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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第七章 アラウ城
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【第六十五話】 初対面

 ライト涙を拭いながら、ようやく口を開いた。

「私のせい……私のせいなんです。ヨウさん……どうしたら、いいんでしょうか……もう私……」

「ライト……」

 ヨウはライトの肩へと移動する。

「きっとシンイチは大丈夫じゃ。わしが生きとる、ということはシンイチも生きておる。じゃが、あのマスクに連れられて行かれたんじゃ。ただで済むとは思えん」

 ヨウは小さな指でライトの涙を拭う。

「……ライト。泣いておる暇はないぞ。シンイチを救うには、ライトの力が必要なんじゃ」

「私の……力、ですか?」

 大きな瞳がヨウを見つめた。

「そうじゃよ。このエルモ人とわしでは、意思疎通ができん。ライトがおれば、わしのことを伝えることができるじゃろ?」

「あっ……」

「エルモ人は……強いからの。じゃが、使魔が見えん。それに魔術に関してもほとんど知識はない。それを補うことができるのは、わしであり、そしてライトじゃ」

 ライトは落ち着いたのか、涙が止まっている。

「三人で協力すれば、きっとシンイチを助け出すことはできる。……大丈夫か、ライト?」

「……はい」

 ライトは手で目を擦り、立ち上がるとリオを真っ直ぐと見つめた。リオは気配を感じたのか、振り返り正対した。すると、すぐにライトが頭を深々と頭を下げる。

「リオさん。ご迷惑をかけてしまい、本当にすいませんでした」

「え、いや……」

「きっと……ひどい怪我もそのせい……ですよね」

 顔を上げたライトの顔は申し訳なさそうに、視線を床に落としている。

「まぁ……俺がこの国にいること自体、いづれこういう扱いを受けるとは覚悟していた。だから気にしなくていいさ。……それより」

 一つ咳払いをして、リオは再び口を開く。

「使魔が何を言ったかは知らないが、俺は早くシンを救いたい。そのためには、ライトさんが知っている情報を俺たちにも教えてほしい」

「……はい。ヨウさんは、三人で協力すればきっとシンイチさんを救える、とおっしゃってくれました」

 少し頬を緩めライトは微笑むと、すぐに視線を落とし思い出すように言葉を続ける。

「ではまず……私の視力についてですが……。これは……マスクさんに治していただいたのです」

「なに、マスクじゃと?」

 ヨウは驚きの表情を見せる一方で、リオは表情を変えずにじっと言葉に耳を傾けている。

「すごく……申し上げにくいですが……治していただけたのは……交換条件、だったからなんです」

「何とライトの治療が、交換条件だったんじゃ?」

 ライトは眉を八の字に、困ったような表情で肩に乗るヨウに顔を向けた。

「その、ヨウさんを渡す、それがマスクさんが提示した条件でした」

「わしを……?」

「マスクさんたちがなぜ、ヨウさんを欲しがっていたのかはわかりせん。初めてシンイチさんが私を召喚してくださった時、マスクさんに一瞬だけ盲目を治していただいたことがあったんです」

 ライトは呆然と床に視線を落とす。

「ずっと暗闇を見てきた私にとって、それは夢でした。色彩鮮やかな世界を見て、もう一度、この目で世界を見たいと願ってしまったんです。ですので……ヨウさんをマスクさんに渡してしまいました……。ごめんなさい……」

「気にするでない。……それで、わしを渡した後マスクらはどうしたんじゃ?」

「マスクさんは、ヨウさんをどこかに連れていってしまったんです。それからは……私をこの部屋に匿い、時折この部屋にいらっしゃっていました」

「……じゃあ、ライトさんは仮面の奴が何をしていたのかはわからない、ということか」

 リオの問いかけにライトは頷いて答えた。

「……ごめんなさい。役に立てず……」

「そんなことはないさ。……でも、どうしてこの部屋から出ることができたんだ?」

「……なにか、異様な気配を感じたんです。寒気というか……。もしかしたら、と思い扉を押してみると鍵が開いていました。それでお二人に……」

「ふーむ。何か、罠のにおいがぷんぷんとするなぁ。まぁ、ライトさんが出てきてくれたおかげで、あの変な廊下から逃れることができた。終わりよければ全て良し、か」

 頭をがりがりと掻くリオに対し、ヨウは黙り込み何かを考えていた。

「……わしは牢獄に閉じ込められておった。そこにはたくさんの使魔が捕まっておった」

「そ、そうだったんですね……」

「なぜ、使魔掃討作戦などというのをやり始めたのか……。なぜシンイチを捕らえようとしたのか……」

「え、シンイチさんを……捕らえる?」

「そうじゃよ。使者のやつら、シンイチを捕らえようとしておったからの」

 突然、リオは何かに気づいたように目を見開く。

「今思えば、なぜ、城からの使者がシンを捕まえようとしたあと、あの仮面のやつはシンを足止めしたんだ? なんだか矛盾していないか? 使魔掃討作戦とやらが、シンの確保に変更されたなら絶好のチャンスだったはずさ」

「ぬ、今エルモ人が言っておるのはどういうことじゃ」

「使魔掃討作戦が、シンイチさんを確保するようにと情操部の指示が変わったそうです。それはマスクさんも言っていました。ですが、マスクさんはあの時シンイチさんを捕らえようとはせず、むしろ私の願いを叶えてくれました」

「願いを、叶える? どういうことかの?」

 リオも視線をライトへと向ける。

「ライトさんは仮面のやつに何か頼んだのか?」

「はい。シンイチさんは、巻き込まないでほしい、と」

「……そういう意味だったのか。だからあの時、ライトさんを連れて行き、実際に目の前で洞窟の道を塞いだ、というわけか」

「そのあとにヨウさんは牢獄へ行かれたのだと思います。……なので、今、シンイチさんがマスクさんに捕まった、というお話を聞いて……驚いてしまったんです」

 再び視線を落としたライトに、ヨウか優しく肩を叩く。

「そう落ち込むな、ライト。シンイチはきっと助け出す。……まぁおそらく、わしを逃してしまったからじゃろうな。先ほども、シンイチがかばっておらんかったらわしが捕まっておった。要するに……わしとシンイチ、どちらも捕まえておきたいらしいの」

「なぜ……お二人を捕まえたいのでしょうか」

「……わからん。じゃが良い予感はせんの……。一刻も早く、シンイチを見つけ出さねば」


    ◇    ◇


 真一を見下ろすマスクとトグはにやりと頬を緩めた。

「ハギノ、抵抗するなどと馬鹿な考えを起こすな」

「……いくらチキュウ人と言えど、そんな馬鹿な行動は起こさないだろ」

 そんな二人を睨み返しながらも、真一は動くことができなかった。

「……俺をどうするつもりだ」

「今から部屋を移動する」

 すると、トグが真一の周りに自分の血で円を描き始める。不審そうに見つめる真一に、マスクは笑みを見せた。

「心配するな、移動魔術だ。途中、逃げようとされると面倒だからな」

「……ライトはどこだ」

 余裕の表情を浮かべるマスクに対し、真一は警戒を緩めなかった。思わず拳に力が入る。

「おいマスク。本当に用事があったのは、俺とヨウだけだろ。それを……なんでライトを巻き込んだ! ライトの身に何かあったら、てめぇは絶対許さねぇぞ!」

「何度も言っているだろう? ライト様の意思だと。……しつこいぞ、ハギノ」

 背筋が凍るような鋭い眼光。だが、真一は恐れて震えそうになる身体を、歯を食いしばり拳に力を入れ堪える。

「……何がライトの意思だ。どうせ、てめぇがそういう風に仕向けたんだろうが! ライトは無事なのか、はっきりしろ!」

 ふう、とマスクは大きくため息を漏らした。と、同時に円を描き終えたトグが近くに飛んでくる。

「……もう少し眠らせて置いたほうが静かだったな」

「てめぇも同胞があんなたくさん捕まって弱っていく姿を見て、何も感じねぇのかよ!」

 顔が熱くなるのを感じた。

 が、トグは対照的に冷めた視線のままだった。

「別に。本来、使魔は単独行動だ。捕まった奴らが悪い」

「なぁにぃ? てめぇはいつでも一人で生きてきたっていうのか。だからそんな冷めた使魔になっちまったのか。ヨウとは大違いだな!」

「……そうだな。俺とヨウは正反対だ」

 ほんの一瞬、トグの言葉と表情に何か曇りが見えた気がした。それを感じた真一も一瞬、血が上っていた頭が少し冷えた。

「トグ。さっさと移動魔術をしろ」

 マスクの言葉に、ぶつぶつと詠唱を始めたトグ。するとまもなく目の前が真っ黒になる。が、それは一瞬ですぐに目の前が明るくなった。

「……ここは」

 そう真一が呟いた――その時だった。

「マスク! ここから出しなさい!」

 聞き覚えのない、甲高い声。

「……やれやれ、姫様もお目覚めですか」

 先ほどの部屋とは違う、広い部屋。床は絨毯が敷き詰められ、大きなクローゼットやベッドもある。

 その声の主は、部屋の一番奥、ソファの前に立ち睨みつけている。が、すぐに真一の存在に気づき少し後ずさりをした。

「だ、誰ですか!」

「ふふ。イッチ姫様。この者は今のヨウの契約者(マスター)ですよ」

 その言葉に、イッチ姫は大きく目を見開き驚きの表情へと変えた。

 身長は真一ぐらいの高さ、瞳の大きな小さな顔、美しい金色の髪を後ろに束ね、胴衣には鎖帷子と背中に白いマント。何よりも薄紅色の短いスカートから、形の良い足が見えている。

「あ……あんたが……前マスター……イッチ姫……!」

 その美しい容姿に真一は言葉を失った。


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