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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第七章 アラウ城
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【第六十一話】 模索

 雨が真一たちを容赦なく濡らしていた。着ていた黒いローブは、雨のせいでずっしりと重くい。真一はローブを脱ぎ、軽く絞った上でトートバックの中にしまい込む。

「……姫」

 一方でヨウは肩の上で、呆然と目の前にそびえ立つ城を見上げていた。

「これがアラウ城なんだな」

「そうじゃよ……ようやく……戻って来たんじゃ」

 雨のせいなのか、薄らとヨウの瞳が潤んでいるように見えた。嬉しそうな表情というよりもどこか悲しげな表情に、真一はそれ以上の言葉をかけず再び城を見上げた。

 真っ白の城である。白い頑丈そうな石材でできた城は、今まで見てきた統治者たちの城よりも大きい。真一たちがいるのは、森を抜けた所にある、城へ行くための橋の手前だった。

「……森の中に湖があって、そこに島があるなんてな。……変な山だな、ここは」

「この湖が最終的な防衛となっておるんじゃよ。いつもは橋は下がってはおらん。……下がっておるのは、そこにある建物の主が城へ行っておるためじゃろう……」

 そう言って、ヨウは視線を横へと逸らし再び森の中へと移す。真一も釣られてヨウの見る方向を見ると――。

「……なんだあれ。誰か住んでんのか?」

 アラウ城とは対照的な黒い城が立っている。城、と言ってもアラウ城ほどの大きさではなく、統治者たちぐらいの城の大きさである。それでも、背の高い木から少し出るぐらい建物自体は高い。

 だが、そこに人の気配は感じられなかった。扉は固く閉じており、城の窓から光は一切漏れていない。

「昔はおった。じゃが、今はもうおらん。そやつらは、アラウ城へ住んでおる」

「……まさか、あいつらか」

「そうじゃよ。ダック公爵とマスクらじゃ」

 見れば、扉の横に立っている立て看板に何か文字らしきものが書かれている。

「ダック公爵は国王の出資者じゃったからな。いつでも城へ行き来できおった。……国王はあやつを信頼しきっておった……それをわしらが止めておればこんなことには……」

 ぐっと唇を噛み締めるヨウに、真一はかける言葉が思いつかなかった。だが、後悔するだけでは始まらない、それだけはわかっていた。

「……まだ間に合うだろ。やっと俺たちはここまで来れたんだ。……てか」

 降りしきる雨の中、真一は空を見上げた。真っ黒な雲に覆われた空。

「ピィはどこに行っちまったんだ……? まさか、もう……」

「心配するでない。ひよこは一時的に消えてしまっただけ。またわしの血とシンイチの詠唱があれば、短い時間ながら召喚はできる。……よくアラウ城までもったもんじゃ」

「そうか。……ほんと、ピィには助けられてばっかりだ。ここからは……俺らでやってくしかねぇな」

 強い眼差しで、再びアラウ城を見据えた。暗闇の中、降りしきる雨でも城ははっきりと見える。

「そうじゃよ……そのためにわしらはここまでやって来たんじゃ。じゃが、無理はするなよ」

「その言葉、そのまま返すぜ」

 ふっと互いに頬を緩めると、真一は歩を進め始めた。


 橋は頑丈な石畳である。本当に山の中なのか、と疑問を抱くような横幅の広い長い橋だった。暗闇の中に見える城の入口に、兵士の姿は見えない。

「……おかしいの」

 思わず真一の足も止まる。

「……何がおかしいんだ?」

「兵士の姿がない。前はおったはずじゃが……」

「嫌なこと言うなよ」

「……もしかすると、ダック公爵が兵士らを捕らえておるのかもしれん」

 橋を慎重に歩いて行く。

「牢獄とか、城の中にあるのか? それとも使魔たちがいたような感じで離れた場所にあるのか?」

 視線を前に向けたまま真一が尋ねた。

「わしの記憶通りならば、地下に牢獄はある。……わしがおった場所は最近できたものじゃろう」

「じゃあ……そこにリオがいる可能性があるな」

 そういうとトートバックの中から、銀色の棒――リオの武器を取り出した。

「リオ……絶対に助け出す……!」

 最後に見た姿が目に浮かんだ。リオはエルモ人で、アラウ国の中心となるこの城に囚われている。敵対する兵士を捕らえてすることなど、真一にも容易に想像できた。

「……エルモ人も囚われておるのか……無事じゃとええんじゃが……」

 真一はリオの武器を胴着の懐にしまい、足早に橋を進んで行った。


 橋の先端に辿りつくと、目の前に大きな扉が立ちはだかった。真一の身長の何倍もの高さもある扉で、閉まっていれば一人で開けることはできない。だが、招き入れるかの如く、一人分の隙間が開いていた。

「……入れ、ということかの? まるでわしらが来るのを知っておるかのようじゃの……」

「来るもの拒まずってか。……とにかく、先にリオだ。あいつの身が心配だ」

 扉の隙間からじっと中を伺う。

 人がいる気配はない。静かで物音も聞こえない。どうやら待ち伏せ、という風でもなかった。

「シンイチ、気をつけるんじゃよ。わしらが捕まれば、エルモ人もライトも、姫も国も全て駄目になってしまうからの」

 ヨウの言葉に耳を傾けつつ、忍び足でゆっくりと城の中へと身体を滑り込ませる。中は薄暗い。城の中も石畳になっており、真正面に大きな昇り階段が見えた。横にもいくつからせん階段が見える。また扉がいくつもあった。

 息を殺し周りを見渡してみるが、やはりどこにも人影はない。

「牢屋は城の地下にある。ほれ、そこの……」

 そう言ってヨウが指差した先には、らせん階段の方だった。真一は言われるがまま、その方向に歩いて行く。

 その場所に来たものの、降りる階段はなかった。

「……何もねぇじゃねぇか」

「良く見てみぃ。その床の所……取っ手があるじゃろう」

 目を細めじっと床を眺める。かがみ、手を床に這わせながら確かめると――。

「……あった」

 何かの窪みのような所に指先が入った。ずっしりと重く感じられたが、歯を食いしばり足を踏ん張る。ぐっと力を込め、引っ張り上げた。

 埃っぽい空気が辺りを漂う。開けられたその階段に、点々を灯りのようなものが見える。

「ここが牢屋じゃよ。おそらく……ここにエルモ人がおる。気をつけろ、シンイチ。相手はどこから来るかわからんぞ」

「んなことわかってら。お前こそ、気をつけろよ」

 重い空気が漂う階段を、静かに下って行く。石畳の階段と、一人分の横幅の狭い階段。自然と二人とも黙りこんでいた。不規則に並ぶ灯りがゆらゆらと揺れ、ほのかに足元を照らす。

 数分の間階段を下り続けると――降りる階段はなくなり一本の細い廊下に出た。

 空気が重い。湿っているのか、じめじめと肌にまとわりつく感じがした。また、先ほどの階段よりも、暗闇を照らす灯りがほどんどない。階段を下りた目の前の壁、そして、廊下の一番奥と思われる所の壁にもう一つあるだけだった。

 真一は壁に手を添える。そうしなければ自分がどこにいるのかさえ、わからなくなりそうだった。ましてや、いつ兵士たちが姿を現すかもわからない。暗闇と極度の緊張で、気を張っていないと倒れてしまいそうだった。足が自然と震えていた。

「……シンイチ大丈夫じゃ。わしがおる」

 小さな、小さな声が耳元で囁いた。はっきりと確認できなかったが、真一にはヨウが笑っているように思えた。

 真一は目を閉じ、大きく息を吸い込み大きく吐き出す。そして――再び目を開く。変わらない暗闇が広がっている。

 だが、一人ではない。ぎゅっと弓を握り締め、廊下を一歩踏み出した。

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