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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第6章 21.果てしなき道のり

アルテグラ過去回想編9話目です。

 こうしてアルテグラは、最愛の友メリダとの約束を守るために…、クアンペンロードからクラリスを探し出すことを決意した。

 彼はメリダから聞かされていた転移術の特性を振り返り、彼女の転移先についての可能性を推論する。

 転移術は被術者の転移先を指定は出来ないが、術者の意思をある程度は反映させることが出来るとメリダは言っていた。

 彼の意思……、それは間違いなく、クラリスに生きて欲しい…、それに尽きるだろう。

 そう考えれば、未だデール族狩りが横行するジオス周辺では危険だ。

 ジオスのある東大陸と大洋を隔てた西大陸…、どの国も現在では王国との関係は疎遠となっており、地理的にも政治的にもクラリスを逃すには好条件である。

 また、彼女を逃したとしてもその地点が人が生活するに適さない環境だったら、とてもではないが10歳のか弱い少女は生きていけないだろう。

 そうなると、転移先は比較的、街や集落に近い場所が望ましい。

 以上を勘案して、アルテグラはある程度の目星を付けた。

 しかし…、今や家臣団の一翼を担い、王からの信頼も厚い彼に、クラリスの捜索に割ける時間など一寸もなかった。

 かと言って、他人に頼めることでもない。

 仮に経緯を全て話したとしても、まずメリダとの再会の時点で信じてもらえないだろう…。



 日々毎日、焦燥感を募らせながら、徒に年月は過ぎ…、あの事件から既に3年が経とうとしていた。

 そんな中、王国のガノンへの内部工作作戦が秘密裏に進められていた。

 1年前ぐらいから、ガノンでは、人民政府に抗戦する地下組織が発足した。

 彼らと、フェルトに拠点を置く亡命政府と緊密に連絡を取りながら、抵抗勢力を育て上げて、最終的には人民政府への蜂起を促す作戦だ。

 そして城内では、その特務大使の精選が行われていた。

 特務大使は自らガノンに潜入して現地反体制派の首脳と会談を行ったり、人民政府側の動向など情報収集、その他政治工作を行う、大変リスクを伴う職務だった。

 従来ならば、高い地位に就く人物が選ばれるはずがないのだが……


「私が、ガノンへ行こう」


 アルテグラは、自らその役を買って出た。

 確かに、極めて危険かつ難易度の高い任務であり、自ずから志願する者は誰一人いなかったが、さすがにこの彼の申し出には周囲からの異論が続出する。

 すると、彼は王へ直談判に打って出た。


「アルテグラよ…、王国を想うそなたの愛国心は嬉しい限りだが、任務にはそれぞれ適した格というものがある。今や王国の中枢を担うそなたを、みすみす危険な地に行かすわけにはいかぬ」


「お言葉ですが王様…、私は王国の重責を担う立場であるからこそ、今後の王国の一層なる繁栄が懸かるであろう、この特務に志願したのです。上に立つ者がしっかりと手本を見せねば、下の者たちは追随しませぬ。また、先方からの我が国に対する信頼を得るためにも、相応の地位の者が出向いた方が好ましいかと思われます」


「うーむ…、しかし、そなたに何かあれば、それこそ王国の多大な損失となる…」


「ご安心ください、王様。私の戦闘能力をご存知ないことはございますまい。必ず無事に戻って参ります。そして此度の任務は、高度な交渉力と柔軟かつ機敏な判断力を要求されます。烏滸がましいようですが、以上を考慮しても、私が最も適任かと思われます。何卒…お許しを……」


 アルテグラの不動の意志が宿った真摯な瞳を見据えて…、国王ディラは根負けしたように力なく苦笑を浮かべた。



 こうして、ガノン工作のための特務大使に任じられたアルテグラは、経過報告のために一度帰国した以外はガノンに身分を偽って潜伏し、時折、フェルトの亡命政府とも接触する生活を1年以上続けた。

 彼がこの特務を志願した理由…、それは言うまでもなくクラリスを探し出すためである。

 ガノンは彼が諸条件を勘案して、最も彼女がいる可能性が高いと踏んだ場所だった。

 とはいえ、本分はあくまでも特務大使であり、王の前で力説した彼の言葉は決して嘘偽りではなかった。

 周囲に自身の魂胆を悟られないためにも、アルテグラは任務を着実にこなし、ついにはガノン国軍の上層部との接触に成功、彼らの体制側からの離反まで確約させた。

 そして、限られた時間でクラリスの捜索を行うが…、こちらの方は全く進展がなかった。

 何しろ、首都エクノカの都市規模はジオス城下の約4倍にも及び、さらには一定規模の地方都市もいくつか存在する。

 この国では都市間の自由な往来は制限が厳しく、また人民政府は市民相互間の密告を推奨しており、少しでも目立った動きをすれば当局に通報される恐れもある。

 限られた時間と数多の制約の中で、ここガノンでも徒に時だけが過ぎ、気付けば1年以上が経過…、長かったようで短かったガノンでの特務はついに終わりを迎えた。


「はあ…、この1年間は一体何だったのか…。あの子は今、一体どこで何をしているのだろうか…。幸せであるならば一瞬でいい…、せめてあの無邪気な笑顔だけでも見せてくれないか…」


 ガノンでの最終日、首都エクノカの街を失意の中、当てもなくふらついていたアルテグラは、思いがけず貧民街に入り込んでしまっていた。

 人通りと活気はそれなりにあるが、人も道も建物も売られている商品も全体としてくすんで薄汚く、空気は悪臭と埃混じりで咳込むぐらいに悪い。


(ぼんやり歩いてたら、えらいところに迷い込んでしまったようだ…。さっさと抜け出そう…)


 こうして貧民街からの出口を求めて歩き続けること数分…、突如、アルテグラの眼前に衝撃的な光景が飛び込んで来た。


(な、何だあれは…、奴隷商か!?、しかも檻に入れられているのは、幼い少女ばかりではないか…。こんな非道な行いが許されるとは…。やはりこの国は腐ってい………)


 白昼堂々と大手を振って商売をしている奴隷商を見て、アルテグラが憤りを露わにしようとした…その時だった。

 彼は引き寄せられるように、奴隷の少女たちが入れられた檻に近付く。

 そして無意識に、一点のみを凝視するように…、一人の少女を見つめていた。

 メリダ譲りの白金色の長い髪…、そして何より周りの少女たちとは一線を画す、先天的な魔素の輝き…、その少女は檻の外からの視線を頑なに拒むように俯いたままだ。

 アルテグラの位置からその顔は見ることは叶わないが、間違いなくそれは彼がこの4年間ずっと思い募って来た少女…クラリスだった。


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