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片付け

作者: 有紗


校内に残る生徒たちに帰宅を促す四時のチャイムが鳴った。僕は学校の備品室で作業をしていた。いや、させられていた。担任の鈴木先生が担当するバザーのために卒業生から集められた制服の片付けを命じられたからだ。昨夜遅くまでゲームをやっていて、先生の授業の間を睡眠時間に当てたのが不味かったらしい。

ホームルームが終わって帰ろうとしていたところを先生に呼び止められた。

「加藤くん、ちょっといいかな?」

「何ですか?今日は友だちと遊ぶ約束をしてるから早く帰らないと。」

「加藤くんには私の手伝いをしてもらいます。」

「嫌だって言ったら?」

「英語の成績は期待しないでね。テストがいくら良くてもダメだから…。」と言って先生は笑った。

これでは脅迫ではないか。断ることはできなかった。

冒頭に戻る。僕の通う中学は男子は学生服、女子はセーラー服だ。小学生の頃はズボンばかり履いていた幼馴染が、入学式の時恥ずかしそうな顔をしてセーラー服を着ていた時は少しドキドキした。男友達として見ていた分裏切られたような、何だか遠くへ行ってしまったような気がした。彼女とは何となく疎遠になりつつある。男と女、学生服とセーラー服。僕もセーラー服を着れたら、彼女とまた仲良くなれるのだろうか。

そんなことを考えながら近くにあったセーラー服を手に取った。その時だった。

「加藤くん、何サボってるの?」ドアが開いて先生が入ってきた。

「あんまり遅いから心配になって見に来ちゃった。」

「あれ?加藤くん、その…。手に持ってるのって、女の子の制服だよね?」不味いタイミングで先生が来てしまった。

「あははは。」精一杯の愛想笑いを浮かべながら慌ててセーラー服をしまおうとする僕に、先生は言った。

「それ、着てみてよ?」僕は先生の言っていることがすぐに理解できなかった。

「加藤くん、川瀬さんのこといつも目で追ってるよね?」

川瀬さんとは先述した僕の幼馴染のことだ。バレていたのか。

「バレバレだよ、女の子は視線に敏感だから、多分川瀬さんも気づいてるよ」先生はいたずらっぽく笑った。大学を出てすぐ僕のクラスの担当になった先生は、誰かのお姉さんだって言われても通るんじゃないかって程童顔だった。けど、先生にドキドキするよりも他にドキドキしていることがあった。

「加藤くんの身長だったら、これでピッタリだと思うよ。」そう言って先生は制服の中からセーラー服を一式、僕に渡した。

「大丈夫、この時間はここには誰も来ないし」

「いや、先生の前で脱ぐのはちょっと…」

「何言ってんのよ。」そう言って先生は僕の背後に回り、僕の服を脱がせにかかる。詰襟とカッターシャツを乱雑に剥ぎ取り、あっという間に上半身は裸になってしまった。

「白ーい!!綺麗な肌だね。」先生は何に感動しているのか。筋トレをしても筋肉が付かず、男にしては薄くて白いこの体は僕のコンプレックスだった。

「あ、川瀬さんだ!」と言って入口を指差した先生につられて、僕は抑えていたベルトを話してしまった。

「隙あり!!」先生は僕のスラックスを脱ぎ去り、僕はトランクス一枚になってしまった。

「足も白いんだね、あとほっそーい!!」

何とでも言ってくれ。僕は恥ずかしくて何も言えなかった。

「早く着ないと風邪ひいちゃうよ。」先生はセーラー服を指差して言った。これを僕が着るのか…。

セーラー服の上着を手に取る。

「頭からかぶるだけで良いんだよー」先生に言われるまま被った。なるほど、サイドにチャックがあるのか。チャックをあげるとサイズはピッタリだった。

「可愛い、そのままだと加藤くん、水兵さんみたいだね」先生は何だかはしゃいでいる。これで満足してくれれば良いのだが。

「次はスカートだよ、履き方知ってる?」ダメだったか。仕方がないのでスカートに足を通す。お腹の下でアジャスターを弄っていると、程よい位置に固定できた。

「加藤くん、可愛い!!そうしてると女の子みたいだよー!!けど、ちょっと失礼」そう言って先生は僕のスカートに手をかけてヘソの上あたりまで上げた。

「女の子はこのくらいの位置で履くんだよ。足が長く見えるでしょ?」スカートが上がって、太ももが露わになったため、何だか心もとない。

「そこに姿見があるから、加藤くんも見てごらん?」促されるままに鏡の前に立つ僕。そこには、セーラー服を着たボーイッシュな少女の姿があった。

「これが…僕?」おきまりのセリフを言った僕を先生が後ろから抱きしめてきた。

「そう、これが加藤くん。いや、いまは加藤さんかな?」セーラー服越しに当たる先生の胸の弾力が心地よい。だがそれ以上に女の子の服に包まれている感触が僕を支配していた。

「これも被っとこ?」茫然とする僕の頭に肩くらいまである黒髪のウィッグが被せられる。顔を包む長い髪の毛が僕をさらに心地よくさせる。

パシャ!一瞬何かが光った。

光の方を見ると、先生がスマホを構えていた。

「あんまり可愛いから写真撮っちゃった!」はしゃぐ先生をよそに僕は言葉が出ない。

「この写真、宝物にするね!」

「加藤勇気だから、ゆうきちゃん?いや、ユキナちゃんの方が可愛いかな。優しいに希望の希に菜っ葉の菜!!」勝手に女の子の名前までつけられてしまった。

「じゃあ、加藤さん自己紹介してみよっか??私が言うように言ってね!」

「言わないとさっきの写真皆んなに見せたくなっちゃうかも?優希菜ちゃんが可愛いのがいけないんだよ!」

「じゃあいくよ、私は加藤優希菜です。」

「…わ、私は…加藤……なです。」

「ゆきなちゃん声が小さくて聞こえないよ?」

「わ、私は!加藤!ゆき…なです。」

「ゆきなちゃん上手に言えました!!」そう言ってウイッグ越しに頭を撫でてくれる先生。本来なら抵抗するところだが、女の子の格好をしているからか、抵抗する気にならなかった。されるがままに先生を受け入れてしまう自分が怖いような心地よいような…。そうしていると、また先生が抱きついてきた。シャンプーの香りかいい匂いがする。うっとりとしている僕の耳元で囁いた。

「もう離さないよ、優希菜ちゃん。」

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