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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
最終章 旅の終わり
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【第七十一話】 覚悟

    ◇    ◇


 赤い杖の先端の球体の中に、身動きが取れないイッチ姫が映っている。

 それを凝視しながら黙り込むダック公爵と、その様子を見下ろすトグ。二人の間に張り詰めた空気が流れていた。

「……やはり統治者というだけはある。今までの魔力では、姫をうまく扱えぬ」

 そう言ってため息を吐いた。球体にはずっとイッチ姫の姿が映っている。

「どうするのだ。イッチ姫は乗っ取ることができても動かせねば意味がないだろう。おまけに、残りの奴らがこちらへ向かっているぞ」

 トグは窓に近寄ると、降りしきる雨の中アラウ城へと走る一行を見下ろす。

「統治者全員が歯向かう、か。やれやれ、面倒なことになった。……貴重な魔力元であることは間違いない。殺すのは惜しい」

「……捕虜にして従わせるのか? ふっ、奴らが簡単に従うとでも思っているのか?」

「まぁ簡単ではないだろうなぁ。だが、私を見くびるなトグ。……私はこの国に対して、何の情もない」

「……どういうことだ」

 ダック公爵は薄気味悪い笑みを見せた後、ある部屋へと入って行く。

「いづれわかる。この廊下で待つのも格好が悪い。……王と一緒に奴らを待とうではないか」

 怪訝な目つきでダックを睨みつけながら、トグも部屋――王の寝室へと向かう。

 ――ふと、再び窓を見ろすと小さな人影がアラウ城へと向かっている。

 真一とヨウである。

 しばらく見下ろした後、ふんと鼻で息を吐くとダック公爵の背中を追った。


    ◇    ◇


 息を切らしながら、シトモンを先頭にアラウ城ロビーへと足を踏み入れた。

「……はぁ……はぁ。こ、こんなにもアラウ城とは静かな城だっただろうか?」

 ライトは息が切れて返事ができず、続けて後ろから走って来たトトロイとガナオンが代わりに口を開く。

「……いや、もっと兵士がいるはずだ」

「……おかしいわ。なぜ誰もいないの」

 次にマスクを担ぐリオがやって来た。まだマスクの目は開かれない。

 三人の統治者はマスクとリオに対し、それぞれの反応を示した。

「先ほどから思っていた。なぜ、エルモの者がここにいるのだ」

 と言って、シトモンがリオの目の前に立ち塞がる。それを見てライトが慌てて止めに入る。

「父上! この方はシンイチさんのご友人の方です!」

「友人? 敵対しているエルモ人が友人だと?」

 信じられないといった表情を向けているシトモンに、若干笑みをこぼしながらトトロイが近寄って来た。

「正しくは俺の部下だよ、シトモン」

「……トトロイ、どういうことだ」

 トトロイは何も言わず黙っているリオの隣に立ち、にやりと笑って見せた。

「俺は赤いものが好きでね。気に入ったのさ」

「気に入った? ……ふん、お前は本当に変わり者だ」

 張り合っても仕方がないと思ったのか、シトモンはそれ以上言及することなく顔を背けた。その後ろでは、ほっと胸をなでおろすライトと、呆れた様子でため息を漏らすガナオンの姿があった。

 一方、トトロイは担がれているマスクの姿をじっと見下ろしている。

「……そいつはダック公爵の部下の、マスク、という名だったか」

「はい」

「降ろせ」

 トトロイの鋭い眼光に、リオも黙って従った。

 降ろされたマスクは仰向けに寝かされる。だが、目は固く閉じたままだった。

「……何があった?」

 その場にいる全員がマスクを見下ろす中、トトロイの問いかけにライトが口を開く。

「私とリオさんは、このアラウ城に閉じ込められていました。リオさんは牢屋に、私は……マスクさんに軟禁されていました」

「なんと……こやつにか! なぜだ?」

 驚きの声を上げるシトモンに、ライトは申し訳なさそうに視線を送り黙り込む。

 それを見かねたのか、ガナオンがライトの肩を持ち優しく微笑んだ。

「色々……事情があったようね。話を続けてくれるかしら?」

「はい……」

 ほっと表情を浮かべると、再びライトは話し始める。

「私はヨウさんとリオさんに助けていただきました。そして、何か知っているかもしれないと思い、三人で王様のところへ向かうことになりました。ですが、その途中、マスクさんとダック公爵に遭遇してしまったんです」

「それでどうなったの?」

「……ダック公爵は、私たちを殺そうとしました」

「なに!」

 その場にいた全員が息を呑んだ。そして、横たわるマスクにも鋭い視線が落とされる。

 その殺気立った雰囲気を察したリオが、慌てて声を上げた。

「こいつは違います! 俺たちを、ダック公爵を裏切ってまで助け出したんです」

「本当か、リオ」

「はい。こいつにの何の心境の変化があったかは知りません。しかし、そのおかげで俺たちが助かったのは事実です」

 すると――最後走って来た真一とヨウがようやくアラウ城の中へと到着する。

 二人ともずむ濡れで、着ている袴からは滴が滴り落ちている。真一は上がっていた息を整え、ようやく身体を起こした。

「……よかった。追いついた……」

「シンイチ。今、ライトとリオからここで起こったことを聞いていたところだ」

 真一も皆が集まっているロビー中央へ歩み寄る。

 円を作って立っている中、中心部にマスクが横たわっていた。

「……まだマスクは起きてねぇのか」

「マスクがライトとリオと、ヨウを助けたらしいが……。そのせいで、こいつは意識を失ったままということか」

 白い半面のマスク。その下に、一体何を隠しているのだろう。なぜ、ずっと仕えてきたダック公爵を裏切り、自らの命を危険に晒してまで助けたのか。

 今までのマスクを思い起こしても、真一は答えを見つけることはできない。

 すると、ライトがマスクの横に跪き、両手をかざした。

「ライト? 何をする気だ?」

「……マスクさんに回復魔術を施します」

 そう言うが早いか、すぐにライトの両手から水色の空気がふわふわとマスク全体を覆う。

 だが、シトモンはそれを許さなかった。すぐにライトの肩を持つと、力いっぱい引っ張った。

「何を言っているのだ! それはお前を捕らえていたのだろう? なぜ救おうとする? もし、目覚めてまた敵になったらどうするつもりなのだ!」

「……父上、離してください!」

 だが、ライトは振りほどいた。そしてまた回復魔術を施す。

「なぜだ? なぜ、そこまで……」

「マスクさんは、私の目を治してくださいました! それに命までも……。それを見捨てるなどできません」

「こやつが……目を? だ、だが、また再び襲おうとしたらどうする? ダック公爵の手下であることは間違いないのだぞ?」

「マスクさんは、そのような方ではありません」

 その横顔は、いつも不安そうにびくびくとしているライトではなく、信じて疑わない強い意思を持っている顔立ちに見えた。

 以前とは違う娘の様子に、シトモンも言葉を失いがっくりとうなだれる。その様子にトトロイはにやりと笑う。

「……そこまで言うならば、そうなのだろう。良いではないか、シトモン。人はいずれ成長し巣立つ。ライトもいつまでもお前だけの娘ではないのだ」

「だが……しかし……」

「どちらにしても、マスクを目覚めさせ事情を聞く必要があるだろう。だが、待っている時間はない。シトモン、それにリオ。二人でライトがマスクを回復させるまで守ってくれ。その間、残った俺たちで王の元へ行く。……良いな?」

 リオは頷いて答える。ライトも一瞬微笑んで見せると、再びマスクへと視線を落とした。

 シトモンは苛立った様子で頭を掻くと、マスクを隔て反対側に移動し跪く。

「……父上?」

「そうとなれば、早くこやつを目覚めさせねばなるまい! 私を誰だと思っているのだ? お前の父親だぞ」

「……はい!」

 久しぶりに見た娘の嬉しそうな笑顔に、シトモンはにやけそうになる顔を必死に堪えている。

 そんな二人の様子を、ははっと大きく笑うとトトロイは歩き始める。

「では、先で待っているぞ!」

 片手を上げ進むトトロイの後ろを、ガナオンは小走りに追う。

「あっ! ……シトモン、ライト、リオ! 気をつけなさい!」

「はい! ……し、シンイチさん」

 じっと見ていた真一の視線にようやく気付き、顔を少し染め視線を落とすライト。

 その前ではじっとシトモンが真一の様子を見ている。

 言葉なき忠告の前に、真一は苦笑いを浮かべながら口を開いた。

「……ライト、リオ、気をつけろよ」

「あぁ。シンも気をつけろ。……俺から見ても、ダック公爵と言う奴は禍々しい者だった」

「だろうな。あの姫様が敵わなかった相手だ。……ライト」

 優しい呼びかけに、ゆっくりと見上げる。

 真一がにっこりと微笑み、そっとライトの頭に手をやった。

「今はごたごたしてるけど、終わったらゆっくり話そう。で、今まで見れなかった景色とかまた一緒に見に行こうな」

「は……はい……」

 そう言うと真一はトトロイたちの背中を追って走り出した。

 一方、ライトはその背中をぽーっと眺めている。見えなくなるまでずっと見ていた。

「……私には何も言わなかったな」

 こっそりと呟いて、シトモンはため息を吐いた。



 正面の扉を進み、がらりとした廊下を三人の足音が響く。外は相変わらずの嵐で、時折稲光がしている。

 歩きながら真一はイッチ姫と見た、食堂での光景を説明した。

「……全員が? 通りでこの静けさか」

「一体何をされたのかしら……」

 先を歩く二人の顔色はわからないが、それ以上続かない言葉を聞く限りダック公爵について思案しているようだった。

 一方で、そのことを聞いたヨウも顔色が悪く絶句している。――無理もない、おそらく顔見知りばかりなのだから。

「大丈夫か?」

 真一の言葉に、ようやく我に帰り視線をこちらへと向ける。

「……あ、あぁ。大丈夫じゃ。姫も……ショックじゃったに違いない」

「あぁ。お前と同じように、言葉を失ってたよ」

 一体彼らは何をされたのか。そして、何が目的なのか。

 考えたところで予想もできない。それはその場にいる全員が同じだった。知るのは――もはや一人しかいない。

「……さぁこの階段を昇ればすぐだ」

 国王の部屋へと続く階段。そして、先ほどヨウたちが襲われた廊下に出る階段である。

 トトロイは足を止め振り返った。

「ガナオン、シンイチ、そしてヨウ。絶対無理はするな。この中で奴にダメージを与えることができるのはおそらく俺しかいない。お前らは後ろから援護しろ。いいな?」

「まさか……貴方一人で突っ込む気なの?」

「そのつもりだが、何か不都合か?」

 ガナオンはムッとした表情になる。

「不都合も何も……姫様を操ろうとする人物よ? 貴方一人でどうにかできる相手じゃないわ! ここは力を合わせて……」

「わかっている!」

 その大声に一瞬、静かになる。

 目を見開き驚くガナオンに対し、トトロイは一つ深呼吸をした。そして静かに語る。

「……今はイッチ姫様を目覚めさせることが最優先だ。アラウ国王の身に何かあれば、次の継承者はイッチ姫様だ。そのイッチ姫様が操られてみろ……この国は終わるぞ」

「だったらなおのこと……」

「全員が束になってやられてみろ、今度は誰が止める? それに俺がやられるということは、イッチ姫様を足止めしているトトも倒れるということだ」

 ハッとしたガナオンは、同時に唇を噛み締める。

「おそらく、オディとトト、二人でやっと足止めしている状況だろう。そうなれば、トトが倒れた時点でイッチ姫様も敵に回るということだ。それだけは絶対にあってはならんことだぞ」

「……でも!」

 トトロイの腕を掴むガナオンの手に力が入る。どうにかして止めたい。だが、良い案が浮かばない。

 意見しようにも言葉が出てこない。ただ、トトロイを見つめ懸命に目で訴える。

 すると、ふっとトトロイが笑みを見せた。

「安心しろ、俺は簡単にやられるほど柔じゃない。だが万一……倒れるようなことがあれば、すぐに逃げろ。おそらく、オディは簡単にやられるような奴じゃない。あいつに頼んで自分の町へ戻れ。それでもう一度作戦会議でもするしかない。その時に初めて束になって戦え。自分の命を捨てる覚悟でな」

「トトロイ……貴方はどうなるの?」

「……俺は作戦会議で役に立つ資料の生贄になってるだろう」

「ふざけないで」

「ふっ……えらく俺を心配してくれるな。もっと早く甘えてくれれば、俺もそれ相応に応えてやったのに」

 ぽん、とガナオンの頭に手を当てると、すぐに身体を翻し階段を昇り始める。

 慌てて後追うとする真一に対し、ガナオンはその場から動かない。思わず足を止め、ガナオンに振り返った。

「……ガナオンさん?」

「……本当に身勝手な人」

 そう呟くと、真一を抜いてトトロイの後を追う。

「あの二人……色々とありそうじゃの」

 見ながら呟いたヨウの言葉を聞きながら、真一も小さく頷いてその後を追いかけた。


ごめんなさい、最近また執筆速度が落ちております。

というのも、実はもう一つ連載をしておりまして……そちらを進めようかと思っています。あっちは長い連載になる予定はありません。

ちゃちゃっと終わらせて、そのあと集中してこちらを進めようかと思っています。

どうなるかはわかりませんが、こちらの更新が週一よりも遅れる可能性があります。

申し訳ございませんorz

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