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人として生きたい  作者: 松吉なぎ
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エピローグ〜そこから見上げて3〜

「私は帰るわ」


 泣き終わり気持ち新たにした私は、美紗子さんと何でもないような麗奈の話や真奈美の話、お母さんの話やお父様の話をした。


 私は麗奈と真奈美の話を嬉々として話し、美紗子さんはお母さんとの話を嬉々として話した。


 楽しい時間を過ごしていたけど、美紗子さんは残った仕事があるらしく、学校に帰ろうとしていた。


 美紗子さんが扉を開ける前に扉が開く。美紗子さんと鉢合わせるようにして入ってきたのは、陽輝さんだった。私の入院用の荷物だろう手には大きなバッグを持っている。


 因縁のある二人のはずなのに、美紗子さんのことを見向きもせずに、私を見るやバッグを手放し、走り寄って私の頬を叩く。


「なんて事をするの!」


 私は叩かれた頬を触り、呆気にとられる。生まれて初めて人に怒られて叩かれた。


「母さんも父さんも、明夜姉さんも、もういないの。その上小夜までいなくなったら、私は一人になるじゃない」


 泣きながら、陽輝さんは私のことを強く抱きしめた。


 叩かれたはずなのに、私は嬉しかった。


 怒ってくれるのが、私を大切に思ってくれているのがひしひしと伝わり、嬉しかった。


 たった一人の家族、陽輝さんがいるのだと分かって、ただ一人の大切がまだここにいることが嬉しかった。


 叩かれた痛みがその喜びにかき消えて、私はまた涙を流す。


「ごめんなさい。もう二度としないから。陽輝さんは私の大切な人だから」


 陽輝さんはしゃくりあげながら、うん、うんと相槌を打っていた。


「似た者親子ね」


 私も陽輝さんも二人して顔を美紗子さんの方を向けると、美紗子さんはそれを見て朗らかに笑った。


 私と陽輝さんは同じだった。私も生きようとした時、陽輝さんと同じことを思っていた。


 陽輝さんも私も大切な人みんなに先立たれたからこそ同じことを思う、置いていかれたと。でも、置いていかれたのではなく命を引き継いだだけだった。私達はその引き継ぐ命の重さが怖かった。


 私も陽輝さんも同じように命を引き継いでいるのだからきっと似ているのではなく、同じだと思った。


「私も陽輝さんも似ているんじゃないんです。同じなんです。私達は命を引き継いできました。でも、その命が怖かった。大切な命を任されて生きるのが怖かった。だから、置いていかないで欲しかったんです」


 確認を求めるように陽輝さんを見る。


「明夜姉さんにそっくり。姉さんも私の考えることは何でもお見通しだった」


 陽輝さんは私より先に泣き止んでいた。


「私の場合は、麗奈だよ。私は麗奈の命を受け取ったから」

「話を合わせれば良いのに、わざわざ否定する。そういうところはお父さんそっくりね」

「そうなの?」

「そうよ。何故だか私には当たりが強くて。私が何か言おうものならすぐに言葉でねじ伏せられた。私も姉さんに付く悪い虫だと思って接していたから、そうしたのだろうけど。だからというのもあって、元からあの男は嫌いだった」


 本音で話す陽輝さんは清々しい顔をしている。


「でも、その忘れ形見はこんなに大好きだけどね」


 まだ涙だけは止まらない私を陽輝さんは撫でる。


「陽輝さん」

「うん」

「陽輝さんがお父様のことどう思っていても、私良いんだ。私もお母さんのこと嫌いだったから。お父様はいつもお母さんのことばかり話すからヤキモチ焼いていたの。でも、そういうの抜きにして、私を大切に育ててくれた陽輝さんは好きだよ」


 陽輝さんの私を抱きしめる力が増していく。


「私はずっと小夜をどう接して良いか分からなかった。感情の薄い小夜が明夜姉さんを思い出させて、私は姉さんに申し訳なくなったの。姉さんの子供を育てているのに、姉さんと同じように育つから同じように消えてなくなるんじゃないかっていつも怖かった。でも、もう大丈夫。私は小夜を守る。道を外したら叱るし、正しいことをしたら褒める。普通のことを普通にする」


 言葉に迷いはなく、さっきの私のように清々しい顔をしている。


「陽輝さん、ううん。お母さん、ここまで育ててくれてありがとう。これからもよろしくお願いします」


 陽輝さんを見ると、止まった涙がまた流れ出している。


「見ちゃ駄目」


 といって私の視界を手で覆う。


「ちょっとでいいから、お母さんらしくさせて」


 そんなことしなくても、私のお母さんであることは変わらないのにと思った。


「うん」

「ありがとう」


 大きく息を吐くように言われたその一言が、心に温かく染み込んでいくのが分かった。


 お母さんの手のひらに包まれた瞼が熱くなり、お母さんの手のひらを湿らす。


「ううん、平気」


 お母さんは空いている片手で私の頭を撫でる。


 その手は決して触り心地の良い手ではなかったけど、落ち着いた。その温もりが私を守る象徴に思えた。


「一緒に生きよう」

「うん」


 お母さんの一言は、私達の宣言になった。

お読み頂きありがとうございます。

よろしければご感想、ご意見賜われましたら幸いです。


5/22、明日に最終話の更新をさせていただきます。

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