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人として生きたい  作者: 松吉なぎ
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渚にて2

平成最後の投稿にございます。

本編最終章となっておりますが、よろしくお願い致します。

 家に帰って、部活用のジャージに着替えてから学校に行く。


 学校はグラウンドや体育館などの特別な棟や屋外は運動部が、一般的な教室は文化部が使っているようだった。


 プールに行く道すがら、私は最後の学校を眺めていた。吹奏楽部の音色、運動部の掛け声、文化部の笑い声、行き交う先生達。それを見るのも、今日が最後。


 明日が私達の最後の日になる。


 私はふとあることに気がつく。不思議なもので、明日はちょうど七月最後の日だった。


 ノストラダムスなんて今更信じてはいないけれど、七の月の内に私達が死ぬのは運命めいたものを感じた。


 麗奈は最後どこで死ぬつもりなのだろうか。学校、プール、廃病院、河川敷、真奈美と麗奈との思い出の場所が頭をよぎる。麗奈はその中のどこかからいくつもりなのかもしれない。


 プールに着くと、とっくのとうに始まっていたようで、私の代わりにタイムを計っている選手と目が合う。


 軽く会釈をする。


 真奈美の事故の後、私は水泳部には顔を出していなかった。だから睨まれると思ったのに、目のあった選手は朗らかに笑って、他の子に私のところに行くように指示を出していた。


 及川さんや平岡さんがいないか、見渡すと二人とも姿が見えなかった。


 早足に女の子がやって来て、私に声をかける。


「有藤さん、久しぶりだね。友達のことはもう良いの?」


 名前は覚えてはいないけど、顔を見ると同期の子だと分かった。丸顔で童顔、頬にはそばかすがある。


「良くない。でも、顔を出さないといけないと思って」


 憐憫の眼差しで私を見てくる。


「無理して来なくても部活は私達だけでもなんとかなるから。及川先輩も、平岡先輩ももういないけどね」


 女の子は暗く言った。


「先輩達がいなくなったってどういうこと?」

「痴情のもつれってやつだよ。及川さんが他に恋人作ってたみたいで、それが原因で及川さんは平岡さんに刺されたの」


 あの大人しそうな平岡さんが凶行をするとは思えなかった。


「ナイフとか包丁とかだったら大変だったろうけど、小さなカッターでやったから大丈夫だったみたい。けど、流石に軽傷じゃ済まなかったからまだ療養中なの。当然、平岡さんは謹慎中、退学処分は確実でしょうね」


 麗奈の言った通りだった。


 及川さん達の関係は見かけの関係で、剥がれ落ちるようにして関係が壊れた。


 永遠なんてものはなく、二人の最後の日はあっけなく訪れていた。


 もしかしたら、私と麗奈の関係も長く続けば壊れていたのかもしれない。でも、私達の関係は明日永遠になる。


「ありがとう」


 と言って、私はさっき目の合った選手に駆け寄り、ストップウォッチを渡してもらって、計測をした。



 部活中、マネージャーが私しかいないせいか選手の子達によく絡まれた。


 私の隣に麗奈がいると話しかけづらいらしく、私の髪が可愛いとか肌が綺麗とか褒めていた。私が何をしているわけでもないのに言われても、むず痒いだけでしかなかった。


 部活も終わって、私はすぐに家へ帰るのが勿体無い気がし、散歩するみたいに思い出の場所を巡っていた。


 夕暮れの河川敷を横目に繁華街へ向かう。赤い太陽が水面を照らし、その光が川の流れに沿っててらてらと輝くのが綺麗だった。


 しばらく道沿いを歩くと、雑踏のある通りに出る。その雑踏を縫うようにして私は以前行った喫茶店に向かう。


 駅を通り、飲み屋街を通り、裏道に行くとお店がある。遠目に見ているせいか、暗かった。


 もしかしたら、休みかもしれないと私は内心思って近づく。


 看板はクローズの文字が書いてあった。けれども、店の入り口には当店閉店のお知らせと書いた張り紙があり、店の中のものが片付いているのが分かった。


 麗奈の昔話でも聞きながら、紅茶やケーキを食べるのも最後に良いと思っていたのに私は落胆した。


 他に行くところと言ったら、私にはあそこしかなかった。私と麗奈が初めて愛し合った場所、麗奈の生まれたあの病院に私は向かう。


 電車に揺られ、バスに揺られて、坂を歩くと途中から大きな病院が見えてくる。


 あいも変わらず、汚い色で、すでに薄暮となった空にあるわずかな光が病院の不気味さをいや増しているように思えた。


 坂を登りきると、以前とは違って囲まれた堀を覆うように、工事現場にあるような白く薄い金属板がある。入り口の空いた部分もその白い板に阻まれて行けないようになっている。


 前に玄関のあったところに張り紙があるのが見えたから近寄ると、工事予定が書いている。


 私は空を見上げる。


 青紫の空が一面に広がっているのが見える。


 真奈美の死、先輩達の別れ、喫茶店の閉店、廃病院の工事、私の世界が壊れていくように思えた。


 ノストラダムスなんて信じてはいなかったけど、少なくとも私の世界の滅亡に対しては正確なように思えた。


 日が沈み、今日が終わる。

お読み頂きありがとうございます。

よろしければご感想、ご意見賜われましたら幸いでございます。

次の更新は5/1予定しております。

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