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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第一章 イダワ島
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【第七話】 前途多難

 眩しい日差しが木の陰から漏れ、森の道にあちこち光が差し込んでいた。そんな道を少しだけ足早に歩いていく。森のどこにいるのか町はどこにあるのか真一にはわからず、ヨウの言葉だけが頼りだった。自信満々に指差す方向へとひたすら歩く。

「で? なんでお前召喚魔術以外の魔術使えるんだよ。俺は使えないのか?」

 肩から提げた矢筒とトートバックを担ぎ直しながら真一が尋ねた。

「シンイチは残念じゃが使えん。元々魔力がないしの。もし、召喚以外の魔術が扱えておったなら、それプラス召喚が使えておったんじゃ」

「へぇ。で、お前はどうしてそれが扱えるんだよ」

「……それはな。わしら、使魔が特別じゃからじゃよ」

 何か急に真面目な顔つきになったヨウは指差していた腕を下ろした。

「わしらは、四つの魔元素を元々備えやすい体質じゃから四つの魔術を制限なく扱えることができるんじゃよ。そして血も特別で、付いたその者に魔力魔術を分け与えることができるんじゃ。それが使魔とマスターの関係じゃ。使魔は通常普通の人間には見えん。じゃから普通は、使魔がその人間を気に入り姿を見せることで関係が成立するんじゃ。それが……最近はひどいもんじゃ……」

 なぜか暗い顔をしている。不審に思ったが、もしかしたら自分のことを言っているのかもしれない、そう思うと少し腹が立った。

「おい。ひどいって、お前が勝手に落ちてきてぶつかって、血を俺につけたからこんな状況になってんだろうが。文句言うなよ」

 黙ったまま顔を上げたヨウの顔はむすっとし、何か言いたげな表情だった。が、反論する様子もなく大きくため息を漏らした。

「……まぁ、これがわしが四つの魔術を使える理由じゃよ。回復と移動魔術はもう魔元素がほとんどないから、しばらく使えんからな。もう怪我をするのではないぞ」

「お前が怪我させたんだろ……」

 細い木々を進んでいくうちに、一面こげ茶色だった地面に小さな草がちらほらと生え始めていた。しかしこの小さな草を良く見てみると、淡い黄色に染まっている。おまけに、ほのかに光を帯びているようにも見えた。真一は思わず足を止め、近くで見るために屈んだ。

「……なんだこれ。なんか、光ってないか? 形はどっかに生えてそうな雑草なのに」

 触れてみると温かかった。その草自体が熱を帯びているようだった。

「これはフェル草じゃ。一応食べられる草じゃが……」

「へぇ。どれ一つ……」

 そう言って草をちぎり取った。手のひらに乗せても熱を帯び黄色が発光しているかのように見える。口に運ぼうとした時、ヨウが慌てた声でそれを止めた。

「待て! そのまま食べてはいかん!」

「ったくなんだよ」

「それは触媒草と言われるもんなんじゃ。それを触媒にし、食べ物を召喚することで食べることができるんじゃ。それをそのまま食べてしまうと中毒症状を起こしてしまうぞ!」

「……中毒症状? よくわかんねぇけど、やばそうだな」

「まぁそのまま食べん限り害はない、むしろ良い品じゃ。持っておいて損はないぞ」

 真一は半信半疑で頷きながら、それをトートバックの中へと入れた。そして立ち上がり再び森を歩き始めた。


 どれぐらい歩いたのか。歩いても歩いても似たような木々ばかりだった。先ほど生えていたフェル草もなく、こげ茶色の地面が続いている。ふと見上げていれば日差しが心なしか弱くなっていた。真一は痛む腕をかばいつつ、重い卵の入ったトートバックと矢筒を担ぎ直しながらも黙々と歩いていた。

「……おい、まだ町には着かねぇのかよ」

「なぁにもうすぐじゃよ」

 そう言った後、ヨウの顔が突如緩み始めた。

「おぉ……家がある。町じゃ! シンイチ、町へ出たぞ!」

「え、家? どこ?」

 目を凝らし、木々の合間をじっと見てみると家らしき建物が見えた。

「……家だ!」

 思わず駆け足へとなった。息苦しかった呼吸も疲れもすっ飛び、その建物目指し走り出した。

 走って飛び出すと、森から出て広い草原が広がっていた。森から出るように草を分けた道なりを見ていくと、家が集まった場所がある。間違いなく町だった。四角い建物がいくつも見られる。呆然とそれを眺めた。

「やっと……やっと着いたか」

 そう漏らすと、安心したのかどっと疲れた様子でその場にしゃがみ込んだ。ヨウもほっと息をついた。

「やれやれ……イダワは森の中にある町じゃからな。と言うよりも、わしらがアラウへ降りついた場所が悪かったの。その森の外じゃったからなぁ。本当は航路があって、船着場から出ればすぐなんじゃよ」

「船着場……それって本島へ行けるんじゃねぇか?」

「そうじゃ。前マスターに会うためにはその船着場へいかんと駄目じゃな。しかし……」

 ヨウはそう言うと空を見上げた。太陽は傾き始め、空は紅く染め始めていた。

「今船が出ておるかわからんの。……シンイチ、疲れておるじゃろうがもう一踏ん張りじゃ」

「あぁわかってる」

 ぐっと足に力を入れると勢いよく立ち上がった。

 道を進んでいくにつれ、町の賑わう声が耳に届いてきた。小さく見えた建物も、その形がどんどんと大きくなる。よく見ればどの建物もレンガ造りのような頑丈そうな造りだった。町の中に道路があるのか、規則正しくブロックごとに建物が密集しているように見えた。中でも、町の真ん中にそびえる大きな矢倉が目を引いた。とんがり屋根で、そのすぐしたには広い空間が見える。そこに人は見えなかったものの、おそらくあそこから眺めれば町中見渡せるだろう。

「おそらく船着場は町の奥じゃろうな。このまま町に入って真っ直ぐ行けば着くはずじゃ」

「じゃあひとまず、あの矢倉を目指して歩けばいいな」

 真一はそのまま建物が並ぶ町へと歩み始めた。

 町の中はブロックごとに分かれ、建物は全てレンガ造りで隙間なく並んでいる。日本の家のように瓦屋根のような家ではなく、四角い高い家が立ち並ぶ。歩きながら上を見上げれば、向かい同士の家で紐を繋ぎそこに干した洗濯物が風で揺れている。風が吹いているだけであったが、まるで頭上に川が流れるようにゆらゆらと布がなびいていた。

 真一がふと何かに気づきその方向を見てみると、じっと様子をうかがっている人がいることに気がついた。しかも、開いている窓全てからだった。どの人も髪が紫色で、上半身しか見えないがそれぞれゆったりとした単色の服を着ている。こげ茶色、黒、紺色と様々だ。目を逸らすことなくじっと真一を見ている。

「……すっげぇ視線感じるんだけど」

 ぼそっとした声で真一がしゃべった。浴びる視線が痛いほど伝わっている。ヨウも感じたようで、窓を見上げきょろきょろと頭を動かしていた。

「ぬぅ、やはりシンイチの格好とその荷物が目立つのかもしれんの。あと黒髪もいかんかもしれん」

「黒髪で目立つのかよ」

「ひとまずじゃ。ここは走り抜けた方がいいじゃろ。この道をまっすぐ行けば矢倉が目の前に見える。矢倉を通り過ぎてまた真っ直ぐ行けば船着場に出るはずじゃ」

「……わかった」

 そうつぶやくと、一気に駆け足となり道を走り抜けていく。道ばたにいる人たちからも視線を送られていたが気にすることなくどんどん進んでいく。肩から矢筒とトートバックがずれていくが、なんとか直しつつ進んで行った。進むたびに両腕に響き、卵で打った打ち身が痛む。それでも歯を食いしばり進んだ。

 すると矢倉が目の前に見えた。矢倉の下にはなにやら入り口があり、その入り口の上には看板が掲げられていた。が、それを読む暇も読むことさえできず、そのまま横を通り過ぎた。中から人が出てきて真一を不審そうに見ていたが、それさえも無視して進んだ。

 やがて道が開け、海へと出てきた。そこには大きな船が一隻泊まっていた。その船に列を作り人が次々に船へと乗り込んでいた。真一も迷わずそこへ向かい列の一番後ろへと並んだ。

「ふう、なんとか間に合ったみたいだな」

「そうじゃの。よかったわい」

 と、ヨウと会話をしていたが、前に並んでいる人がそっと真一の方を振り返った。怪訝そうな目つきで真一を眺めたあと、すぐさま正面へと向き直った。

「……シンイチ、わしは他のもんには見えんのんじゃ。じゃから独り言のように見えるようじゃ。余計なことはしゃべらんほうがいいかもしれんぞ」

 真一は黙って頷いた。

 列に並んでいると、やっと真一の番へとなった。船の入り口には警備員らしき人が一人立っている。やはり紫の髪に青いローブを羽織っていた。

「……乗るのか?」

 その男は一目真一を見ると不審そうに眺めてきた。頭の上からつま先までじっくりと見ている。

「あぁ。これ、本島に行くんだろ?」

 そう言って一歩踏み出すと、その男が前を立ち塞いだ。

「待て! ……乗る前に身分を見せろ」

「……身分?」

 思わず首を傾げた。ちらりとヨウを見てみると、しまったとでも言いたげに頭を抱えていた。

「身分がないのなら、お前を通すわけにはいかん! 怪しい奴め!」

 男の目つきが鋭くなった。真一は分けが分からないまま呆然とした。すると、ヨウが頭を抱えながら口を開いた。

「……すっかり忘れとったわい。身分を認めてもらわんと……船に乗ることができん」

「……は? なんだそれ」

 思わず出た言葉に、立ち塞いでいる男の目がますます厳しくなってしまった。


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