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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第一章 イダワ島
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【第六話】 パラッグの木

 背が高い木々が日差しを遮って、少し涼しい風が吹きぬけている。幹がぐるぐると巻いた木があったり、蔓ばかりの木が絡まるように空を覆っていたりと地球とは少し違う森だった。先ほどまで岩場だった足元とは打って変わり、森の中はこげ茶色の地面が一面に広がっている。何もなく平坦な地面をきょろきょろと頭を動かしつつ、歩を進めていた。

「そのパラッグの木って言うのは、どんな木なんだよ」

 卵が生る木。どう想像できるだろうか。ひとまず卵がついていないかどうかだけを注意深く見ていた。

「大きな木じゃよ。人三人分ぐらいの幹かの。じゃから……見たらすぐにわかるはずなんじゃ」

「へぇ。でかくて太い木ね」

 一つ一つの木を注意深く見るために、ゆっくりと進んでいく。しかし、どれも背は高いが幹は細く、人三人分もの太さではなかった。ひょろっとした木々が少し隙間を空けては生え、空けては生え、森を進んでいくには支障はなかった。しかし、歩いても歩いても何本も木を見ても一向に見つからない。変わらない風景に同じ所をぐるぐると回っているのかと思い始めた。

 黙々と探していたが、ついに真一が口を開いた。

「本当にあるのかよ。それに、同じ所歩いてないか?」

「そんなことはない。森は広いから仕方ないんじゃ。イダワ島の半分は森じゃからな」

「……迷ったらどうすんだよ」

「大丈夫じゃ。その時はわしが上空に上がって町がどの方向か教えてやるわい。……お?」

 ヨウの目が何かを見つけ、そのまま動かなくなった。そのまま頬が緩んでいき嬉しそうな顔へとなっていく。

「あった! あれじゃ! あれがパラッグの木じゃ!」

 バシバシと興奮気味に肩を叩かれた真一も、足早にその方向へと歩を進めていく。細い木々の合間に何か雰囲気の違う幹が見え隠れしている。卵が生る木とは、一体どんな木なのか。近づくにつれ自然と胸が高鳴り、好奇心がどんどんと膨らんでいく。進む足も速くなった。

 そして、少し息を切らしながら着いた場所は、少し広い円形の開けた原っぱだった。ここだけ小さな草が生えている。そしてその真ん中に堂々と、見上げるほど太く大きな木が立ち誇っていた。この原っぱに覆いかぶさるように濃い緑の葉っぱを広げ、太い幹は辺りにある木とは比べものにならないくらいの頑丈さが見て取れた。近くに寄って幹にそっと手を当てると、ごつごつとした幹から何か温かさを感じたような気がした。

「……本当に大きいな。これがパラッグの木か」

「そうじゃ。……あ、ほれ、あそこ。お、あそこにも。卵がついておるじゃろ」

 見上げてみれば、白い卵――サッカーボールほどの大きさの卵があちこちにぶら下がっていた。卵なのか木の実なのか、見上げただけではよくわからなかったが、白いので殻なのだと思った。濃い緑に白い卵は異様なほど目立っている。

「なんか……変だろ。卵ってもっと小さいのかと思ってたのに……なんだあのでかさは」

「まぁ卵と言っても、地球で言う木の実と一緒じゃ。皮は殻のように硬い。……わしが一つ取ってきてやろう」

 そう言うと羽根を羽ばたかせ、どんどんと舞い上がっていく。十メートルほど舞い上がった所に卵がある。卵とヨウが並ぶとほぼ同じ大きさだった。そんな大きな卵を一生懸命もぎ取ろうとしている。すると、遠い声でヨウが叫んだ。

「ぐうぅ……! よし、落とすぞぉシンイチ!」

「え。ちょ、ちょっまっ!」

 慌てる真一の声も空しく、ヨウはもぎ取った卵を真一目掛けて落とした。卵はブゥンと言う音を鳴らしながら落ちてくる。避ける暇もなく、覚悟を決め腕を差し出し卵を受け取った。

"バキッ"

「いっ……いってえぇぇ!」

 嫌な音と同時に真一の顔が歪んだ。そのまま膝から崩れ、痛さを堪えるように体を埋めた。

 細かく震える腕からサッカーボールほどの大きさがある卵が転げ落ちた。受け止めたおかげなのか無傷だった。が、受け取った真一は体をうずくまったまま動かない。

 ようやく顔だけを上げ、ヨウを睨みつけながら叫んだ。

「ばっ……馬鹿かお前! そんな高さから硬い卵落としたら危険だってわかるだろーが! くそ……いってぇ」

 悲痛な表情を浮かべまた顔を俯かせ、痛みを堪えている。そんな様子にヨウは上からゆっくりと降下しながら、誤魔化すように笑った。

「はは……すまんの。重くてとても持てんかったんじゃ」

「だったら取りに行くなよ!」

 よほど痛いのか立とうともしない。真一の元へ戻るとそっと腕を見た。

 真っ青になっていた。丁度卵の大きさぐらいの青あざが両腕にある。

「うわ……。こ、こりゃ悪いことをしたの」

「ったりまえだろうが! めちゃくちゃいてぇよ!」

 するとヨウは、その真っ青になっている両腕にそっと小さな手を当てた。

「大丈夫じゃ。わしが治してやる。……多少痛みは残るかもしれんが」

 そう言うとヨウの両手に淡く青い光が帯び始めた。その青い光が真一の腕の部分を包み込む。覆われた腕の部分は少しだけ冷たく感じた。動かせないほどの激しい痛みだったが、少しずつ痛みが和らいでいく。青い光越しに見える真っ青な打ち身は、どんどんと小さくなっていた。

「……痛みが和らいできた。……動かせる」

 ゆっくりと手のひらを握ったり開いたりして見せた。

「……そうか。ならよかった」

 そう言うとヨウは当てていた手を下ろした。すると、青い光もすぅと消えていった。ヨウは一息つきながら、おでこの汗を拭った。

「今何したんだよ。ちょっとまだ疼くけど、さっきよりだいぶマシになってんだけど」

「……え? あぁ。回復魔術をしたんじゃよ。はぁしかし、疲れるの。わしは得意じゃないし、魔力も少ない。どっと疲れたわい」

 そう言うとぐったりとした様子で真一の肩にしがみ付いた。

「回復魔術……? さっきお前、召喚魔術だって言わなかったか? 魔術って言うのは四つ全部できるもんなのか?」

「いいや、できん。魔術は己の中にある"魔元素(まげんそ)"と言われる魔力の成分みたいなものの数によって、どの魔術が扱えるのか決まるんじゃ」

「魔元素? なんだそれ」

 真一は首を傾げた。ヨウは大きく息を吐いてから、咳払いをした。

「……魔元素というのは魔力の源みたいなものじゃ。魔力の強さは、この魔元素をどれほど溜め込むことができるかによって変わる。多ければ多いほどそやつは魔力が強いということじゃ。で、魔元素は炎魔(えんま)元素、水魔(すいま)元素、雷魔(らいま)元素、土魔(どま)元素の四つ種類がある。アラウの人間にはどれか一つが多く備わっておる。何が多く備わっておるかは、人それぞれで違う。で、先ほど説明した移動魔術、回復魔術、自衛魔術、召喚魔術はそのどの魔元素が多く備わっているかで、扱える魔術が変わってくるんじゃよ」

「……よくわかんねぇな。変わるって、例えば?」

「炎魔元素を多く備えておるなら自衛魔術が扱える。水魔元素なら回復魔術。雷魔元素なら移動魔術。土魔元素なら召喚魔術じゃ。シンイチは何もない状態じゃったから、わしの影響を受けて土魔元素を取り入れ召喚魔術を扱うことになったんじゃ」

 ヨウの説明に黙って頷いている真一だったが、ぴたりと止まって難しい顔へとなった。

「……待て。それって要するにお前は土魔多く備えてるから召喚魔術なんだよな」

「そうじゃよ」

「じゃあ何で、異空間移動したり道場を元に戻したり、今みたいな治療もできるんだよ。それって移動魔術とか回復魔術じゃねぇの?」

「ふふ、よく気がついたの。まぁ歩きながらでも説明してやる。随分遠くまで来たからの、そろそろ動かねば暗ろうなってしまう」

 座っていた真一はその言葉にゆっくりと立ち上がった。と、足元に大きな卵が転がっている。近くで見るとより大きく見えた。真っ白の殻かと思っていたが、近くで見ると水玉模様の柄が入っていた。気のせいか、その水玉模様の部分がほのかに黒い気がした。

「おっと、せっかく見つけて取ったパラッグの卵じゃ。忘れんようにな。ふふ楽しみじゃの」

 真一は腰を折りパラッグの卵をゆっくりと手に取った。腕を動かせるようになったが、やはり痛むのか動きが恐々しい。歯を食いしばりながら卵をトートバックの中へと入れた。

「くそ、やっぱしまだいてぇ。……これ、何かの役にでも立つのかよ」

「それも後から説明してやる。ほれ、あっちじゃ。行くぞ」

 しがみ付いたままヨウは指を差した。その方向には木しか見えなかったが町を指しているらしい。

「……歩くのは俺だけどな」

 ヨウを見て思わずため息が漏れた。

 真一は右手には弓を持ち、右肩からは卵入りのトートバックと矢筒を提げ、左肩にはヨウがしがみ付いている。ぐっと背筋を伸ばし、ヨウの指差す方向へと歩き始めた。


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