冷たい温もり2
目を閉じれば、先輩たちの足がプールの水を叩く音と同級生の「ファイト」の声が聞こえる。目を開けて音の方を見れば、爛々と照り輝く太陽の元に晒されて黒く日に焼けた水着姿の部員の姿が映る。
随分と前に彼女達の快活さと私達の暗さについて麗奈から聞いた時、麗奈が勝手に思い込んでいるだけだと思っていた。けれど、昼に快活さに溢れて運動をしている彼女達と、実際に誰もいなくなった夜のここで私達が行為に及んでいることを考えれば、彼女達と私達の間にある溝は明確だった。
私と麗奈はプールサイドにある日差しよけのついたベンチにジャグタンクを乗せて、スポーツドリンクを作っている。けれども、スポーツドリンクの粉は氷水に入っているせいでなかなか解けなかった。
私は平岡さんの方を向いた。平岡さんは日焼けしないように暑い中でもジャージと麦わら帽子をつけて、及川先輩にエールを送っている。
「みんな思ってもいないんだろうなあ」
麗奈は日向に向かって冷ややかに見つめながら言った。
私が首をかしげると、
「夜ここで私と小夜があんなことしているなんてね」
と言って笑う。
麗奈も私と同じような事を感じていることに内心驚いた。
私は何か返そうとするが、何を言えばいいのか分からなかった。より正確には、何か言おうにも頭の中で夜のここでの麗奈の姿が目に浮かんでしまい、言葉が探せなかった。
私は言葉を探す代わりにスポーツドリンクを作ることに意識を持っていこうとするが、沈黙を守るような麗奈に耐えかねて、私の方から声を出した。
「何考えているのかな、あの人達は」
「さあね」
ため息交じりに麗奈は答える。
人間観察は麗奈の領分だと思っていたのに、興味のなさそうな麗奈に驚く。そんな私に気づいて麗奈は言葉を付け足す。
「正しく言うなら、知っちゃいけないの。私をじろじろ見てくるときとかは何を考えているかなんて分かるけど、普段のあの人達が何を考えているかなんて分からないし、考えてもいけないの……」
麗奈が何か言いかけていたが、それを遮るように私の口から自然と言葉が出た。
「人には人の領分がある」
「そう。私達の世界とあの人たちの世界は交じり合わないから」
麗奈の透き通った声は、いつもよりか細く、水を叩く音に掻き消された。
麗奈はもうこれ以上は解けないと悟って、ジャグタンクにはまだまだ粉はあるけれど手を止める。私はもう少し混ぜてからスポーツドリンクを味見した。薄く感じたけれど、こういうのは薄い方が良いとどこかで聞いたのを思い出して手を止めた。
と同時に、ちょうど休憩を告げるタイマーのアラームが鳴り響き、プールに入っていた部員達が次々にプールから出てきて、ジャグタンクに群がった。
プールサイドの向こう側からは悠然と及川さんと平岡さんが歩いてくるのが見える。私は病院のことを思い出して思わず麗奈の方を見るが、別段気にしていないようだ。
私は居心地悪くなって、たいしてのども乾いていないのにジャグの隣においてあるプラスチックのコップにスポーツドリンクを注いで飲む。
「二人とも熱いね」
一気にあおるように飲み終わったときに、いつの間にか目の前にきていた及川さんが下品に笑って言った。麗奈を見ると、ただいつものように薄く笑っている。
「ゆき、おじさんみたい」
平岡さんが及川さんを茶化すと、
「おじさんいうなよ」
と及川さんは口をすぼめる。それを見て平岡さんが弾むように笑う。
そうしている内に、休憩の終わりを告げるアラームが鳴ると、選手達は大きく返事をして並んだ飛び込み台の前に集まる。私と麗奈も向かおうとしたとき、平岡さんが私の側に近づき、耳元で囁くように言った。
「あの病院、ゆきに教えてくれてありがとう」
その言葉に私は麗奈の顔、怒りに包まれた表情が思い出される。
麗奈を見ると、張り付いたように薄い笑みを浮かべているだけだった。
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