中学校 一年生の春
気がついた時には、もう、一番の友だちだった。
「おはよう、太刀川くん」
「―おはよう」
目を合わせることは、中学に入った頃から、難しくなった。
同じ中学に通えて、とっても嬉しかったのに。
私が通っていた小学校は、3つの中学に分かれて進学になる。その内、一番人数が少なくなるのがこの高濱中学校だった。
小学校の同級生は少ないけど、塾で新しく友だちになった子もいた。そして、幼馴染みのしょうちゃんも。
しょうちゃんは、となりのクラスだった。
入学式。
私は、浮かれていた。
幼稚園から一緒の礼ちゃんと同じクラスで。
ほんとにうれしくって。
しょうちゃんもとなりのクラスだし。
うれしくてうれしくて。
廊下で礼ちゃんとふたり、しょうちゃんが教室から出てくるのを待っていた。
そしたら。
「ねぇっ、カッコイイひといて、よかったねー!なんだっけ、名前!」
「ー太刀川くんだよ!」
テンション高く教室を飛び出してきた子。それは、塾で友だちになった原田さんだった。
うれしくてたまらないといった表情の原田さんが、こちらを向く。
目が合うと、手を振って小走りにやってきた。
「千野さん!」
私も、手を振る。
緊張で、胸が、ドキドキする。
「ねぇ、千野さんって、太刀川くんと小学校一緒だったよね?」
その時、もう、呼んじゃいけないんだって、分かった。
しょうちゃん、って。
となりで、あーちゃんが凍りつくのが分かった。
「…これは」
わかりやすいなーと、思う。これは、フォローをいれとかないと。
「あーちゃん、知ってる子?」
「え…ああ、あの塾が一緒なの。原田亜弥子ちゃん」
「よろしくねー。篠崎 礼です。1組、アタシの双子の兄がいるんだよ!そっちもよろしくね」
いきなり話しかけたからか、原田亜弥子サンは、一瞬真顔になって、思い出したように笑顔を見せる。
「篠崎…くん、いた!似てるね!男女の双子ってすごいねー」
「よく、お揃いの服 着せられたりしてさー。もうホントにヤだったよー」
いつもよりテンション高め、声大きめでしゃべる。もう、早く気づいてよ!
「おー!いつもいつもうるさいなぁ、レイ!」
やっと来たか。
「あんたもね、タカ!」
制服が、だっぶだぶである、私の兄。義鷹。
やっと、あーちゃんが戻ってきた。
「あっ…鷹くん」
「あーちゃん、レイのことよろしくー」
「礼ちゃんと一緒で嬉しいよ」
「ショウはぼけーっとしてるよ!また、手で口隠してる」
あーちゃんは、小さく笑った。
「緊張してるんだね」
笑った。
私まで笑顔になる。
あーちゃんの笑顔が、大好き。
「オレがメンドーみとくから。任せとけ」
あーちゃんにそう言ったあと、
「大丈夫だから」とアタシにうなづく。
うなづき返した。