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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
序章 旅の始まり
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【第四話】 置手紙

 先ほどまでの騒ぎが嘘かのように、再び道場に静寂が戻った。外は日差しがさんさんと照りつき、生ぬるい風が道場に吹き込んでいる。

「どうなったんだ……」

 真一は呆然と道場を眺めた。

「だから消滅したんじゃ。召喚されたもんが倒れると、跡形もなく消えるんじゃ。……こうなると地球に長くおるのは危険だの」

 ヨウはそう言い終えるとため息を一つ漏らした。しかし、真一はその言葉に首をかしげた。

「召喚? ……そういえば、さっきお前何か叫んで短剣出してたな。お前一体、何者なんだ」

「その話はアラウに行ってから嫌というほどしてやる。にしてもシンイチの攻撃、助かったわい。すまんのぉ」

「いや、それはいいけどよ……わけわかんねぇことが一気に起きて、整理がつかない。お前何か……」

「シンイチ」

 ヨウは真面目な顔をして、真一の前に出てきた。小さな羽根を羽ばたかせ浮いている。

「今言えることは、早くアラウへ行くことじゃ。今のカラスはおそらく何者かがわしを追いかけて召喚させたんじゃろ」

「お前を追いかけて召喚? ……だから、お前何者かって」

「説明すると長くなるし、何よりいつまたあのような魔物が来るかもわからん。何度も言うようじゃが、早くアラウへ行かねばならん」

 ヨウはゆっくりと床に降り立つと、小さな歩幅で歩いていき寝ている先生の手首に手を当てた。

「爺は気を失っとるだけじゃ。……正直あのカラスのことは忘れてもらわねばならん。シンイチが今からアラウへ向かうと言うならばわしの魔力でこの場を元に戻してやる。だが、行かぬというなら……また魔物に備えなければならん。シンイチ、理解するのは難しいかもしれんが急ぐことじゃ。わかってくれ」

 真一は倒れている先生と道場を交互に見た。自分が慕う場所、人がともに傷ついた。それは事実だった。

「……アラウに行って、お前の前マスターに会うのにはどれぐらい時間がかかるんだ?」

「さぁわからん。わしもなぜこのような場所に来たのか覚えとらんのだ。……もしかすると長くなるかもしれん」

「そうか……」

 真一は手に持っていた弓を見つめた。右手につけているかけも弓も丁寧に扱われているためか傷一つない。何か寂しそうな表情で呆然とする真一に、ヨウも申し訳なさそうに顔を俯かせると、ゆっくりと真一の肩に移動した。

「……親しい者と離れるのが寂しいか。すまんの」

「いや、俺に親しい者なんていねぇよ」

 そう言うと自嘲した。ヨウは思わず首をかしげ真一を見た。

「……ただ審査で俺に期待してくれた先生に申し訳なくてさ。夏休みが終わるごろに審査があるんだけど……間に合わねぇだろうな」

 そう言い終えると、真一はひざまずき右手につけていたかけをはずし始めた。

「学校はだるかったし、行けなくても丁度いいな」

 はずし終えると綺麗に紐を丸め、かけ袋の中に収めた。そして、弓を手に取ると弦をはずし、その弦をくるくると弓に巻いた。そして足早に自分の荷物の中から弓巻きを手に取り、弓をぐるぐると巻き始める。

「これ以上ここにいて、またあんな奴が道場を壊しに来たら嫌だし、先生を気絶させたくはねぇし。……それに早くお前から解放されたいし」

「……シンイチ、じゃあお主……」

 綺麗に布に包まれた弓とかけ袋を持ち、にやりと笑いながら肩にしがみついているヨウを軽く叩いた。

「行こうぜ、アラウへ」


    ◇    ◇


 先生ははっと目を覚ました。なぜ気を失っていたのかわからない、という風にしばらくぼうっと道場を眺めている。

 道場はいつものように静かに、誰か的を射るのを待っている。ふと、先ほどまでいたはずの真一がいないことに気がついた。探すべく廊下に出た時、自分の弓が置いてあるその下に小さな紙切れを見つけた。読んでくれとでも言っているかのように、丁寧に二つに折られている。先生は迷わずそれを手に取った。


『先生へ、少しの間遠い場所へ行くことになりました。直接先生に伝えることができず申し訳ありません。先生の弓とかけは見ての通り傷なく無事でした。それと、お願いです。どうか先生が見たものを他の誰にも伝えないでください。あんなものはこれから来ることはないですので、他の誰かに言うと大きな騒ぎになります。どうかよろしくお願いいたします。それともう一つ、遠い場所へ行くにあたりいつこちらへ帰るか未定です。心配は無用ですが、審査に間に合うことができるのかわかりません。先生がこんな俺に期待してくださったこと、本当に嬉しかったです。先生は俺にとって、本当に尊敬できる人です。どうかお体に気をつけてください。いつか必ず道場へ顔を出します。その時先生に会えることを楽しみにしています。萩野真一』


 丁寧な字だった。先生はしばらくその手紙に目を落としたまま、弱く笑った。そして二つに折りなおし、大事そうに懐へと納めた。誰もいない弓道場。先生しかいない道場。それでも先生は再び弓を引く準備を始めた。

 いつもと変わらない風が吹き抜ける。先生は何も言わず、颯爽と道場へと出て行った。


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