようだが、その粗野な言動と汚らしい出で立ちは、とてもじゃないが名家の子供とは思えなかった。


「リグ、お前は何故約束を守れないのだ? 今日も客人を連れてくる故、遅れずにこの部屋に兄弟皆集まるよう、2日前に通信を送ったであろう」


 私がこの屋敷にやって来ることは、事前にこの家の人々に伝わっていたらしい。


「すいません父上…、すっかり忘れてて…。でも、お…僕だって魔術の練習で遅れたわけだし、決して遊んでいたわけじゃないんで……」


 リグは苦笑いしながら誤魔化して、その場を何とかやり過ごそうとする。


「まったく…お前という奴は…。魔術の修養に没頭するのもよいが、もっとお前はセンチュリオン家の一員として自覚を持たねばならん。ただ強いだけが…、強大な魔術が使えるだけが、立派な魔導士としての資質ではないぞ」


 ご主人様は、反省しないリグを頭ごなしに叱るのを諦めたのか、彼を諭すように語りかけた。


「でも、客人って言ったって父上が連れて来た、どこの馬の骨かもわからない奴でしょ? 一体誰なんですか、そい…つ…………」


 リグが性懲りもなく減らず口を叩き、その言葉が終わりかけようとした時、私と彼は目が合った。

 リグは目をまん丸にして、無言で私を見つめている。

 このままでは気まずいので、とりあえず愛想笑いをして会釈をすると、彼は首を急回転させて私から目を背けてしまった。

 するとフェルカが、少し意地悪そうな笑顔で言葉を発した。


「あらあら…リグったら…。あんなに威勢が良かったのに、クラリスちゃんを見た途端黙っちゃって…。どうしたのかしらねえ……」


 彼女のからかうような言葉に、リグはムキになって答える。


「べ、別に黙ってなんていねえし…!俺、女なんて興味ねえし、こんな奴どうでもいいし…。さあ、修行だ修行っ!」


 彼は私に悪態をつき、勝手に一人で盛り上がって出て行ってしまった。

 リグの振る舞いに、ご主人様は頭を抱えるような仕草をして、ため息を()いた。

 旅中ではまず見ることがなかった、悩める彼の姿は中々に新鮮だった。

 そんなわけで、私のリグへの第一印象は最低なものとなったのだが、その様子を見てフェルカは微笑ましい表情をしていた。


「まったく…あの子ったらわかりやすいわね…。そこがまた可愛いんだけどね…。決して悪い子ではないから、クラリスちゃん、仲良くしてあげてね…」


 フェルカの包み込むように優しく、どこか影があるような笑顔に勝てるわけもなく、私は「はい…」と不本意にも答えざるを得なかった。


「すまんなクラリス…、あれが我が家の次男のリグだ。年齢は9歳、お前より年下だが、まあ仲良くしてやってくれ。あやつが何か粗相をしたら、何なりと私に言いなさい」


 そう言って、ご主人様は私たちよりも先に部屋を後にした。

 そしてそれに続くように、長男のトテムも退室する。

 彼はあれからも、私に対する突き刺すような冷たい目を変えることはなかった。


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