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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第七章 アラウ城
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【第六十三話】 再び、対峙

 リオの治療はかなりの時間を要した。重傷を負っていることと、ヨウの体力的な問題もあった。

 治療しては休み、再び治療しては……を繰り返している。その間、この牢屋に使者が一人も来なかったのは、運が良かった、のかもしれない。

「……ど、どうじゃ?」

 そう言うと、ヨウはばったりと寝転がった。短い呼吸を繰り返し、苦しそうな表情を浮かべていた。

「……リオどうだ? もう、ヨウの奴限界みたいなんだ」

「そうだな……」

 顔や足や腕にあった小さな刺し傷や、切り傷はほとんど見えなくなっていた。だが、火傷や手首の怪我、顔の殴られた跡は治ったとは言い切れず、腫れは引いてはいるが所々青黒い。

 リオは腕や足の状態を手で触りながら確認している。手のひらも握ったり開いたりした。

「……さっきよりだいぶいいさ。これぐらいなら……槍は握ることはできる。わざわざすまないな、シン」

「いやいいんだ。……歩けるか?」

「あぁ……」

 そう言って、リオは膝に手を置きぐっと力を込めて立ち上がった。

 立ち上がると、ぐっと背筋を伸ばしたり肩を回したり首を回したりしている。

「……問題ない」

 すると、先ほど真一から受け取っていた銀の棒を手に取り出っ張りを押した。すぐに刃が伸び、槍となる。

「まぁ大丈夫だろう。ちょっとまだ鈍いかもしれないが戦えるさ」

 すると、倒れていたヨウが頭を少し浮かし、リオの様子をじっと見ている。

 リオは槍を使って、背中の筋を伸ばしたり屈伸をしたりしていた。ヨウはその様子に、安心したのかふぅと息を吐き、再び頭を床につけた。

「……シンイチ、わしは動けん」

「あぁ。無理すんな」

 真一は倒れているヨウを両手で抱え、自らの肩に乗せた。全身の力が抜けているようで、ぐったりと肩に身体を預けている。

「……こりゃ早くライトを見つけて、治療してもらうしかねぇな」

 心なしかヨウの頬がこけている。左腕も力なく、目を凝らして見れば腕全体の色が悪い。ヨウは目を閉じ、ゆっくりとした呼吸を繰り返していた。

「ライトさんだが……」

 ぼそっとリオが呟いた。

「……あの、マスク、という奴に何か弱みでも握られているのかもしれない」

「弱み……だって?」

「あぁ。俺とシンがマスクによって別れさせられたとき、ライトさんに逃げるように促したんだが、全く逃げる素振りを見せなかったんだ」

 それとも単純に恐怖で動けなかったのか――今あの時を思い出しても一瞬の出来事で、そこまではわからない。もう少し自分に何かできたのではないか、そう考えると力のなさを痛感し、リオは思わずため息を漏らした。

「とにかく、ライトを見つけることが先決だな。ヨウのこともあるけど、何よりライトが心配だ」

 あの不安そうに眉を八の字にするライトの顔が浮かんだ。今にも震えだしそうな、そんな表情。きっと助けを待っているに違いない。

「そうだな。でも、シンも気をつけろ。ライトさんを捕らえたのも、シンを罠に誘う手段かもしれない」

「わかってる。……にしても、今の間誰も来なかったな。逆に気味が悪りぃぜ」

「……ここに来る気配もないな。まぁ、進もうシン。ずっとここにいても仕方ないさ」


 リオが忍び足で、少しだけ頭を出し地上の様子を伺う。鋭い視線で四方を確認し、ゆっくりと歩みを進めた。

 二人は再びアラウ城一階ロビーへと出た。階段の裏にあった隠し床から出てきた二人は、その床を元に戻し、再び周りの様子を伺う。

「人の気配を感じない。……にしても広い城だ」

 二人は入口正面の大きな昇り階段の前に来た。

「警備する奴がいてもおかしくないのにな。リオ、どこから行く?」

 目の前に昇り階段。だが、その横には左右らせん階段があり、それぞれ別のフロアへと繋がっている。フロアにはそれぞれドアがあり、どれが正しい道なのかわからない。

「やはり正面から行くか」

 リオの表情は険しい。というのも、先ほどから人の気配がまるでなかった。一国の城であるのにも関わらず、警備の姿もなければ物音ひとつしない。

 ドアの一つ一つを睨みつけ、いつ出てきても良いように槍を握り締める。

「だな。一つずつ潰していくしかねぇな」

 そう言って、真一が階段を上ろうとした時だった。


「ハギノ。その先にライト様はいらっしゃらないぞ」


 二人は一斉に振り向いた。

「ようこそ。アラウ城へ」

 そこには冷ややかに笑みを浮かべるマスクの姿があった。

「マスク!」

 いつの前にか背後を取っていたマスクに驚きつつも、二人は身構える。リオは刃先を向け、真一は袋の触媒を握り締めた。

 一方でマスクは大きくため息を吐いた。

「……ハギノ、なんと愚かだ」

「何?」

 マスクは白い仮面に手を添え、真一とリオの周りをゆっくりと歩き始める。

「ライト様の願いであの時逃したのだ。なぜ、その意思を汲み取らない」

「……ライトはどこだ」

 鋭く真一は睨みつける。が、マスクの歩みは止まらない。

「加えて、エルモ人まで逃亡させるとは。……まこと愚かだ」

 ふっと嘲笑する。

「罪人を脱走させたほう助だ。自ら罪を犯すとは。呆れてものも言えぬ。だが……これでライト様に良い理由ができた」

「ライトはどこだ!」

 真一の叫び声に、ようやくマスクの足が止まる。先ほどの位置よりも、丁度真一たちの真横の位置だ。

 マスクは真一たちに冷たい視線を送りながら、ゆっくりと白い仮面に手をかける。

「ライト様はこの城にいらっしゃる。だがもう関係ない。……エルモ人。我が兵士たちの歓迎はいかがだったかな?」

「くだらん。さっさとライトさんの居場所を吐け」

「ふふ。見栄を張るな、傷は癒えても痛みはあるのだろう?」

 にやりと笑みを見せたマスクに、リオはチッと唾を吐いた。

 すると、マスクは白い仮面を外した。すぐに、そこから黒い影が飛び出てくる。その影は、真一たちを挟んでマスクの反対側の空中に行き、漆黒の羽根を広げた。――トグである。

 トグはじっと真一の姿を見たあと、ふっと鼻で笑う。

「ヨウの声がしないと思えば、寝ているのか。まさかエルモ人に回復魔術でも施したのか」

 トグの声に、うっすらと目を開けるヨウ。

「やかましい。わしは……眠いだけじゃ」

「ふん、まぁいい。お前がその状態の方がやりやすい」

「な、に?」

 トグは手を横に伸ばし、力を込め始める。

 すると間もなく、両手から空間の歪みが広がって行く。それは徐々に丸みを帯び、球体が出来上がる。その周りにはバチバチと電気のようなものも走っていた。

 それは真一にも、リオにも確認ができるほどの激しさだった。身体はマスクに向けつつも、リオも視線をトグの方へ向ける。

「なっ、なんだあれは」

「マスクの使魔だ! あいつが何か魔術を詠唱してる!」

 ――嫌な予感がする。

 トグの魔術を目の当たりにしながら、真一は感じていた。

『その状態の方がやりやすい』

 トグの言葉が引っ掛かった。

 ――単純に戦力が落ちたと見たのか?

 トグを凝視する。今何をしようとしているのか。あの魔術は何をしてくるのか。以前見た、トグの魔術とは違う形態。だが、どこかで見覚えのある魔術。 

 ――まさか。

 そう思った時だった。

「アビシャス!」

 まるで空気の歪みが蛇の頭のように真一たちを襲ってくる。が、真一は咄嗟の判断をしていた。

 真一はすぐ横にいたリオの肩にヨウを乗せる。

「シ、シンイチ? 何を……!」

「リオ、肩にヨウを乗せた! ヨウを連れて逃げてくれ! こいつらの目的はヨウだ!」

 そう言うと、真一は思いっきりリオを大きな昇り階段の方へ両手で押した。

 思わぬ行動にリオの身体が横へふらつく。

 半開きだったヨウの目も、突然のことに驚き見開いた。が、そんな二人の目の前で真一は空間の歪みに飲み込まれる。

「シ……シンイチ!」

 真一は目を開いたまま全く動かなくなった。

 手に握られていた弓が、音を立てて石畳の床に落ちる。

「チッ!」

 ヨウを逃したトグは舌打ちをし、冷たくリオを見下ろす。

「くそ!」

 リオは殺気を感じ、階段を駆け上がる。

「逃すかぁ!」

 トグが片手を背中を向けるリオに向けるが、リオの行動は早かった。目にもとまらぬ速さで駆け上がり、すぐにドアの中へと入って行った。

「……チッ。エルモ人、さすがに逃げ足は早いな。で、どうするんだ」

 トグは顎で真一を差した。マスクは黙ったまま、固まる真一のそばへと近寄る。

「まぁいい。……ハギノ、お前でも良い。少しだけ道が遠回りになるだけだ」

 にやりと笑うマスク。真一は全く動かないが声は聞こえている。

 ――何をするつもりなんだ!

 そんな心の叫びは届くはずもない。

「いいのかエルモ人を追わなくても」

「構わん。あの先は魔術がなければ通れぬ。あのエルモ人、相当可愛がられたようだ。いづれ動かなくなるだろう」

「ヨウは?」

「魔力が回復すればまた動く。その時にあの方を使えば良いだろう」

 頬を緩めるマスクは再び真一へと視線を移す。

「ハギノ、それまで貴様を利用させてもらうぞ」

 真一はトグの強い魔力のせいで、指の一本も動かすことができなかった。抵抗できるはずもなく、マスクとトグによってアラウ城内部へと連れて行かれた。

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