部活
ところで、とオレはひょろひょろと背だけが伸びた幼なじみに声をかけた。
「部活、どうする?」
あー、と翔太はのんびりと返事をした。
「足の痛みも少し落ち着いたし、サッカー部にしようかな」
「大丈夫なのかよ?」
「しばらく本気でやってないから、イマイチ分からないけど」
困ったように、笑う。困るのはこっちもだ。
翔太は、6年になったあたりからぐんぐん背が伸び、そして、足の痛みに悩まされるようになった。いわゆる、成長痛だ。まともに歩けないこともあり、小学校に入った時から頑張っていたサッカー少年団の最後の一年をほぼ、棒に振ってしまった。
あまりにも急に背が伸びたせいか、痛みのせいか、プレーもちぐはぐになり、らしくないミスも多かった。
「リフティングの練習は、してたから」
「そっか」
「…ふたりは、どうするのかな?」
ふたりとは、同じ少年団のチームメイトだった、あーちゃんとレイのことだ。
「どうかなー。女子だしなー。あーちゃんは使えるけど、レイがなぁー」
「レイちゃん、いい飛び出しするじゃん」
「スピードある分、ぶっ飛ばされ方 ハンパないから。兄として、心配。あーちゃんも、テクニックあるけど、当たられると、そろそろキツイかもなー」
「さすが。キャプテンは言うこと違うなぁ」
なんだか嬉しそうに言う翔太を、オレはじーっと見つめてから。
「お前がいないのは、大変だったんだぞ。ホントに。前線でキープできるできないは大きいからな!」
「ごめんね」
「帰ったら、レイに聞いてみるよ。中学生になったんだし、あいつらもそろそろ女子として目覚めるかもしれないし」
「うん」
「体も、男子と女子じゃ、ちがってくるから」
「…そうだね」
一緒にやりたいのかな、サッカー。
でも、小学生までと、中学生からは全然違う。
たしかに、サッカー部には、女子の先輩もいるが、試合には出ていない。部員として所属しているが、活動は主にクラブチームだということだった。
ま、ねーちゃんにきいてみっか。
一方、となりのクラスでも、部活の話で盛り上がっていた。
「あのこってさ、波野少年団の6番だよな」
「たぶん…。やるのかな、サッカー」
ふふん!とアタシはあがる気持ちを抑えきれない。
やっと気がついたか!FC砂土原!オマエら毎回当たるたびにあーちゃんにやられてたからな!
「レイちゃん、明日から部活 体験入部だって。どうしようか」
「どうする?クラブの方もあるでしょ?」
「あっちはまだ、下のチームに所属しただけだし」
「千野さん!」
FC砂土原が話しかけてきた。
「おれさ、小学生の時 サッカーやってたんだけど、千野さんって、波野、だった?」
「うん」
おー!と盛り上がる、勝手に。アタシはちょっと面白くありません。
「レイちゃんもだよ。あと、キャプテンのタカくんがとなりのクラスに…」
あ、ウイングの子かぁ。
声のでかいセンターバックかぁ。
とてもわかりやすく、篠崎兄妹への感想が届く。
「波野の6番って、かわいい顔してめっちゃ強いって有名だったんだよ!」
「…あ、りがとう…」
言った方も言われた方も、真っ赤になる。
「ちょっと!アタシはどうなのよ!」
「あー、ちっちゃいのに足早いとか?」
「ホントに6年なのか、とか?」
「なによ、それー」
笑いが起こって、そして、ひいて。
「サッカー、続けるんでしょ?」
小学生時代のライバルたちに、アタシは問いかける。
当たり前のように、彼らはうなづいた。
真っ直ぐで、まぶしい。
羨ましいと、素直に思った。
大好きなのに。
ずっと。
強くなりたい、勝ちたいと思い続けて、頑張ってきたのに。
あーちゃんを、みた。
あーちゃんも、アタシをみた。
言葉が出ないけど、思いが、溢れそうだ。
少年団の卒団式を終えてから、ずっと考えていた。
これが、最期かもしれない。
こうやって、ずっとみんなでボールを追い続けていられると思っていたけど。
少しずつ、変わっていった。
体も、心も。
今まで知らなかった気持ちに、不意に気づいたりして。
だから、もう、別れなければならない。
そっと、あーちゃんに抱きついた。
新しい制服は、すこしごわごわとして、固かった。