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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第六章 クフィロン山
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―狭まる光―

 黒い雲が空全体を覆っている。夜の暗闇の中、空では時折稲光が走っている。ゴロゴロと音を響かせながら、雨は窓を激しく打ち付けていた。

「……せっかく目が治ったというのに、見える世界が暗くて残念ですか?」

 ふっと鼻で笑いながら、男は静かに立ち上がった。

「きっと朝になれば雨も止むでしょう。……まぁ確証はありませんが」

 ゆっくりと近づいてくる男を、ライトは反射する窓越しから確認できていた。

 だが逃げようにも、もう逃げられない。

 気づかれない程度に、なんとか震えを抑えている。気を抜いてしまえば、今にも倒れそうなほどだった。

「何かおっしゃたらどうですか」

 そう言って、男の手が肩に触れた。思わずびくっと身体を揺らす。

「……何もしませんよ。ライト様」

 そう言って男――マスクは、唇の端をにやりと持ち上げ笑った。

 一方で、ライトは顔を俯かせたまま動こうとしない。だが、肩が小さく震えていた。

「何を言っても信じていただけないですね。……とりあえず、こちらに座ってください。立ったままでは疲れますよ」

 そう言うとマスクはライトの腕を掴み、そのまま椅子まで連れて行き座らせた。そして、自分も真正面の椅子に腰かけじっとライトを見つめる。

 だが、ライトはマスクを見ようともしない。視線を落したまま、暗い表情のままだった。

「……二人が心配ですか」

 思わずライトは眉をひそめた。そして、ゆっくりと視線をマスクへと向ける。

 目を潤ませ、何かに怯えるような眼差しだった。

「ほ、本当に……二人は無事なんですか」

 マスクはふっと鼻で笑って見せた。

「……ライト様は私を信用する気はないようですね」

「……」

「ハギノは道を塞いだ以降、私が直接手を下したことはありません。エルモ人に関しては、ライト様が口出しすべきことではないでしょう」

「……で、では……ヨウさん……ヨウさんをどこへ連れて行ったのですか」

 潤んだ目でじっとマスクを見据えた。片目の冷たい視線に射抜かれそうになるも、ライトは決して目を逸らさなかった。

 マスクに目を治療される前、近くにヨウの存在を感じていた。だが、目を開けてみるとそこにヨウの姿はなかった。視力が戻ってから、ずっとこの部屋にいる。ヨウのことを確かめようにも、マスクの監視のため動くことさえもできない。

「ライト様には関係のないことだ」

 だが、マスクは冷たく言い放つ。

「貴方は、目の治療と引き換えにあれを私に渡したのです。それから私がどう扱うか――そんなこと、貴方には関係のないことだ。交換条件は成立している、そうでしょう?」

「そ、それは……」

 ふっとマスクが鼻で笑って見せる。

「……貴方の目は治った。それとも、また再び闇の世界へと戻りたい、とでも?」

 ライトは思わず眉をひそめ、視線を落とした。その様子に満足でもしたのか、にやりとマスクは笑って見せた。

「ふふ、正直な方だ。……心配されなくとも、私はそのようなことはいたしません。ただ、ライト様にはしばらくこの部屋の中にいてもらわなくてはならないのです」

 そう言うと、マスクは立ち上がり部屋のドアの方へと進んでいく。

「ど、どうして?」

「色々と事情があるのです。それに……」

 ドアに手をかける。と同時に、白い仮面をライトへと向けた。

「いえ、何でもありません。……ライト様、少しの間ここで待っていてください。また参ります」

 微かに口の端を持ち上げにやりと笑って見せた後、マスクはそのまま部屋の外へと出て行った。ドアが閉まると同時に、鍵がかかる音がした。

 それを耳で確かめた瞬間、がっくりとライトは机の上にひれ伏した。どっと疲れが身体に重くのしかかる。

「……皆さん……ごめんなさい、ごめんなさい……」

 虫の鳴くような声は、窓を叩く雨音にかき消された。瞑る目からは自然と涙が溢れ出ていた。

 目を閉じると暗い世界が広がる。誰もいない、何もない真っ暗闇の世界。

 耐えきれず目を開けた。――だが、目を開けたところで誰もいない。ただ、打ちつける雨が一定のリズムで窓を揺らしていた。

「……シンイチさんに会いたい」

 何も見えない窓の暗闇に、ぽつりと言葉を漏らした。そして再び目を閉じ涙を静かに流した。


    ◇    ◇


 マスクは迷っていた。

 自分でもどうしてこんな行動をとったのか、整理できないでいた。

 主への部屋に続く廊下を歩きながら、必死に考えを巡らせていた。

「面倒なことになった」

 足元を見ながら歩いていたが、聞き慣れた声に顔を上げた。

「……どうした」

 見れば小さく舌打ちをし、半ば睨みつけているトグがいた。

「ヨウがいない。縄も牢屋もぶち壊されている。他に捕まっている使魔どもに話を聞こうにも、皆意識を失ってしまっている。……どうする?」

「どうするも何も探すしかないだろう。……ダック様に報告するか」

「怒り心頭のダックの姿が目に浮かぶ」

 ふっと鼻で笑うトグをよそに、マスクは白い仮面を取った。すると黒い穴の中に、トグは入っていった。

「……だが、トグ。一つこれだけは報告するな」

 呆然と床に視線を落としつつ、マスクが言葉を漏らした。

「ライト様がこの城にいる、ということ。これだけはダック様には言うな。いいな?」

「……えらく気に入っているようだな。まぁ別にいい。俺には関係ない」

 トグのその言葉を聞き入りながら、ゆっくりと一歩を踏み出した。

 マスク自身、どうしてライトの治療をしたのかわからないでいた。禁術をすればダックの怒りを買うこともわかっていた。それでも治療をしたのだ。

「気に入っている……?」

 見開いたライトの目。だが、それはマスクの予想とは違うものだった。

「あの方は、俺とは違う。だから俺は知りたいのだ」

「……意味がわからない。勝手にしろ」

 それ以上マスクは口を開くことなく、黙々と主の部屋へと足を進めた。


    ◇    ◇


 いつの間にか意識を失っていた。薄らと目を開け、おぼろげに見える風景をぼうっと眺める。

 見覚えのない部屋。ずらりと並ぶ書籍。その前にあるのは大きな机と椅子。

 目をこすろうと手を動かそうとする――が、動かない。

 見ると、座る椅子に手を縛られていた。ぐっと力を入れようにも、なかなか力が入らず縄が身体に食い込むばかりだった。足も椅子に縛られているようで、身動きがとれない。

「お目覚めですね、イッチ姫」

 嫌な声。思わず足掻くのをやめた。声の主など容易に想像できた。

「一体……一体何の真似ですか! 離しなさい、ダック公爵!」

「そんなに暴れても意味のないことですよ」

 嘲笑うかのように、ゆっくりとした足音が聞こえる。イッチ姫は顔を向けようとするものの、なかなか振りむけない。なんとか縄をほどこうと必死に抵抗をする姫に、ダック公爵は続けて言葉を放った。

「無駄なことはおやめなさい」

 ダック公爵はイッチ姫の横を通り過ぎ、そのまま机の椅子に腰かけた。

 白髪の窪んだ眼。傍らに先端に赤い宝石のついた杖を立て掛けた。真っ黒のローブと薄暗い部屋が一体化しているようにも見えた。

 公爵はイッチ姫をじっと見つめる。にやりと口の端を持ち上げる顔に、姫は思わず目を背けた。

「国王は体調を崩され、今やこの国はどうなるかわからない状況だ。導くはずのお方がいなくなれば、まとまるものもまとまらなくなるかもしれません」

「……父上は健在です」

「今、この国が求めているものは新しい指導者ですよ。そこで貴方だ。娘である、イッチ姫。貴方がこの先、この国を導いて行くお人なのですよ」

 キッとアラウ国王を睨みつける。

「貴方は何を企んでいるのですか!」

「私が貴方の意思と身体を乗っ取り、この国を手中に収めたいのです」

 その言葉に一気に姫の表情が曇る。意味がわからず姫は視線を逸らし、目を泳がせる。

 だが、ある考えが頭をよぎり視線が止まった。

「……ま、まさか」

 自然と声が震える。これまでの身体の変調と公爵が放った言葉が、否応なく結びついた。

「急に意識が飛んでしまったり……身に覚えのない場所で目覚めていたのは……」

「やっとお気づきになられましたか? 案外にぶい方なのですねぇ」

 にやりと公爵は口元を歪める。

「すでに、貴方の身体と意思は私のものになっているのですよ」

 その言葉と同時に、再び姫の意識が遠のいて行った。

おまたせしてしまい、申し訳ございません。


もう読者の方は去ってしまったかもしれませんが、マイペースで更新していきたいと思います。

というか、話がずれてしまうのではないかと若干心配気味。

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