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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第五章 城下町オディ
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【第四十四話】 大会前日―ヨウとピィ―

 茶褐色の翼を羽ばたかせ、綺麗に折りたたむ。ヨウより少し大きな姿で、その羽根は美しく光の具合では光っているように見えた。

 ピィはその黄色の瞳をまん丸と見開き、じっと真一を見上げた。

「何か御用でしょうか?」

 声にライトは一瞬びくっと身体を震わせた。が、ほっと肩を下げ声の主に口元を緩ませる。

「ピィさんこんにちは」

 一方で、振り返ったピィは思わぬ人物の声に思わず羽根を広げた。つかつかと近寄りじっと顔を見上げる。

「ライト様! どうしてこちらにいらっしゃるのですか?」

「……無理を言って、シンイチさんたちと同行させていただいてるんです」

「まぁ。……真一さんと同行できるなんて、私もご一緒させていただきたいです」

 ライトとピィが笑い合っている中、真一はわざとらしく咳払いをした。ピィは顔を真一へと向ける。

「……ピィ。その、冗談じゃなくて、本当に少しの間一緒にいてほしいんだ」

「え?」

 真一はその場で先ほどの派遣所での話を語った。

 パラッグの雛の大会――。そう告げても、ピィは表情も変えず黙って真一の話に耳を傾けている。一方で、ヨウだけが顔をしかめ一人地面に視線を落としていた。

「つまり、私がその大会で優勝すれば、真一さんたちに証がもらえるというわけですね」

「あぁ。……出場してくれるか?」

 そう言って真一の視線がピィに集中している時、ヨウは静かに目線を上げた。眉をしかめ、苦い表情でピィを眺めている。

 ピィも、すぐ横で渋い表情をしているヨウには気づいていた。一人理解しているのだろう、ヨウだけが浮かない顔をしている。何を言いたいのかも、ピィは手に取るようにわかった。が、あえて気付かない振りをし、再び真一へと視線を戻した。

「もちろんです。おまかせください」

 その声に真一もライトもほっとした表情を見せた。しかし、ヨウだけが驚き目を見開く。

「よかった。もう出場するって言ってたからな」

「ふふ。私はいつでも真一さんの味方ですから」

 真一はすぐに召喚本を広げた。ひとまず、この場に留まらせることが先である。すると見ていたピィは知っていたのか、つかつかと近づきページにそっと足を触れた。

 その瞬間召喚本は光を放った。が、すぐに元の状態へと戻る。

「これでまた真一さんの傍にいることができますね。とても嬉しいです」

「あぁ。改めてよろしくな」

 微笑みながら真一は召喚本をポケットの中にしまい込んだ。これでピィはこの場に留まることができる――そう思った時だった。

「ひよこ! お主正気か?」

 といきなりヨウが耳元で叫んだ。と同時に肩から離れピィの真正面に移動する。

「ひよこ! 自分がどういう状態かを知っておるじゃろ? なのに大会に出るじゃと? 大会がどんなものか知らずに出ると言ったんかの!」

「おい、お前いきなり何怒ってんだよ」

 振り返ったヨウは眉をしかめ、険しい眼差しで真一を見上げた。

「シンイチもじゃぞ! わしは前にパラッグの雛の状態について説明したではないか! なのになんで出場するんじゃ!」

「はぁ? そりゃ証をもらうためじゃねぇか。今更何言ってんだ」

「違う! わしはもっと根本的なことを言っておる! じゃから……」

 言葉が出かけそうになった時、急にピィが嘴でヨウの服を咥えた。そして、そのままの状態で空へ飛び立っていく。

「な、何するんじゃい!」

「お、おい! ピィどこ行くんだよ!」

 手を伸ばすものの届くはずはない。建物の間をすり抜け、一気に建物よりも上空に舞い上がっていた。咥えられたヨウは短い手足をじたばたと動かしている。離せ、やら、下ろせという言葉が降って来た。――すると。

「真一さん、少しヨウを落ち着かせてきますね。夜までには戻りますので、町の外で待ち合わせしましょう」

 そんなピィの声が聞こえたかと思うと、そのまま空から遠くに飛んで行ってしまった。ヨウの叫び声も一緒に遠のいていく。

「……なんだあいつら」

 呆然と空を見上げる真一。ライトも声が聞こえているのか、呆然立ち尽くしている。

「ピ、ピィさんはどちらへ行かれたのでしょうか……」

「わかんねぇ。まぁ、夜には戻るって言ったんだし、そんなに心配することでもねぇだろ。……でも、夜か」

 建物の隙間から見える空はまだ明るい。青空が見え、日差しもまだまだ強かった。夜まで十分時間がありそうである。

 夜に戻るといっても、正確な時間までわからなかった。陽が落ちてすぐ戻るのかもしれないし、落ちても戻らないかもしれない。どこへ向かったのかわからないので、見当もつかなかった。となると、その待ち時間をどうするかという問題となる。

「ライト。これからどうする?」

 見上げていた顔を元に戻し、ライトへと向けた。胸の辺りで手を組んでいる。

「ど、どうするとは……?」

「んー。このまま町の外に出て夜まで待つか、それとも町を散策するか……。あーでも俺の荷物があるからなぁ」

 持っている弓を目を移し、困った様子で頭を掻いた。

 真一よりも背が高い弓は、どこへ行っても目立つ存在である。だからと言って、どこかへ置いて離れると物珍しさから盗まれる可能性も否定できない。

 ――真一はそんな風に考えながら一人唸っていた。すると突然――。

「まっ町を散策したいです!」

 いきなりの大声にびくっと真一は身体を震わせた。見ると、ライトが一歩踏み出し珍しく眉をしかめている。

「い、いきなりどうした?」

「視線なんて気にしません。わ、私……シンイチさんと一緒に町を出歩きたいです!」

 胸に組まれていた腕は側面にぴったりとくっつき、手はぎゅっと握りこぶしを作っていた。気のせいか、ほんのりと頬も赤く染まっている。

 見慣れないどこか必死な姿に驚き、真一は不自然に頷いた。

「いいけど……」

 その瞬間ライトの表情が和らいでいく。しかめていた眉はすぐに解かれ、きつく閉じられた目は力を緩ませる。真一文字に結ばれた口元は口角を上げ、すぐに満面の笑みへと変化する。

 頬を赤く染め嬉しそうに微笑むライト。が、真一は何を喜んでいるのかわからず、不思議そうに首を傾げていた。


    ◇    ◇


 一方で、ヨウを咥えたままピィは町上空を飛んでいる。上空を飛んでいるせいなのか、ピィたちの姿に気づく者は誰もいない。そんな賑やかな町を眼下にしながら、ヨウは不機嫌そうに頬を膨らませていた。

「おい、ひよこ! わしを一体どこまで連れて行くつもりじゃ!」

 町はどこまで行っても人がいる。薄暗い裏路地もあったが、大通りに近いため人がいつ来てもおかしくはない。ピィは人気のない場所を探しながら飛んでいたが、どうにも町の中では見つかりそうになかった。忙しく目を動かしている最中も、ヨウがじたばたと暴れている。

「降ろせ! なぜわしがひよこなんぞに捕まらんといけないんじゃ! わしだって飛べるぞ!」

「……うるさい使魔ね。わかりました、草原の適当な場所に降ろしましょう」

 そう言うとピィは大きく旋回し、そのまま町の外の草原へと目指し飛んで行った。


 ピィは町からかなり離れた場所に降り立った。草原の遠くに町がうっすらと見える。

 降ろされたヨウは、ぶすっとした表情のまま着衣の乱れを整えていく。

「貴方がいきなりあんなことを言うから、こんな所まで連れてきたのよ。全て貴方が悪いんです」

「……なぁにぃ?」

 ぴたりと手の動きを止め、頬を引きつらせながらヨウが振り返った。明らかに怒っている。それでもピィは臆することなく言葉を続けた。

「当たり前じゃないですか。せっかく真一さんに対して、恩返しできる機会が巡って来たというのに……。事実を知ってしまったら、きっと真一さんはやめろとおっしゃるに違いないわ」

「そんなの当たり前じゃ。大会の勝敗は、相手が死ぬまで続くんじゃぞ。誰だって止めるに決まっておる! ……それを、第二段階のお主が出場するじゃと? ふん! 冗談にもほどがあるわい!」

 そう言うとぷいっと顔を背けた。一方で、ピィはまん丸と目を見開き驚いた。

「ヨウ……貴方、私のことを心配しているんですか?」

 すぐさま言葉に反応し、ヨウはすぐに振り返ると首を何度も横に振る。

「ちっ……違うわい!」

 慌てた様子でピィを睨み上げた。

「は、恥をかかせるなという意味じゃ! と、とにかく……」

 わざとらしく咳払いをすると、ヨウは真っ直ぐピィを見上げた。

「大会の出場なんてやめたほうがええ。出場せずとも、証が手に入る方法は必ずあるはずじゃ。……生かされた命を粗末にするものではないぞ」

 ピィはそれに対し何も言い返さず、すっと空を見上げた。遠くを見つめる黄色の瞳。そのまま黙り込み、ただじっと空を仰いでいる。

 それに釣られ思わずヨウも空を見上げた。

 真っ青な空。白い雲がゆっくりと流れていく。太陽は少し傾き始め、日差しも少し影を落とし始めていた。

「ヨウの言う通り、私は真一さんに命を救われました」

 ぽつりと、空を見上げたままピィは言葉を漏らした。

「あの時、真一さんはヨウの意見に逆らってまで私を連れて行ってくれた。本当に、感謝しきれません。言葉をしゃべることも飛ぶこともできなかった。それなのに、真一さんは優しく接してくれた。そして、この姿になってようやく意思を伝えることができるようになった。けれど、言葉では言い表せません。命をかけて守ろうとしてくれた真一さんに、私も行動でその気持ちを伝えたいんです」

 生まれた時、ひよこの姿は死を意味する。それが今では、空を自由に飛び回っている。風を切り陽を浴び、心行くまで飛び回る。その全ては真一のおかげだった。

 ピィは視線をヨウへと戻し、目じりを下げて言った。

「ヨウ。私は負けるとわかっていても戦います。それが私のできる、唯一の恩返しですから」

「……お主、そこまで」

 真っ直ぐと向けられる瞳に、迷いの色は見えなかった。じっと見下ろす黄色の瞳をヨウもしっかりと受け止める。

 数秒沈黙が流れたのち、ヨウはふっとため息を漏らし視線を落とした。

「……わかったわい。シンイチには黙っておこう」

「ヨウ……ありがとうございます」

「……ただし、出るからには負けてもらっては困る」

 それは当たり前――ピィがそのことを伝えようとした時、ヨウが顔をつんと上げた。

「証がかかっておるんじゃからな。じゃから今回だけ特別に、このわしが、練習相手をしてやるわい!」

 ふんぞり返り胸を張るヨウ。しかし、ピィは一気にしらけ半目でじっと見下ろした。

「……貴方に私の練習相手が務まるんですか? 私の嘴から逃げられなかった貴方が」

「馬鹿もん! わしが本気を出したら、ひよこなんぞあっという間に倒れてしまうわい!」

「よく言いますね。風にあおられたらすぐに落ちるくせに」

「……おのれ。言わせておけば……」

 それから間もなく、二人は自然と喧嘩――ではなく、練習試合を始めた。飛び合う風と悪口の中で、一羽と一人は時間も忘れ戦う。二人の目的は優勝し、証をもらうこと。第三段階の雛が集まることが予想できる中で、第二段階のピィがどこまで食い込めるのか――。

 ピィと対峙する中、ヨウは時折表情を曇らせる。

 第三段階の雛の姿を知っている。魔力は遥かに違い、また仕掛ける技も格段に違う。生か死か、それが勝負の分かれとなる大会で、それはまさに一瞬で決まってしまうかもしれない。それだけは避けなくてはいけない――せめてピィが心おきなく戦わなくては救われない。

 そんな風に考えていたヨウに、ある考えが思い浮かんだ。……しかし、それは本当に最後の手段だった。

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