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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第六章 クフィロン山
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【第五十三話】 暗闇に現る青き人

「……やっぱり先に行ったんだろうなぁ」

 困り顔で真一は目の前にそびえる山を見上げた。

 すっかり陽も落ち、暗闇が草原を支配している。風が草を揺らし、さわさわと風が流れる音が静かに響いていた。そんな中、真一は一人、ぽつんと立ちつくしている。

 二人を探すため、町の外をぐるりと見て回ったもののそれらしい姿はなかった。ため息をつきながら、仕方なく城下町オディの近くにそびえる山へと足を進めたのだった。

「確か……この山の上にアラウ城があるんだったっけな」

 山の途中には雲がかかり、どれぐらいの高さなのか確認できなかった。暗闇にそびえる黒い山は、高い高い壁のようにも見える。こんな険しい道を進まなければいけない――そう思うと自然とため息が漏れていた。

 しかし、二人がいない今、考えられる理由は先に進んでいることぐらいしかなかった。真一は重い足取りで山へと近づいて行った。


 町から伸びる道を進んでいく。山に近づいていくが、行きついた場所は大きな口を開けた洞窟だった。中は真っ暗で何も見えない。思わず唾を呑む真一だったが、ふと何かが視界に入り視線を落とした。

「……文字?」

 身体を屈ませ、その看板らしきものをじっと見つめる。蛇のような文字が長文となっていた。じっと眺めても読めるはずもない。首を傾げつつも立ち上がると、真っ暗な洞窟に向かい歩を進める。――しかし。

「って!」

 洞窟に入ろうとした矢先、突然何かにぶつかった。強打した頭を摩りつつ、再び目の前の洞窟を眺める。――だが、目の前には何もない。では一体何にぶつかったのか。不審に思い、恐る恐る手を伸ばしていく。

「な、何だこれ」

 手に感触があった。平らな板のようなもの。真一はゆっくりと確かめるように、手のひらを動かしていく。凹凸のないその壁は、洞窟の入り口全体を塞いでいるようだった。

 試しにその壁を強く叩いてみた。だが、鈍い音だけが響くだけでそれ自体はびくともしない。壊れていくような感触もなく、ただ暗闇が永遠と続いているだけだった。この暗闇が壁のためなのか、それとも洞窟の中なのか、それさえも判別がつかない。

 真一は歯を食いしばりながら、強く頭を掻いた。目の前に入口らしきものがある。だが、塞がれている。では、一体どうすればいいのか――相談しようにも相手がいない。焦る気持ちと募る孤独感に、頭を掻く手が自然と小さく震えていた。

「……どうすりゃいいんだ。落ち着け……落ち着け……」

 手を止め、今までのことを思い出していく。――きっとヒントは今までの中に隠されている、そう真一は直感した。

 そして――ある話を思い出す。

『城は警備が厳しくて、軍に関わっていない一般人が入るためには、統治者たちから証をもらわなければいけないのよ。そのまま行ったとしても、追い返されるか自衛魔術に阻まれるわ』

 目を見開いた。そして、慌てた様子でトートバックの中に手を突っ込んだ。

「証か……!」

 掴んだのは、水色の証だった。じっと見つめる真一だったが、これをどう活用して良いのかわからない。思案していたが、前にガナオンを召喚したことを思い出した。そこで、祈るような形で証をぎゅっと両手に包み込む。そして、シトモンが現れることだけを考えた。

 ――すると、まもなく証が青色に発光し始めた。暗闇の中、突如青い閃光が四方に放たれる。驚いた真一は思わず証を落としてしまった。

 すると、それが何かの合図だったかのように、証から一番激しい青色の光が放たれる。咄嗟に目元を手のひらで覆い隠し、光が治まるのを待った。だが突然、声が耳に飛び込む。

「久しぶりだ」

 聞き覚えのある声に、真一は手を下ろし真正面を見た。青い光は眩しかったが、段々と弱まって行く。

 耐えつつ眺める中姿を現したのは、真紅のローブを着たシトモンだった。黄色の短髪に、おでこには紐に結ばれた水色の宝石が光っている。

「ま、まさか……本当に出てくるなんて」

「……そこの説明書きを読んで召喚したのではないのか」

 その言葉に真一は小さく「えっ」と言葉を漏らし、視線を看板へと下げた。どうやらあの説明書きはそういう内容が書かれていたらしい。

 そんな様子にシトモンはため息を漏らしつつも、ふっと表情を和らげ一歩真一に歩み寄った。

「まぁいい。いづれ召喚されるだろうとは思っていた。……所で、君一人か?」

 びくっとする真一。一方、誰かを探すかのように周りの見渡すシトモン。和らげていた表情は、段々と険しさを増していく。そして眉をしかめ、じろっと真一を見下ろした。

「ライトが来ているだろう? 私が知らないとでも思っているのか。どこだ?」

「その、実は……はぐれてしまって」

 シトモンの眉がピクッと動く。

「……はぐれた、だと?」

 その言葉と同時に真一の胸倉を乱暴に掴んだ。それに対し、真一は顔を背けたまま抵抗しない。

「どういうことだ? あの子が盲目であることは知っているだろう。それを知った上で、放って置いたというのか!」

「ちっ違いますよ! ライトは使魔と一緒にいたんです! それが……戻ってみたら二人とも姿がなかった。町にもいねぇし、先に進んでるんじゃないかと思って、俺一人でここまで来たんです」

 険しい表情を崩さぬまま、シトモンゆっくりと掴んでいた手のひらを開放した。何か思案するかのように、視線を下げ黙り込んでいる。真一は着衣の乱れを直しつつ、シトモンの言葉を待った。確かに、二人とはぐれてしまった責任は真一にもある。どんな言葉も真摯に受け止めるつもりでいた。だが、シトモンから出てきた言葉は予想外のものだった。

「……嫌な予感がする。町にもいない……? 確かにそうなれば、先に進んでいる可能性もあるが……。はたして、ライトにこの自衛魔術を解く魔力があるだろうか?」

「……どういうことですか」

 真一の眼差しに、シトモンはゆっくりと真っ暗な洞窟を見据えた。

 何もない、黒い壁。そっと手を伸ばし触れて見せる。やはり何かあるようで、ぴったりと手のひらが伸ばされていた。

「これは特別な魔術だ。私たちが保有しているこの石と、特別な詠唱で初めてこの魔術は解かれる。私はライトに石を与えた覚えもないし、詠唱も教えた覚えはない」

「じゃ、じゃあ……」

「さらわれた可能性もある、ということだろう」

 思わぬ言葉に、一瞬言葉を失い呆然とする真一だったが、すぐさま苦笑いを浮かべた。

「そ、それはありえないですよ……だって使魔も一緒だったんだ。シトモンさんは見えないからわからねぇかもしれねぇ。けど、あいつは俺より魔力も魔術も上なんだ。それに、ライトを放ってどこかへ行くなんて……あいつは絶対そんな奴じゃねぇ……!」

 真一の言葉と真っ直ぐな目を、シトモンは険しい表情のまま眺めていた。だが、真一の姿に心が折れたのか、長いため息を漏らすとふっと表情を緩めた。

「君がそこまで言うなら……信用できる使魔なのであろう。心配ではあるが……先を急いで方がよさそうだ」

 そう言うとシトモンは壁に両手をついた。そして、目を閉じ何かを詠唱し始めた。

 ぶつぶつと囁く言葉を真一は聞きとることができなかった。何を言っているのかまったくわからない。呆然と眺めていると、シトモンのおでこにあった水色の宝石が急に輝き始めたのだ。

 暗闇に光る青い光。あまりの眩しさに目を細めながらも、シトモンから目を離さなかった。そして――シトモンは勢いよく目を開いた。

「はあああっ!」

 ざぁっと山全体が揺れたような気がした。塞いでいた黒い壁はその姿をなくし、現れたのは一定の間隔で灯りがともる通路だった。薄暗いその道は軽い傾斜になっている。

「……私の役目はここまでだ。ライトのこと頼んだぞ。何かあったら……その時はいいな?」

「は、はい……」

 顔を引きつらせながら頷く真一。一方でシトモンの身体が白い光に包まれ始める。驚いた真一が近づこうとするが、それを制止された。

「魔術を解くと元の場所へ戻るのだ。心配しなくていい。それより先を急いでくれ。何かあればまた召喚するといい。私も力になる」

 その言葉を最後に、シトモンの身体は白い光に包まれてしまい、光が治まったころには姿を消してしまっていた。

 残ったのは足元に落ちる青い証。それを拾い上げると、真一は真っ直ぐ通路を睨む。そして、覚悟を決めたようにぎゅっと弓を握り締めると、その通路へと足を踏み入れた。

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