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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第一章 イダワ島
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【第八話】 雛、孵る

 呆然と立ち尽くしていると、いつの間にか周りに人だかりができていた。ざわざわと騒がしく、真一を訝しそうに眺めている。どの人も紫色の髪の色をしていて、全身を覆うローブを着ていた。顔は日本人に近い顔つきだ。

「その格好は何だ? 持っている物は何だ? 全てが怪しいぞ! どこから来た、答えろ!」

 男は腕を組み真一を見下ろしてきた。

「地球から来たんだよ。……とにかく、船に乗って本島へ行きたいんだ」

「身分がないと乗せられんと言っただろう! だが、お前の身なりは見るからに怪しすぎる。身分どうこうの前に調べてもらう必要があるな」

「は? 調べる?」

 すると、人だかりの後ろから突然声が聞こえた。

「道を開けろ!」

 青年のような声が響き渡ると、騒がしかった声が一気に静まった。そして人が二手に分かれ道ができ、その向こうから腕に緑色の腕章をつけ真紅のローブを身にまとった三人組が、こちらへと歩み寄って来た。

 真一を見るなり、三人組――真ん中に立っていた眼鏡をかけた男は怪訝そうな顔をした。

「騒がしいので来たのですが……先ほど町の真ん中を走っていた男ですね。……なんですか、この身なりは」

「所長さん、わざわざどうも」

 警備員はその眼鏡の男を所長と呼ぶと軽く会釈をした。

「この男船に乗りたいって言うんですが、身分がないわ、こんな格好をしているわで、どうも怪しいと思いまして……」

「なるほど。わかりました。こちらで対応します。貴方はもう船に乗り込みなさい。もう出航時間でしょう」

「あ、そうですね。ではこれにて……」

 そう言い残すと、警備員はそのまま船へと乗り込んでいった。真一は思わず「あっ!」と叫ぶとその警備員の姿を追うため走ろうとした。が、所長ら三人組が目の前を立ち塞いだ。

「どけよ、俺も船に乗りたいんだ。別に何もしねぇから通せよ」

 必死で訴えたが、所長は首を横に振った。

「貴様が何かするのかしないのか、それはこちらが判断することだ。いいからきたまえ」

「いって!」

 左右にいた男二人がそれぞれ真一の腕をぐっと握ると痛みが走った。するといきなり、その痛みと共に周りが残像を残していくかのように流れた。

 一瞬の出来事だった。

 いつの間にか矢倉の前に立っている。呆然としている真一を三人組は構わず引っ張った。

「何をしている、さっさと入れ」

 無理矢理腕を引っ張られ矢倉の中へと入っていく。すると、ヨウがため息を漏らしながら言った。

「……シンイチ、ここは派遣所と呼ばれる場所じゃ。地球で言うなら……警察署のような場所じゃよ」

 その言葉に驚いた様子で目を見開いた。

「なぁに、シンイチは何もしとらん。恐れることはない。それでももし、何かあったらわしが助けてやるわい」


 矢倉の下の空間は意外に広い。下は土であったが、机と椅子が綺麗に並べており事務所のような場所だった。が、真一が連れて行かれた先は事務所ではなく、椅子が一つと目の前に長机が置かれた寂しい部屋だった。真一の弓具とトートバックは男たちに没収され、その椅子に座らされた。三人組の男たちは前にある机を前に腰掛けた。

「……貴様は私たちの質問を終えない限り、ここから出ることはできん。それだけ最初に伝えておく」

「別に逃げねぇよ」

 所長はどこからともなく一冊の本を出現させた。右手で本を受け取ると、そのままページを開きペンを握った。

「まず、名を名乗れ」

「萩野真一」

「どこから来た」

「……地球」

 その言葉に男三人が訝しい表情へとなった。互いに見合わせ首を傾げている。

「そんな地名、アラウには存在しない! 嘘を言うな!」

 弓と矢筒を手に持っている男が怒鳴った。が、真一は臆することなく言い返した。

「嘘じゃねぇよ! 俺は地球の日本から来たんだよ! だから髪が黒いし、この格好はだって別に変じゃねぇんだよ!」

 再び三人は顔を見合わせた。小声でしゃべっており、内容までは真一には届かなかった。

「……まぁいい。ひとまず資料として書いておこう。本部の者が知っているかもしれない」

 開いた本につらつらとペンを走らせている。

「貴様の身分はなんだ」

「身分……ってどういう意味だよ」

 その言葉に所長は顔を上げた。

「……身分とは職のこと。それも知らないとは……チキュウと言う土地、よほどのド田舎と見えた」

 口の端を釣り上げ、にやりと笑った。三人とも馬鹿にしたように薄笑いを浮かべている。

「職なんてねぇよ。言うなら学生ってぐらいか……。もう好きなように書けよ、話になんねぇ」

「ガクセイ? 意味のわからないことばかり……少し痛めつけた方が……!」

 その時、何かが崩れるような音が響いた。

"パキッ"

 その音は明らかに殻が割れる音だった。見ればトートバックがかすかに揺れている。驚いた男は持っていたトートバックを覗き込んだ。

「こっこれは! パラッグの雛!」

「なんだと?」

 所長も立ち上がるとすぐに覗き込んだ。じっと見ていたが、徐々に頬を緩めると大きな声で笑い始めた。

「はっはっはっ! これは……召喚の雛! おまけに最弱の雛ではないか!」

 途端他の二人も笑い始めた。意味のわからない真一はただただ三人を眺めていた。それに気づいた所長は、バックを持っていた男に何か言い、それを受けた男が真一の前にバックを置いた。

 すると、中からサッカーボールぐらいの大きな黄色い雛が顔を出した。怯えた様子できょろきょろと頭を動かしている。サイズが大きいのしろ、その姿形は見覚えのあるものだった。

「……ひよこ?」

 黄色い毛がふわっとして、くちばしが少し濃い黄色だった。小さな黒い瞳はまん丸としていて可愛らしげだった。その瞳がじっと真一を見つめた。

「ひよこじゃったか……やはりシンイチの魔力ではひよこか。半分予想はしておったが……」

 ヨウはなぜかため息を漏らし残念な様子だった。が、真一は違った。そのひよこをじっと見つめている。

「こっち来いよ」

 真一が椅子から地面に手を伸ばすと、ひよこは短く「ピィ」と鳴いた。そして、小さな歩幅を一生懸命動かし近寄るとそのまま手のひらに乗ってきた。手のひらを大きく広げないと持てない大きさだったが重さはほとんどない。黄色いの毛がふわふわとしている。

「……シンイチ」

 その声でヨウの顔を見ると、いかにも嫌そうな顔をしている。

「あやつらが馬鹿にしておるのは、ひよこが産まれたからじゃ」

 真一は首を傾げた。さらにヨウは続けた。

「ひよこはパラッグの雛で最弱、その弱さ故に食用とされとる。自然孵化した雛が出来損ないのひよことして産まれる。それを見つけた人間が取り、食用としておる。それなのにじゃ、シンイチが触ったのにも関わらず孵化したのはひよこじゃった。人が触った卵はよほど魔力が低くないと、ひよこは産まれん。じゃから馬鹿にしとるんじゃよ」

 見れば男三人は腹を抱えまだ笑っている。それを見計らい真一はぼそっと声を出した。

「……それは別にいいんだけどよ、なんであいつ召喚の雛ってわかったんだよ」

「それは卵の殻じゃよ。見てみぃ」

 トートバックから見える殻の破片を見ると、黒い水玉模様なものが付いていた。

「あれで何の卵かわかるんじゃよ。もちろん、触った人間に影響して変わる」

 すると、いきなり入り口の方から図太い声が聞こえた。

「所長! 私だ、マイクだ! 少々尋ねたいことがある!」

 笑いながら本に書き込んでいた所長だったが、その声に手を止めた。

「あぁマイク様いらっしゃいませ。どうぞ、こちらへ……」

 本をぱっと消すと、慌てて席を立ち入り口へと向かって行った。

 部屋には男二人と真一が残された。ひよこを手にしていた真一に対し、荷物を持っていた男がその荷物を真一へと投げつけた。そのせいでひよこが床に転げ落ちた。そして、男が真一に近づくと右の二の腕に黒い布を巻きつけた。

「何すんだよ」

「これは身分の証。……貴様がサモナーしかも最弱だと言うことはわかった。どこへでも行け、警戒した私たちが馬鹿だった」

 舌打ちをし、苦々しい表情のままその男二人も部屋から出て行ってしまった。

「……よくわかんねぇけど、終わったみたいだな」

 呆然としていたが、しばらくして真一は荷物を担ぎ椅子から立ち上がった。

「しかし、木からできた卵から雛が孵るなんて……信じられねぇけど本当だったんだな。これを見せるためにパラッグの卵をわざわざ取りに行ったのか」

 そう言うと床に転がっていたひよこを拾い上げ、トートバックの中へと納めた。

「いや、まぁそれもあるが……シンイチ。まさか……そのひよこ、連れて行くなどと言うのではないじゃろうな」

 ひよこは抵抗する気がないのか、暴れる様子もなくトートバックの中でじっとしているようだった。

「当たり前だろ。食用にされてたまるかよ」

「なんじゃと! 絶対ならん! 馬鹿にされるだけじゃ! おまけに役に立たん! 城へ向かう時の荷物になるだけじゃ! 置いて行け!」

 必死の形相で訴えるヨウを無視し、シンイチは入り口へと向かって行く。

「ただでさえ、シンイチの格好で目立っておるんじゃぞ?そんなもの持って歩くとなると余計ひどくなるわい! じゃから……」

「うっせぇよ!」

 真一の睨み付けるような視線とその声に、ヨウは思わず口を閉ざした。一方で、叫んだ後真一は一呼吸を入れた。

「……役に立たねぇとか馬鹿にされるとか、こいつには関係ねぇだろうが。俺らがこいつを孵したんだ。その責任があるんじゃねぇのかよ」

 そうぼそっと言うと俯き加減に歩いていく。ヨウもそれ以上は真一に対し言うことができなかった。

 すると、いきなり何かにぶつかった。衝撃で真一が顔を上げると短髪の丸々と太った男の顔があった。

「おぉこれだ。よし。買った」

 と、真一の顔を見ながら一言言った。満足そうに頷いている。

「ありがとうございます、マイク様。ではこちらに署名をお願い致します」

 横には所長がおり、手にはいつの間にか先ほどの本を広げて持っている。そして、そのページに男――マイクが手を当てサインをしている。

 意味がわからない真一はその二人の横を通り過ぎようとした。入り口は目の前だった。出ようとしたその時、急に後ろから肩を掴まれた。

「待て! どこへ行く?」

 所長の声に足を止め、振り返った。

「調べは終わったんだろ? どこへ行こうが俺の勝手じゃねぇか」

「馬鹿か貴様。マイク様が買われたのだ、聞こえていただろう」

「は、買われた? 何だよそれ」

 真一のその言葉に所長とマイクは互いに顔を見合わせ、笑い始めた。

「はっはっはっ! やはり、このサモナーは変わっているな!」

「全くその通りです」

 所長が笑うのをやめ、咳払いをするとにやりと笑い真一に言った。

「貴様の職はサモナーだ。そして、たった今このマイク様に雇われた。……理解できたかな?」

「サモナー? 雇われた……だと?」

 状況を飲み込めない真一の様子を見て、マイクは肉を揺らしながら再び笑った。


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