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弓道好きの高校生と召喚遣いの妖精  作者: ぱくどら
第四章 山岳の町ガナオン
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【第三十三話】 暴露

「……マスク! いつからここにいたんだよ」

 少しだけ息を切らしつつ、真一は山を駆け下りた。

 草原は思ったよりも背が高く、真一の腰ぐらいまで伸びていた。吹く風は止むことなく、暖かな風が心地よい。その気候と久しぶりの再会に、真一の表情も自然と和らいでいった。

「……久しぶりだな、ハギノ」

 はっきりとした口調でマスクは応えた。が、顔は俯き加減のままで全体の表情までは見えなかった。ただ口元だけが笑っている。

 マスクはズボンのポケットに手を入れて立ち、相変わらず白い仮面が顔半分を覆っている。水色のシャツとズボンはそのままで、別段変わったことはなかった。――しかし。

「いつまで茶番を続けるつもりだ?」

 いきなり聞きなれない声が真一たちの耳に届いた。真一の口から思わず、えっ、という言葉が漏れる。マスクの声よりも少し高い声。この声の主は一体誰なのか。真一は忙しく辺りを見渡した。後ろ、左、右――しかし、どれも草原が広がるだけで人の姿など見えない。

「お前は相変わらずせっかちだ。……気づいてしまったではないか」

 ふふ、とマスクは口元を緩ませにやりと笑った。

「ま、マスク……お前誰と話してんだ」

 顔を俯かせたままのマスクを不審に思い、真一は一歩踏み出し近づこうとした。――明らかに様子がおかしい。

 しかしその時、後ろから胴衣を引っ張られた。振り返るとヨウが眉間に皺を寄せたまま、マスクを睨みつけていた。

「……その声聞き覚えがある! 誰じゃ!」

 そう言うと、視線を下げていたマスクはすっと視線を真一へと向けた。冷たい視線だった。何の感情も持っていないような、真一を見据えた目。一瞬にして、その場に釘付けされたような感覚になる。視線さえ逸らすことができず、目が合えば心の中まで見られているような気がした。何か異様なものを感じ取り、真一はごくりと唾を飲み込む。

 ヨウも何かを感じ取り、すぐさま真一の斜め前へと移動した。真一を庇うかのように両手を広げるヨウ。マスクを睨みつけ警戒心を露わにしていた。

 が、マスクはヨウの声に反応を示さなかった。使魔の声は契約を結んでいる人間のみしか聞こえない――そのことを知っていた真一は、マスクの鋭い視線から目を離し、ヨウに声をかけようとした。――が。

「覚えていたか、ヨウ。……とすると、余計な記憶はもう蘇ったのか?」

 再びマスクの方から、マスクではない声が聞こえたのだ。ヨウへと向きそうになった顔を再びマスクへと戻した。マスクの横、後ろ、周りを人がいないか確かめたがやはり誰もいない。

 そんな様子を見たマスクは、ふっと笑みをこぼした。

「紹介が遅れたな、ハギノ。では紹介しよう……」

 そう言いながら、ゆっくりと白い仮面に手を伸ばすマスク。少しづつずれていく白い仮面。マスクは笑みを崩さぬまま、じっくりと仮面を動かしていく。

 白い仮面が顔から取り払われた。と同時に、そこから何かが飛び出す。そして、仮面の下から見えたものは真っ黒な空洞だった。

「なっ!」

 目を見開き、真一とヨウは思わず声を上げた。

 マスクの顔半分が欠落していた。本来あるべきはずの頬や目がなかった。肌色の顔を持ちながら、半分では真っ黒な穴。信じられない光景に、真一は言葉を失った。

 一方で、マスクはその様子に満足しているかのように、笑みを崩さなかった。

「ふふ、そう驚くな。慣れればどうということはない。……そうだろう、トグ」

 片目の視線がすっと上空へと向けられる。釣られて真一とヨウも見上げた。

「慣れる慣れないの話ではない。そこは俺の檻だ。窮屈すぎてたまらん」

「……えっ!」

 真一はその姿に息を呑んだ。

 姿形、全てがヨウにそっくりだった。金色の髪に幼い顔。ただ、ヨウのようなくりっとした目ではなく、どこか流すような冷たい目。そして、背中についている羽も塗りつぶしたような黒だった。マスクからトグと言われた使魔は、視線をそのまま真一たちへと移した。黙ったまま真一を見た後、ヨウを見下ろした。

「思い出せたか? それとも……命が惜しいがために、忘れたフリをしているだけか?」

「お前は……あ!」

 そう叫んだ瞬間、ヨウは目を大きく見開いた。トグを見上げたまま微動だにしない。瞬きを忘れたように、そこに固まってしまった。

「……どうした?」

 固まるヨウを心配し、真一は手を伸ばし声をかけた。触れようとしたとき、ヨウの小さな肩が震え始めた。真一は思わず手を止める。

「思い出したぞ。貴様ら……姫に何をした!」

 ヨウは怒声を上げると同時に、鋭い視線でトグを睨みつける。その横顔は今まで見たこともない険しい表情で、唇を噛み締め真っ直ぐトグを見上げていた。一方で、トグとマスクは驚く様子もなく平然と立っている。トグはふんと鼻で笑うと、マスクの顔の位置まで降りてきた。マスクは再び白い仮面をつけ、真っ直ぐ真一たちを眺めていた。

「思い出したのなら説明することもあるまい。どうして再び俺たちが目の前に現れたのか、その理由がわかるだろう? なぁヨウ」

「……わしは、姫がどうなったのかを聞いておるんじゃ」

 笑みを見せるマスクとトグ。一方で険しい表情のままのヨウ。真一は少しでも事情を理解すべく、再びヨウに手を伸ばし、その肩を掴んだ。

「おい、お前何を思い出したって言うんだよ。ちゃんと説明しろ」

 肩を掴まれたヨウは顔を少しだけ後ろに向けた。向けられた顔も眉間に皺を寄せ、怒っているようだった。

「……簡単に言えば、あやつらは悪じゃ。許してはならん」

「は? 意味わかんねぇよ。なんでマスクが悪なんだ。あいつ、俺らを助けてくれたじゃねぇか」

 すると、ヨウは身体を真一へと向けた。

「それは隙を突くための作戦じゃ! 騙されちゃいかん! シンイチ、あいつらはな……!」

 続きの言葉を発しようと、ヨウが口を大きく開いたその時だった。

 突如、ヨウの後ろから赤い光が強く発光した。陽は高く上っているはずったが、後ろから光を浴びるヨウに影ができるほどだった。それには思わず口を閉じ、二人同時に視線を移す。そこには、真っ赤な光の玉を作り上げたトグがいた。真っ直ぐ手を向け、無表情のまま口を開く。

「黙れ」

 その言葉と同時に、真っ赤な光の玉が二人に向かってきた。玉のスピードは速く、あっという間に目の前まで迫る。――しかし。

「インディションサモン!」

 両手を前に突き出し、叫んだヨウの手元から水のような青い透明な壁が出現した。真っ赤な光の玉がぶつかると大きく波打ち、突き破ることなくそのまま真っ赤な玉を消滅させてしまった。力んでいたヨウの腕だったが、それを確認するや否やすぐに下ろす。すると、青い透明な壁はまるで水のように一気に地面へと落ちていった。

「き、貴様ら……」

「余計なことを言わなくてもいい。ハギノには関係のないことだ」

 はっきりとした口調で、マスクが声を上げた。先ほどまで笑っていた顔はなくなり、冷たい視線でこちらを見ている。何も感じられない無表情な顔。真一の背中にぞくりと悪寒が走る。

「ま、マスク! 意味わかんねぇよ、ちゃんと説明しろよ!」

 握っていた弓をぎゅっと握り締め、一歩踏み出した。恐怖心がばれないよう、大声で叫んだつもりだったが少し声が震えていた。

「……ハギノに問いたいことが一つ」

「な、何だよ」

 が、マスクは表情を変えることなく抑揚のない声を発した。何も感じられない瞳に見つめられ、真一はその場に立ち尽くした。一体何を問われるのか、マスクが口を開くまでのほんの数秒が長く感じられる。

 マスクは視線を逸らすことなく、ゆっくりと口を開いた。

「見ぬ振りをし友を捨てるか、それとも、向き合い共に命を落とすか……どちらを望む?」

 少し見下すような目線。真一に圧力をかけるよう眼力。端を釣り上げ笑う口元。

 ――目の前にいるのは以前のマスクではない。

 知っているマスクの姿とは全く違う様子に、真一は軽い眩暈が起こりそうだった。何といえばいいのかすぐに言葉が思い浮かばず、何か言わなければならないと口だけが開いていた。

 しかし、マスクは答えなど待つつもりはなかった。うろたえる真一の姿を満足そうに眺めた後、両手を真っ直ぐ横へと伸ばしぐっと拳を握り締めた。

「まずは、ヨウ……貴様を処分する」

 今から行うことを楽しみにしていたのか、マスクの目を細めた顔は喜びの何者でもなかった。

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