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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第五章 城下町オディ
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【第四十六話】 初戦

 大会当日――町は異様な活気に溢れていた。

 大通りには大弾幕があちこちに掲げられ、文字らしきものがいたるところに躍っている。同じ方向へと進む人の列は大通りを埋め尽くし、人が進む様は川の流れのように見えた。

 がやがやと騒がしい人ごみ中、真一たちも流れに沿って歩いていた。

「……これ、みんな大会に行くのか?」

「当たり前じゃ。祭りじゃからの」

 皆、顔をほころばせ祭りを楽しみにしていたように見える。今日ばかりは真一の荷物を怪訝そうに見てくる者もいない。

「まぁ、早く受付済ませちまおう。……受付終了してたらシャレになんねぇからな」

 流れに沿って進んでいくと、昨日見た窪んだ広場へと出た。

 昨日と打って変わり、階段には人が埋め尽くされている。広場の中央には長い机が並べられ受付をしているらしい。そこにはすでに何人かの人が見えた。

「あれか……間に合ってよかった。じゃあ俺受付済ませてくるから、お前、ライトと一緒に席をとっててくれ」

「わかった。……そういえば、ひよこはどこじゃ?」

「あぁ、ピィなら上空だ。じゃ行ってくる」

 そう言うと真一は階段を足早に降りて行った。それを見届けた後、ヨウはライトの指を握り締める。

「じゃライト、足元に気をつけるんじゃよ。人が多いからわしの声が聞こえにくいかもしれんが、慌てなくても良いからの」

「はい。ありがとうございます」


 真一は緩やかな階段を下り、広場の中央へと行った。見ると、机には昨日見た派遣所の役人が座っている。真一の姿を見るなり手招きをした。

「こっちに来い。お前は昨日の奴だろう」

 覚えていたらしい。真一はその指示に従い、机の前まで移動する。

「丁度よかったな。お前を入れて四人だ。これで受付も終了だ」

 役人は本を開き、何やら書き込もうとしている。覗いてみるとすでに三人の名前が書かれていた。もっとも真一には読めないので、どんな内容かは確認できない。

「お前の名前、パラッグの雛の種類を教えろ」

「俺の名前は萩野真一。パラッグの雛は、召喚の雛」

「……ハギノ、シンイチ。……召喚の雛」

 流れるように文字が書かれる。

「ご苦労。これで受付は終わった。あとは始まるまで適当にくつろいでいろ。始まった時広場に出て、雛を出せばお前の役目は終了だ。あとは雛が勝手に戦って勝敗をつけてくれれば良い」

「……はぁ。どうも」

 そう言うと役人は立ち上がり、すたすたと準備されたテントの中に入ってしまった。

 残された真一も、身体を翻しライトたちの姿を目で追う。すると、上空からヨウが聞こえた。

「おーい、シンイチ。受付が終わったなら、あっちに行くんじゃ。ライトがまっとるぞ」

 ヨウが指差す方向を見ると、ライトが一人きりでぽつんと座っている。何か寂しげな姿に、真一は慌ててその席へと急いで行った。


「わりぃ、待たせちまった」

 人の前を通り過ぎ、ようやくライトの隣へと腰掛けた。冷たい石はひんやりとお尻を冷やす。

「あ……お疲れ様でした。受付、間に会いました?」

「あぁ、なんとか。てか、なんであいつはライトを一人にしてんだ」

 上空を見上げれば、遠く建物の奥の方にヨウが見えた。真一が見ていることに気付いたのか、手を振っている。

「やはり使者のことが気になるとおっしゃっていました。だから少し離れた場所から見られるそうです。何かあればすぐに駆けつけると……」

「まぁ、確かにこれだけ人がいたら気になるよな。ライトも疲れたら言えよ。ここうるさいからな……」

 ライトの隣、真一の隣にも人が隙間なく座っている。広場のどこを見ても空席が見当たらず、皆が今か今かと大会の始まりを待っているようだった。

 すると、広場の中央のテントの中から真紅のローブを着た者が姿を現した。と同時に広場のざわつきが治まる。

「……お待たせした。今からパラッグの雛の大会を始めようと思う」

 拡声器も使っていないのに、男の声は広場に響き渡る。階段に座る人々の視線も自然と男に注がれた。

「今回の大会に参加したパラッグの雛は四匹。自衛の雛、移動の雛、回復の雛、召喚の雛の以上だ。こちらで抽選を行い、今からその対戦を発表する。呼ばれた雛の主は速やかに雛を呼び寄せるように」

 人々が静かにざわめき始める。その声はライトの耳にも届いたようで、そっと手を組んでいた。

 そして、男は紙を見て確認した後すっと視線を上げ口を開ける。

「最初の対戦は、回復の雛と召喚の雛! それぞれ、主は前へ!」

 人々のざわめきが一気に爆発する。

 皆口ぐちに「この対戦はちゃんとした試合になるのか」「今日中に決着がつくのか」など、試合に対する不満が聞こえてきた。もちろん、その声は真一たちにも届いていた。

「シ、シンイチさん……召喚の雛ってピィさんのことですよね?」

「あぁ。……まぁ行ってくる」

「が、頑張ってくださいね!」

 にこっと真一は微笑んだ後、立ち上がりゆっくりと階段を下って行く。下る間、一気に人々の視線が真一へと注がれる。鼻で笑う者やひそひそとしゃべっている者が見えた。しかし、真一は気にすることなく中央の広場へと足を運ぶ。

 そして、空を見上げた。空高く――ピィが翼を広げ優雅に飛んでいるのが見える。真一はそれを見た後、思いっきり指を鳴らした。

「……両者前へ」

 真紅の男は静かに告げた。真一が広場の中央で正面を向くと同時にピィが隣に降り立った。

 しかし――ピィが姿を現した途端、一気に客席から怒号が飛び交い始めた。

「おい、ありゃ第二段階じゃないか!」

「あの男は狂ってるのか?」

「つまらん試合だ、さっさと次の試合を見せろ!」

 いきなりの罵声の嵐に真一は唖然とした表情を浮かべるしかなかった。皆、明らかに苛立ち今にも物が飛んでいきそうな雰囲気である。ピィもその様子をじっと黙ったまま見つめている。

「なっ……何なんだよ! 第二段階だろうがてめぇらには関係ねぇだろ!」

 そう真一が叫ぶが、聞こえるわけもなく罵声は止みそうにない。拳を握り締め肩を震わせる真一だったが、そこへ罵声とは違う声が届いた。

「第二段階の召喚の雛……ね。回復の雛だからってなめてるの?」

 女の声である。しかし、声は明らかに上空から聞こえた。真一は不思議に思い、すぐさま空を見上げた。

 そこに女が二人いた。一人はもう一人の肩に捕まり、真一を冷たく見下ろしている。――どうやら今の発言はこの女らしい。

 だが、もう一人の女の姿にざわついていた客席はあっという間に静まりかえった。

 丈の長い水色のドレス。その布は薄く透けていた。その布自体もキラキラと輝いているように見える。風が吹いているわけでもないのに着ているドレスはなびき、長い袂はふわふわと浮いていた。一見、人間のように見えたが肌が水色で人間とは違う雰囲気がある。目があるもののその目に瞳はなく、口元は微笑んでいるように見える。広場にいるものが、人間ではない生き物だと感じた。

「ま、まさかそいつが……回復の雛、なのか?」

 雛という言葉に似つかない、それはまさしく人間の姿だった。言葉を失い目で追う真一を尻目に、その女二人は静かに広場に降り立つと真っ直ぐ観客を見据えた。

「次の試合が見たいなら、ぐだぐだ言わずさっさと始めてほしいね」

 回復の雛の主と思われる女が、小さく舌打ちをした。回復の雛とは違い、紫の髪は乱れ、着ているローブも清潔感がなく薄汚れている。

 一方で、回復の雛は主の言葉に同調することもなくただ微笑んでいた。

「では……始めようとしよう。両者は勝敗がつくまで、この広場に立ち入ることを禁ずる。それは観客にも言える。また試合を妨害した場合、その者はオディから出て行ってもらう。では……両者、主がこの広場から立ち退き次第試合を始める」

 そう言われ、対戦相手の女はすぐに回れ右をし広場から出て行く。だが真一はまだ動けずにいた。

「……真一さん。ほら、この広場から出ないと」

「あ。わ、わりぃ……回復の雛の姿に驚いちまった」

 視線を再び回復の雛へと向ける。――どう見ても雛には見えない。だがしっかりとこちらに顔を向けている。微笑む顔から殺意は見受けられなかった。

「無理もないです。第三段階になると姿ががらりと変わりますから。……私、頑張りますね」

「おう。応援してるからな。でも無理すんじゃねぇぞ」

 そう告げ、真一は足早にライトが待つ席へと戻って行った。

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