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覚妖怪の四方山話  作者: ラゼ
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愛好の物語


 御訪浜学園に多数存在する教室の内の一つ――そこで呆気にとられる一年三組の生徒達。目を疑うとは正にこのことだろう。人間というものは第一印象でその人物に対する認識の七割を決めるという。その言葉通りに考えるならば『九曜葵』という少女は見た目通りの、文武両道で才色兼備の優しい人物だ。少なくとも転校生にいきなり消しゴムを投げつけるような人間ではなく、罵声を浴びせかけるなど有り得ない。


 常識を重んずる言動を日常の端々で使用していることから考えても、転校生が自己紹介をしている最中に無理やり教室から引きずり出して言い争いを始めるというのは想像の埒外であった。つまり教師を含め、その強行を誰も止められなかったのは“驚愕”が一番の理由である。


「何をしているんだお前は!」

「何をそんなに怒っておるのじゃ。いつでも来ればいいと言うたのはお前様ではないかや?」

「それで転校してくる阿呆がどこにいる!」

「阿呆とは言うてくれるの。まったく、いつの世も聡明で明敏めいびんな存在は理解されぬものよ」

「…つまり?」

「暇つぶしじゃ」

「死ね」

「そ、そこまでいうことないじゃろう!?」


 長壁姫は言うなれば妖狐の一種である。狐狸こりたぐい化生けしょうの中でも殊更に人を化かすことが得意であり、古くから生きる狐である彼女ならば、数ある障害を踏み越えて――すっ飛ばしてともいうが――“転校”してくることなど朝飯前だろう。


「くくっ、くひゅっ……何故そこまで怒るのかのう。あやかしは自由に生きてこそ。妾がどこで誰と何をしようともめくらには関係なかろ? 春告げ鳥の鳴き声が妾を此処へ誘っただけのこと。それとも……見られたくないものでもあるのかの」

「む…」

あるいは壊されたくないものかや? い、安心しやれ。めくらの生活を乱そうなどとは露ほども思っておらぬ」

「“それ”はわかっているが……お前は自覚なしで色々やらかしそうだ」

「無礼極まりないの。妾ほどに分別のある妖もそうはいまいて」

「…だといいがな。はぁ……まぁ、なんだ、もう来てしまったのなら仕方ないからな……少しだけだが……まぁ、嬉しいぞ」

「くふ、ほんに素直になりよったの。見目みめもそれでは勾引かどわかされんか心配じゃ」

「ふん、私が人掠ひとさらい如きにどうこうされるかよ」


 長壁姫はけして“良い”化生ではない。座敷童ざしきわらしなどに代表される、人の益になるような妖も多く存在するが、彼女はそういった類のものではないのだ。気まぐれで人に害をなし、気まぐれで人の役に立つ気分屋であり、彼女の怒りを買えばよくないことが起きるのは間違いない。


 せっかくできた友人をそんなことで失いたくもない葵は、だからこそ彼女を詰問したのだ。けれど、心を読めば読む程に葵の勢いは衰える。それはそうだろう――己をしたってわざわざ人間の集まりに身を投じた友人を、どう帰せばよいのだろうか。迷惑なのは確かだが、それ以上に嬉しさが勝つのは彼女が人間になったからだろうか。結局突き放すこともできないまま、葵は長壁姫が此処に留まることを認めたのだ。


 ――ちなみに教室の真ん前なので、話は全て筒抜けである。


 そしてそんなことはまったく気にせず、ドアをスライドさせて教室に戻る二人。


「先生申し訳ありません、友人が転校してきたので少し驚いてしまって…」

「すまんの、佐藤よ。許してたもれ」

「…私はどこから突っ込めばいいんだ。姫島の言葉遣いか? 九曜の二面性か? 誰か教えてくれ…」

「キツネ」

「うむ」


 全員の視線を集めながら、スタスタと自分の席に戻る葵。もの問いたげなレミ、プラン、ミグ、みらいに申し訳なさそうな視線を送り、着席と同時に長壁姫に声をかける。彼女も承知していると相槌を打ち、両の手の平をパンと打ち鳴らして響かせた。


 一瞬、キィンという音が教室に鳴り渡る。その数秒後には当事者の二人を除く、クラスの全員から先程のやり取りが“気にする”程のことではなくなった。記憶を書き換えるなどといった時間のかかるものとは違い、手っ取り早い上に痕跡の残らない単純な“気を逸らす”系統の術だ。


 当然なにかきっかけがあれば思い出せるが、人の記憶とは曖昧なものだ。たとえ思い出したとしても、それが現実的ではなければないほどに、有り得ないと断じて白昼夢だったと思うだろう。そして改めて何かを問われようと、葵も長壁姫も人間には及びもつかない年月を生きてきた“老獪さ”とういのを持ち合わせているのだ。のらりくらりとかわしてにごすことなど容易い。


 葵もそれがわかっているからこそ、一々距離を取らずに話を続けていたのだ。そしてもう一度長壁姫が両手を叩いた瞬間、クラスの全員がビクンと体を震わせて覚醒する――ようは寝ぼけてウトウトしている時のアレである。若干名、よだれを口の端から垂らしているのはご愛嬌だろう。


「…ん? あ…?」

「先生、自己紹介の途中ですよ」

「ん、ああ……悪い、少しボーっとしていたみたいだ。すまんな姫島、続きを頼む」

「うむ。なに、妾はそのような些事は気にせん。指教しきょうされることなどなけれど、栓なきことと――むぎゃっ!?」

「そこも変えんかアホー!」


 本日二度目の消しゴム投擲とうてき。勿論のこと、同じようなやりとり――いわゆる天丼――を繰り返すのは“きっかけ”である。全員の脳内に先ほどの消しゴム事件が思い返され、長壁姫が二度目の手拍子を打ったのは言うまでもない。

























 “元”化学準備室。それが『SFCS』の部室であり、主に活動している場所でもある。図書館から古い文献などを見繕い、この場所で読みふけるのが基本的な活動だ。とはいってもその活動が三割、後はディスカッションという名のお喋りである。


 御訪浜学園は古く歴史ある学び舎であり、最大の特徴として国内有数の貯蔵を誇る図書館の存在がある。生徒の数を考えればマンモス校とは言い難いものの、この図書館が敷地内にあるため規模としては遜色ないといえるだろう。校舎よりも広さがあるといえば、その大きさが理解できるだろうか。


 この大図書館を目当てに入学するものも少なからず存在し、みらいなどはその典型である。一般開放は週末のみであり、利用時間も限定されるため生徒の方が圧倒的に利用しやすいのだ。とはいえ私立の学校が敷地内の施設を開放していることの方が珍しいのだから、当たり前といえば当たり前だろう。


 貴重な古書も少数ながら蔵書されているため、セキュリティ性は意外と高い。一般開放とはいうものの、『来ましたよ、はいどうぞ』という訳にはいかず、多少の制限もある。頻繁に利用したいというならば、やはりみらいのように生徒として入学する方が効率的だ。


「狭いの。妾が過ごす部屋として適当とは言えんが……忍び難きもまた興よな。爪に火をともすような生活も新奇じゃ」

「じゃあ帰れ」

「じょ、冗談じゃて。つれないのう、秘女ひめ様よ」

「なになに? ミツネって葵のことお姫様って読んでるの? 確かにそれっぽいけどー…」

「どっちか言うたらミツネの方が姫様感あるけどなぁ」

「くふ、それは勿論――妾はおさかぺっ!?」

「キ・ツ・ネ?」

「あい、たわぶれやえ。流してたもれ」


 恙無つつがなく――とはまるでいかなかったが、とにかくの放課後。昼休みが終了しての二時限、葵の心労が重なったのは本人でさえ予想できたことであった。当たり前のように『SFCS』に加入した長壁姫は部室に足を踏み入れた。休み時間の十分程度でレミ達と気安く接するようになったのは、本人達の気質もあるだろうが葵の尽力のおかげでもある。ちなみに喋り方を直すつもりは一切無かったようで、結局は個性ということで押し通したようだ。本人曰いわく『あいでんてぃてぃー』とういことらしい。


「葵、猫被ってた?」

「な、なんですか藪から棒に。私は私ですよ、ミグ」

「くく、猫ではなくサトぼぁっ!?」

「おい」

「むぐぐ……お前様よ、情感と一緒に手も出やすくなっておらんかや? “不戦のうさぎ”の異名は何処へいったのじゃ」

「そんな異名は知らん」

「…やっぱり被ってた」

「あ、いえ今のは、その…」


 問題があるといえば、長壁姫に対する葵の接し方だろう。長い付き合い――それこそ人の一生分よりもなお長い、竹馬の友とすらいえる彼女達。どちらも江戸の頃にり、葵が語り部として白鷺はくろのきを借りたことから付き合いは始まった。


 彼女達の関係は“異なる妖怪”としてならば非常に深い。十数年、二十数年と顔を合わせることなく時が過ぎたこともあれど、妖怪の尺度でいえば普通のことだ。故に今更接し方を変えるというのも難しい……というよりもむず痒いといった方が正しいだろうか。現代風に表すのならば、バイト先に友達がきて接客用語を使うかどうか躊躇ためらっている状態である。差し詰めレミ達は後ろに控える店長さながらだろう。


「あたし達……葵に騙されてたのね!」

「うち、もうなんも信じられへん…」

「お腹まっくろくろすけー」

「…あくじょ」

「み、みらいまで…! むぅ……私はTPOを弁えているだけです。キツネはその外にいるからいいんですよ」

「然り、妾とめくらは肝胆相照かんたんあいてらす間柄故あいだがらゆえ。心の奥の奥まで、知らぬことなど何もない」

「わぉぉ…! そ、そこのところ詳しく! レミちゃんは俄然がぜん気になってきました!」

「…キツネ」

「そう怖い顔をしやるな。“葵”……これでよかろ?」

「…はぁ。昔はともかく、今は差別用語だから口にするなよ」

「くふ、せせこましい世になったの」


 目を輝かせてぐいぐいと質問をしてくるレミを無視し、葵は自由奔放に振舞う長壁姫をその都度つどたしなめる。備品を物珍しそうに触れて回り、部屋内を徘徊する様はほんの少しながら獣らしさを感じ取れるだろうか。彼女の容姿でそのようなことをすれば、十人が十人愛くるしさを覚えるだろう。


「あ、そういえばミツネの椅子とってこなくちゃ! 忘れてたー」

「空き教室にまだ余っていましたし、取りに行ってきますね。みんなは待っていてください……ほら、踏ん反り返ってないで行くぞキツネ。そこは私の席だ」

「うむ……お前様の案内あないは要らぬ」

「…? 場所は知っているのか?」

「知らぬ。じゃから芦の字よ、ついてまいれ」

「へ? え、私…?」

「いかにも」


 含むような笑みでみらいを指名する長壁姫。いまだほとんど言葉を交わしていない転校生に指を差され狼狽えるみらいであったが、無理やり腕を組まれ勢いに流される。レミ達は少し不思議そうにしていたが、腕を組んだのを見て単に仲良くなりたいだけだろうかと推測し傍観していた。葵だけは一体なんの意図があるのかと、部屋を出ようとしている二人に近付く。


 それを見てわかっているとばかりに、長壁姫は近付いてきた葵の頬にてのひらを添えた。数瞬、二人は見つめ合う。


「…みらい、お願いしますね」

「え、あ……うん」


 少し真剣な顔をした後、葵はみらいにそう告げた。引きずられるように部屋を出ていく彼女から視線を切り、なんともいえない微妙な顔をしている三人に先ほどのやり取りの言い訳を始める。とはいえ、少女達からの言葉は主に口調に関してであった。言ってしまえば『私達にも素で接するべきだ』という主張なわけだが――そこに関しては葵も頑として譲らなかった。“それ”は彼女にとって意外と重要なことなのだ。そして飄々(ひょうひょう)と主張を受け流す様は、やはり『覚』であった。






























 ほこりかびの匂いで満たされる空き教室。清掃が行き届いていないというわけではないが、使用されない部屋というものは古ぼけていくものだ。効率よく積み上げられた椅子と机の山から一つ引っ張り出し、みらいは薄く埃の被ったそれを用意していた濡れタオルで拭いていく――何もせずに見つめているだけの長壁姫に少し憮然としながら。


「なるほどなるほど、確かに面白いことになっておるの。卑小な“天邪鬼”には成せぬ在り様じゃ。いつか隠れよった天津神の一柱かや」

「…? …手伝って」

「あいすまぬ。やれ、中身も外見そとみも妾の目を引きやるぬしに責はあるというものじゃ」

「どういう意味?」

「なに、些末なことじゃ。ただ――うむ、随分とめく……葵を思い起こす見てくれやえ。くふ、遊びたくなるのう」

「…? 明日なら、空いてるけど…」

「くっ、くく――そうかや。なれば明日は下町上覧したまちじょうらんとしゃれ込むかの」


 似ても似つかない己と葵を、相似していると断じた長壁姫に首を傾げるみらい。変人なりのお世辞だろうか――などと酷いことを考えつつ、転校生が勇気を出して誘ってきたのだから応えてあげようと自分の予定を告げる。彼女は進んで人付き合いをするたちではないが、誘われれば付き合う程度のコミュニケーション能力は持っているのだ。


 協力して椅子を拭き終わり、教室を出る二人。タオルを絞り、借りた場所へ返却する道すがら話に花を咲かせる。妖怪や神に類する、神秘的なものや不可思議なものに関しては饒舌じょうぜつになるみらい。当然その方面のことに既知である長壁姫は、打てば響くように相手の知らぬ知識を披露して見せる。


 ほうと感嘆の息をつく少女に、白鷺はくろの姫は満足そうに微笑む。人間だろうが神だろうが、そして妖であろうが己の知識に感心されれば居心地が良くなるものだ。年配の男性、あるいは妙齢の女性が夜の蝶にうつつを抜かすのは『すごーい!』の一声が心の癒しになるからこそである。流行りの言葉でいうなら『承認欲求が満たされる』とでも表すべきだろうか。


「時に芦の字よ、ぬしは妖怪の中で贔屓ひいきにしておるものはおるかや?」

「贔屓? ん……鬼とか天狗、かな」

「…むぅ。まぁ……彼奴等きゃつらは妖の中でもとびきり頭抜ずぬけておるからの。格の高い鬼や大天狗は神にも匹敵しよう。それで、まだあるじゃろう?」

「まだ? んー……あとは、妖狐とか――」

「そうじゃ! それこそ妖怪の筆頭よ!」

「うぇっ!?」

「神妖においては九尾の御方おんかたを凌ぐものなどおるまいて! 善狐ぜんこは妾のような天狐、悪狐あっこの方と、神に等しい――あるいは凌ぐ程の者が多いのじゃ! 妾の見込んだ通りぬしは慧眼けいがんやえ!」

「そ、そう…?」


 名前がミツネだから狐が好きなのだろうか――そんな風に思いながら、テンションの高い長壁姫に若干引きつつ話を続けるみらい。葵が彼女のことをキツネと呼ぶのもそういう訳なのだろうかと思い至り、やはり変人だなと結論づける。はしゃいで腕を振り回す長壁姫をたしなめつつ、結局椅子は私が持ってるじゃないか馬鹿野郎と心の中で悪態をついていた。


 そして部室に戻った二人。葵が何か変なことをされなかったかとみらいを心配し、長壁姫が『妾を信用しておらぬのか』と抗議の声を上げる。その問いに深く頷いた葵の頬を狐がつまむ――これが本当の『狐につままれる』というやつだろう。


「まったく、失敬なやつじゃ。妾は芦の字を品定しなさだめてやっただけじゃというに」

「こらー! 友達を見定めるなんてダメダメ! ミツネだってそんなことされたら嫌でしょ?」

「む…? ではそうじゃな……くく、“雨夜の品定め”ということにしておくかの」

「それなら良し!」

「それなら良いんですか…?」

「評価は何点だった?」

「ミグ。みらいに失礼ですよ」


 雨夜の品定め――解りやすくいえば“良い女”かどうか見定める、という一言に尽きる。昔の男共が、雨の夜の娯楽に『あの子イケてね?』『俺はあの子が…』と駄弁っていることを差した言葉である。ちなみに理解しているのはレミとミグ、葵のみである。なるほど、と頷いているプランはただの『振り』であり、みらいは『変人が変な事を言っている』とスルーしている有様だ。


 実のところ新入生の学力トップ3はこの『SFCS』のメンバーが独占しており、活動が認められやすかった要因でもあったりするのだ。逆にプランとみらいはほぼ最下位であるため、部内格差がとんでもないことになっている。


「くふ、点数はつけぬが悪くはなかったの。葵、お前様にはあたら良き出会いよな」

「ふん、言われなくともみらいの良いところくらい全部知っているさ」

「…っ!?」

「ほほう……どれ、言うてみやれ」

「優しい、可愛い、博識(一部のみ)、可愛い、後は優しいところだ」

「~っ!?」

「くく、まるでわかっておらぬの」

「…どういう意味だ」

「こやつの良いところはただ一つ。妾の素晴らしさを理解しているところじゃ!」

「っ!?」

「消えろ」

「そこまで言うかや!?」


 長壁姫と葵のやり取りに三度みたび声を詰まらせるみらい。何言ってんだこいつら、と顔をぶんぶん振りながら紫の尻尾を揺らす。そして彼女の肩を叩くミグ――親指を立ててサムズアップしている。初見の印象では寡黙で反応の薄い少女に見られがちであるが、彼女は割とおふざけが好きなお調子者だ。照れているみらいをからかうのは自分の使命とばかりに、『可愛い、優しい』と耳打ちしているようだ。


「さ、冗談はこの辺にして旅行の行動時間でも決めましょうか」

「最初は笠間の陶炎祭ひまつりでいいんだよねー?」

「ええ、後は日程も被っていますので合気神社の例大祭にも行こうかと」

「良い案じゃ。妾もそこに行ってみたい」

「ああ……そういえばお前は昔から武術が好きだったな」

「然り、武田の小童こわっぱささやかながら所縁ゆかりもある地じゃの。一端いっぱしおのこになったのは喜ばしいことじゃ。二天一流のあやつと似た雰囲気であった故、大成は目に見えていたがの」

「なんやわからんけど、有名人と知り合いっちゅーことか?」

「…うむ、その通りじゃとも。毛唐の者は賢いの」

「ちょ、馬鹿にされとる気がす――って『毛唐の者』ってうちのこと!? 酷すぎへん!?」

「嫌かえ? では異人とでも…」

「なんでやねん!」


 西洋人形の如き風貌のプラン。このご時世、長壁姫も日本人以外を見た事がないということもない。しかし直接喋るのは初であり、手探り感は否めない。唐人、夷人、夷狄いてきと提案をする彼女にプランは幾度となく突っ込んで関西人の意地を見せ付けた。最終的には『さかい』か『あきんど』になりかけ、最後の最後に『エトランジェ』という案をレミが出して終結と相成った。長壁姫は横文字が意外と好きなのだ。


 喧々諤々と議論を交わし、予定を詰めていく少女達。平均年齢を考えれば“少女達”とはとてもいえないが、とりあえず見た目は少女である。祭りと旅行は準備が一番楽しいという格言通り、彼女達の仲は急速に深まっているといってもいいだろう。人も妖も相性が大事で――葵が友好的に接する人間は、長壁姫にとってみれば尚更接しやすいというものだ。


 本日の天候は狐日和――されど彼女達の人間模様は晴天也。プランの涙がちょちょぎれて、時折り変わるは狐の嫁入り。


 つまり――キツネ日和であった。


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