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とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
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第6章 20.復讐の鬼

アルテグラ過去回想編8話目です。

 現場には周辺の集落の村人と、城下から派遣された調査団の兵士たちがすでに多数集まっていた。

 急遽駆け付けたアルテグラの眼前に映ったのは…、わずか数日ではあるが馴れ親しんだ、あの温かで幸せな一家の無残な姿だった。


「セ、センチュリオン卿…!? 何故かような場所へ…?」


 いきなり現れたアルテグラの姿に兵士たちは驚愕し萎縮するも、当の彼には彼らの姿など全く目には入らない。

 茫然自失と立ち尽くすアルテグラだったが、ふと横に目を遣ると、シートを掛けられた二つの物体が地面に横たわっていた。


「あっ…、これはいけません!、センチュリオン卿!」


 兵士の制止を振り切ってアルテグラはその場に駆け寄り、緊張と恐怖に慄きながらも徐にシートをめくる。

 最悪な結末であることは、もう既に覚悟はしていた。

 しかし…、その有様は、アルテグラの想像をはるかに超越する(おぞ)ましさだった。

 二人とも全身の至る箇所が、酷く焼け(ただ)れている。

 メリダが、『奴らはデール族の心臓を欲している』と言っていた通り、メリダの腹部は裂かれ、心臓が粗雑に抜き取られていた。

 さらに魔素を持たないリスモは男たちに嬲りものにされたのか…、着用していた服を乱暴に剥ぎ取られて乳房と陰部が露わになっており、犯人のものと思われる体液が多量に付着していた。


「うああああああああっ!!!」


 二人の惨たらしい最期を目の前にして、アルテグラは人目を憚らず発狂したように叫び、そして慟哭した。

 彼の理性を失った野獣のような姿に、兵士たちは怖れて声をかけることも出来ず、ただただ彼が落ち着くのをひたすら待ち続けた。

 号泣し続けて涙が枯れたのか…、ようやく我に返ったアルテグラが周囲に目をやると、汚らしい男たちの死体が乱雑に山積みにされていた。

 それは、メリダが守るべきもののために、決死の覚悟で戦った痕跡だった。

 アルテグラは携えていた護身用のナイフで、メリダとリスモの髪をそれぞれ一束程度切り取って懐に入れる。


「見事な生き様だったぞ…メリダ…。俺はお前を友として誇りに思うよ…」


 国と民族との垣根を越えた、最愛の友メリダへの餞として…、彼は追悼の言葉を贈った。

 こうして、恐ろしく殺気立った様相で兵士たちの元へと戻って来たアルテグラ。

 直立不動で怯えたように言葉を待つ彼らに対し、アルテグラは激烈な怒りを押し殺して淡々と指示を出す。


「あの男たちの仲間どもを必ず捕らえろ。そして、捕らえたら、まず私に知らせろ。わかったな?」


「は、はいっ!、かしこまりました!」


 もはや復讐の鬼と化したアルテグラの形相に、兵士たちは震え上がった。



 城下に戻ったアルテグラはその足でヌビア教会へと向かい、神官長のセナドラ・オルテ・レドミーにメリダとリスモを慰霊してくれるよう懇願し、切り取った二人の髪を託した。

 月理教では死者を弔う際、遺体から髪を採取しそれを遺髪として各家または帰依する教会にて安置することになっている。

 『これ以上ハゲると死んで家族に何にも残せなくなる』…、そんなジョークすらあったりもする。

 そのため、本来ならばメリダとリスモの魂はここヌビア教会では弔うことが出来ないのだが、懇意としているアルテグラの頼み…、そして聖職者としての本分に衝き動かされて、セナドラは二人の慰霊を受け入れた。


(メリダ…、お前たちの習わしで弔えなくて申し訳ない…。しかし…、お前はあの時言っていたな、『信仰する神を巡って争うなど、人間の愚かさの体現に過ぎない』と…。だから…、リスモと共に心安らかに永眠(ねむ)ってくれ…)


 アルテグラはセナドラによって綺麗に整えられ、丁重に安置されたメリダとリスモの遺髪を見据えて…、改めて二人に哀悼の意を捧げた。



 さて…、メリダとリスモを惨殺した一味の仲間たちは数日後、呆気なく捕まった。

 恐らく何者かに依頼をされて凶行に及んだのだろう…、多額の報酬を手にして城下の娼家で豪遊し、快楽と酒の勢いで気を良くしてペラペラと事の経緯を漏らしていたのが運のツキだった。

 男たちは卑劣にも、メリダたちがクラリスのために貯めていた金にまで手を付けていた。

 報告を聞いたアルテグラは、捕らえた男たち四人を重罪人を拘留する地下牢に集めるよう指示を出した。

 そうして今、彼の指示通りに手足を縛られて拘束された30代から40代ぐらいまでの不潔でやさぐれた男四人が、薄暗く埃臭い地下牢の1室に収容されている。

 不安を感じながらも太々(ふてぶて)しい表情を崩さない男たちの前に現れたのは…、アルテグラただ一人だった。

 彼は事前に、何が起ころうとも自分が呼ぶまでは決して入って来ないよう牢番に厳命していた。


「メリダたちを無残に殺したのはお前らか…」


 男たちの顔を見るなり、アルテグラは肉食獣が唸りを上げるように(いかめ)しく言葉を吐きかける。


「はっ!、メリダなんて名前は知らねえなあ! それに俺たちの仲間もあいつにやられたんだ、お相子じゃねえか」


「ああ、その通りだ!、どうせ俺たちは、もう金も使い果たして散々夢見させてもらったんだ。処刑するなりなんなり好きにしやがれ!」


 自暴自棄になった男たちは、アルテグラに反発してやりたい放題に暴言をぶちまける。

 しかし、彼は男たちの挑発に乗せられず、淡々と質問を続けた。


「何故、あの場所にあの家があることを知っていたのだ? 迷彩結界で外からは確認出来ないはずだが?」


「知らねえよ…、俺らの雇い主があそこに家があるって教えてくれたんだ。俺らも最初は全くわからなかったけどよ…、そいつから渡された鏡で辺り一帯を映したら全く違う道が見えてよ…、そんでそれを辿ってったらあの家があったんだよ」


(なるほど…、迷彩結界は光を屈折させて偽の景色を見せると言っていた。鏡ならばそれを阻害することも出来るというわけか…)


「メリダの腹を裂いて心臓を抜き取ったのもお前らか? リスモを嬲りものにして陵辱したのもお前たちか…?」


「ああ、そうだよ。臓器を抜き出すなんて趣味じゃねえが、そういう依頼なんだからしょうがねえ…。女の方は最高に良かったぜ…」


「そうだな、あんな良い女がいるなんて聞かされてなかったからな。あの女の絶望する顔、ホントたまんなかったぜ、ガハハハハッ!」


 一人の男の下衆な笑い声に触発されて、他の男たちも同様に高らかに笑い出す。

 するとアルテグラは顔を酷く歪めながら、大層苦しそうな様子で声を震わせて言葉を漏らした。


「すまん…、そろそろ私も限界のようだ。少し息抜きをさせてもらうぞ…」


「はあ?、何言ってんだ、おま……」


 ドオォン!


「う、うわあああああっ!!!」


「ひいいいいぃぃ!!!」


「あ…あああ……」


 アルテグラは突然、男一人の顔面を目がけて魔弾を放った!

 頭部は木っ端微塵となり、脳みそや骨格の断片、肉片が血飛沫(ちしぶき)とともに牢内に飛び散る。

 そのままアルテグラは徐に何かを拾い上げた。

 それは…、その男の眼球だった。


「ふん…、汚らしい目だ…。同じ人間でも、こうも違うものか…」


 物憂げな表情を浮かべてそうボヤくように呟くと、彼は男の眼球をぐちゃりと握り潰す。

 顔色一つ変えずに嗜虐的行為を躊躇なくやってのけるアルテグラを見て、残された男たちは先ほどまでの威勢はどこへやら…、皆一斉に恐怖に慄く。


「お…お助けを……」


 そう彼に許しを乞うた男は失禁していた。


「これはまたおかしなことを言う…。お前たちは先ほど私に対し、死ぬ覚悟は出来ていると申したばかりではないか。まさか、この私に嘘を付いたのか?」


 ドオォン!


「ぎゃあああああ!!!」


 アルテグラは続いて、許しを乞うた男の脚を目がけて魔弾を放つ。

 脚を切断するに等しい激痛に男は絶叫し、痛みに耐え切れずそのまま気絶してしまった。


「これで残りは二人になってしまったか…。まあいい…、あともう一つ、どうしても確認したいことがあるのだ。答えてくれるな?」


「ひゃ…ひゃい……」


 男二人は恐怖で呂律も回らずまともに言葉が出ないが、アルテグラはそんなことはお構いなしに質問を続ける。


「あの場所で、もう一人少女を見なかったか? 10歳の娘だ」


 男たちからは暫し言葉が出なかったが、「答えられないのか?」とアルテグラが凄むと振り絞るように口を開いた。


「ははは…はい……、た、確かに…家の中から…女の子の声はしました……。そしたら…いきなり金色の光が起こって……、それからは…その声は…聞こえなくなりました……」


 男たちの自白によって、アルテグラの推断は確信へと変わった。


(クラリスは…この世界のどこかで生きている…!)


「よくぞ話してくれたな…。礼を言おう…」


 アルテグラは血が冷めたように無機質だった顔を少し和らげて、優しく男たちに語りかける。

 彼の顔を見て、男たちは助かったと思ったのか…、一瞬緊張が解れたように安堵の表情を浮かべるが……


「最初は嬲り殺しにしてやろうかと思ったが…、もうよい…疲れた…。せめてもの慰めに楽に逝かせてやろう…」


 ドオォン!、ドオォン!、ドオォン!


 ……………………………


 牢番がアルテグラに呼ばれて、急遽駆け付ける。


「お呼びでしょうか、センチュリオンきょ………ひっ…ひえええっ…!!!」


 悲鳴を上げた牢番は、腰を抜かして尻餅を着いた。

 彼の眼前には、本能的に目を背けたくなるような凄惨な光景が広がっていた。

 しかし…、彼が一番恐れたのは、その中心に物悲しげな表情を浮かべて佇む、多量の返り血を浴びたアルテグラの姿だった。


「すまないが、この()()()()を片付けておいてくれ…。あと、この事は他言無用だ、頼んだぞ」


 アルテグラは牢番に何の感情の起伏もなく淡々とそう言い放ち、彼に月給のほぼ1年分となる金貨が入った小袋を握らせて去って行った。


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